第45話 「神気」修得への道

 「魔大陸」を離れて内海上空を過ぎたあたりでカーリーさんの一団の気配を察知する。

 たかが半日ぶりだから皆んな元気で当たり前なんだけど、無事に「ミラジェ」に向かっていることにちょっとホッとする。

 

 何か深い考えがあってのことではないんだけど、「勇者」認定を受けた人たちには、少なくとも自力で「ミラジェ」に辿り着いて欲しいと思っている。

 何というか、大師匠お二人に稽古をつけてもらう最低条件かなという気がするからだ。

 過酷な環境を越える過程で、自分の力の使い所を知り、特性を把握し、精霊を感じ取る感覚に磨きをかけて、五感そのものを研ぎ澄ます。短い時間で大師匠の元に辿り着いている俺が言うのも何だけど、この下地は厚みがあった方が良い。


 だから、「フィアー」への道すがら知り合いになったとは言え、カーリーさんたちだけ拾って行くのは違う気がして。

 気にはなるけど近づくことをせず、「ミラジェ」に向かって最短距離を飛ぶことにした。


 今はこうして飛行による移動に頼っているけど、母さんやカーリーさんの導き手のキヨさん、他にも恐らく転移魔法を使いこなせるだけの素質を持つ人材はそれなりにいるはずだ。

 いずれ「使徒」どもと対決し、ダンジョンシステムの真相解明を含めて問題を完全に解決するためにはこの転移系魔法や能力は必須になる。

 できれば俺も「神気」修得と転移魔法含めた空間魔法の熟達をできるだけ早い段階で目指したい。

 

 「街が見えたわ!」

 そんなことを考えながら飛んでいたら、いつの間にかミラジェに到着していた。無意識で必要な行動をしてしまうのは残念ながら社畜時代に身についた能力だ。

 役には立ったけどあんまし嬉しくないなー。


 そのことは二人には関係無いし、俺たちの気配を察知して出迎えてくれたカムイランケ大師匠とグルヴェイグ大師匠、カンヌさんとミコさんに悪いから表情には出さんとこ。


 「タイ!ベラ!!よう帰ってきたのぉ!」

 グルヴェイグ大師匠が本当におばあちゃんみたいにその長身で包み込むように二人をいっぺんに抱きしめる。

 「わざわざお出迎えありがとうございますお師匠方。カンヌもありがとう。心配かけたな。こちらの方がトールの導き手かな?」

 父さんがお礼を言う。ミコさんのことも気にかけてくれた。


 「初めまして。神託によりトールちゃんの「導き手」の指名を受けました。ミコと申します。お二人のお話しはお師匠方からお聞きしています。お会いできることを楽しみにしていました。ご無事の帰還、何よりです。」

 ミコさんが祝意を含めて挨拶を返す。

 「あら〜♡こんなかわいいお嬢さんがトールちゃんの「導き手」をしてくださってるの?なんだか申し訳無いわねー。

 カンヌ、あんた悪さしてないでしょうね!?このフラフラパラディン!」

 母さんも嬉しそうにミコさんと挨拶を交わしつつカンヌさんにダル絡む。

 ニコニコしてるカンヌ師匠。皆んな和気藹々で良かった。


 「やはり見込んだ通りじゃったの。

 して何か収穫はあったかの?」

 カムイランケ大師匠が確認して来る。


 「はい。

 戦うべき相手が見定まりました。

 ・・・この世界の神々のうち、「人種」に「魔物の王」討伐という苦役を課し続けている一柱の「神」に挑む事になります。

 まずはこの地に集う「勇者」全員が強くならねばなりません。

 大師匠の培ってきた武の知識をお授けください。また今日からよろしくお願いします。」


 「ホッホッホッ。「神」が相手とな。そりゃぁ豪気だの。ワシでは荷が勝ちすぎるのと違うか?」

 カムイランケ大師匠が言う。

 その割には「やってやるよ」オーラ出まくっているけれども。


 「如何に能力で凌ごうとも、大師匠や他の導き手の方が積み重ねてこられた「武」の歩み、その知識は、危機を迎えた時にこそ打開のヒントを我々若輩にもたらす筈です。

 自分の力も、大師匠たちが積み重ねてこられたものも、全て携えて「魔物の王」に、「神の使徒」に、そして「神」に挑みます。そして、勝ってみせますよ。そのためにここに戻って来たんですから。」

 俺は大師匠に宣言する。


 絶対に「過信」はしない。

 最終的には「神」に挑むのだ。

 簡単に相手が格上である先入観を拭い去れはしないし、まだまだ「勝つ」だけの確信も持てていない。


 でも、負けられない。

 これ以上、思い通りに操られ、踊らされ、騙され続けるつもりは無い。


 「・・・「男子三日会わざれば刮目して見よ」か・・・。どうやら揺るがぬ信念を見出したようじゃの。

 もとより出し惜しむつもりは無い。お主と他の「勇者」の成長は我が使命よ。」

 と、不意に俺と大師匠の傍の空間が歪み始める。二人して構えかけたが、先に俺がカムイランケ大師匠に手で制止するように合図を送る。これは味方だと。

 現れたゲートからラファウが姿を見せる。


 「さすがのタイミングだなラファウ。こちらはカムイランケ大師匠。ここまで俺を導いてくださった武術の師匠だ。

 改めて「神気」についてラファウから教えてもらいたい。」

 

 俺の頼みにラファウが応える。

 「カムイランケ様、並びにグルヴェイグ様。ここまでトール様をお導きいただき私からも感謝申し上げます。

 改めてまして、私は元天使のラファウと申します。僭越ながら「神気」についてトール様、また素養のある皆様への指導を担当させていただきます。以後お見知り置きを。」


 いつのまにか父さん母さんの元からこちらに来ていたグルヴェイグ大師匠が問う。

 「「元天使」と申されましたかな?一体何故「天」の座から。」

 最短距離で核心を突く。

 こういうとこだ。この大師匠方が貴重なのは。


 「・・・トール様にお仕えすることは、私という存在に与えられた「使命」である確信したからでございます。

 「神」から力を与えられた存在でありながら、自らその御許を離れるなど矛盾した行為に映ることと思いますが、立場を捨てる行為を持ってしか、この使命に全てを捧げる覚悟を信じていただけないと考え即断致しました。」

 ラファウも迷いなく答える。


 その迷いの無うさに、グルヴェイグ大師匠の眉が上がる。

 「・・・なるほどのう。真の勇者の下には然るべき存在が集うということか。

 ならばその覚悟に敬意を示さねばなるまいて。よくぞ現世に顕現された。天使殿。」


 「ありがたいお言葉です。

 皆様のお力になれれば幸いです。」

 ご謙遜のラファウさん。


 「じゃあ、顔合わせも済んだところで早速始めますか!」

 俺が修行開始を宣言する。



ーーーーーーーーーー



 「「神気」とは。

 トール様に語るならば、「仙気」と比較するのが良いのでしょう。

 「仙気」とは、「闘気」・「魔力」・「精霊力」が高次元で融合したもの。

 それだけでなく、己の命の器であるを超えて他の命、大地や海や空を含めたもの、これを「星」と呼びますが、「星」の力その物を我が物とするのが「仙気」の真髄と言えます。思うだけで飛翔できる力などはその良い例でしょう。

 ただし、「仙気」が扱えるのは「星」の表面的な力ここまで。

 とは言え、「星」との融合が成せるだけでも一個の生命が扱える力と比べれば圧倒的です。だからこそこの先が難しいのですが。


 「神気」とは、まずその先の世界を扱う力だということを理解できないと、自分が扱う力を正確に把握できません。今、自分がどのような規模の力を扱っているのか分からなくなりますから。

 「星」やその先の世界。それを理解し、思い浮かべ、視覚的に描くように、自分に把握できるものとする。

 (この世界のそもそもの住人では無い)トール様ならば、理解が及ぶのでは無いですか?」

 ラファウは確信している。


 ま、当然分からない訳じゃない。

 でもね。実際自分が扱う力の規模としてはイメージしづらい。

 でも、大体こんな感じだろ?ってくらいなら理解できてると思う。


 「私がサポートした、グルヴェイグ様との手合わせ。あの時の術への理解度が、「神気」の理解を深めるポイントです。」



 

 

 

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