第46話 「神気」の本質

 ラファウがくれたヒント。

 グルヴェイグ大師匠が、「流星召喚」と呼ぶ術式を使ってきたあのシーンだ。


 「グルヴェイグ大師匠。

 「流星召喚」という術は、どの様な構造なのか教えていただくことはできますか?」

 俺は直球で聞いてみる事にした。


 「ふむ。ということは、お主は一部分だけ応用して上手くいなしたという事になるのかの?迎撃までがワシと比べてかなりシンプルじゃった。

 なるほど、面白いの。ここがラファウ殿の言う「理解」の差と言うことか。」

 グルヴェイグ大師匠があの時の状況を分析してくれた様だが、いささか要領を得ない。


 「ああ。すまんかったの。勝手に納得してしもうた。

 あの術は三段階の構成じゃ。まずは呼び出す座標を指定し、次に距離を縮めることと「窓」を作ることをやり、最後に引き込む。

 お主がやったのは座標の指定と「窓」を作ることだけじゃったな。

 だが術を開発したワシにしてみれば、してやられたとしか思わんかった。まんまと術の穴を突かれた感じでの。」

 グルヴェイグ大師匠の率直な感想。分析と解説。あざす。


 「物言いが失礼に聞こえるかもしれませんが、グルヴェイグ様の観察力と分析力、そしてそれらから得られる推測の正確さと術式構成の正しさ。賢者と呼ばせていただくに相応しゅうございます。

 よくぞ現世において、この環境においてここまで辿り着かれたものです。

 貴女様がトール様の先人として今世におられることも、また運命なのでしょう。」

 ラファウが手放しでグルヴェイグ大師匠を賞賛しまくる。


 確かに、前世の科学に裏打ちされた知識が無ければ、夜空に浮かぶ「隕石」の存在をまず認識できないし、様々な偶然から夜空にその様なものがあると理解できたとして、引き寄せた上でその質量を利用して攻撃しようなどという発想そのものが浮かぶだろうか。

 この世界にもそれなりの大きさの隕石が落ちた記録や伝承があったのかもしれないが、それにしてもだ。


 「古代の記録に「空から火の玉が落ちてきて、凄まじい破壊を齎した」と読み取れるものがあっての。

 調査や夜空の観察を繰り返し行った結果、どうやら史実らしいことが分かった。見上げる空の遥か向こうとは言え「ある」のであれば干渉できる。そう考えて取り組んでみたのじゃ。

 まぁ、お主にはあっさり防がれたがの。」

 グルヴェイグ大師匠も術式開発の工程を裏付ける説明をしてくれる。照れ隠しに俺への文句もおまけして。

 

 「お二方には説明が容易い。つまり、我々の住む「星」以上の存在が、星の外の世界にはあり、その広大な世界をどこまで感覚的に捉えられるかによって、どのレベルで「神気」を会得できるかが決まります。

 私は元天使ですが、天使には振るうことができる「神気」のレベルによって、明確に階級分けがなされています。

 ちなみに私は、天使の階級としては最上位です。」

 ラファウさん。そのつもりは無いんだろうけどプチ自慢だな。最後のそれは。


 「ふむ。そうすると、「神気」とはこの「星」の外を理解する力であり、世界の理を悟る力と捉えて良いのかの?」

 グルヴェイグ大師匠が「神気」の核心に迫る。


 「そこに「大きさや距離、時間を超えて存在を認識する力」も入るのかな?」

 俺なりの解釈も加えてみる。


 「お二方とも素晴らしいですよ。イメージの方向性は合っています。

 では、第一段階として、一つの試験をさせていただきます。

 ここで、修得の適性についてはほぼハッキリします。

 ただ、今回は私が精神的に「保護」プロテクトをします。試験が始まった後で適性が無かったとなると、その時点でしまいかねませんので。」

 剣呑なことを言うラファウさん。

 「心が壊れる」って。


 察したようにラファウが話を継ぐ。

 「「コエーからサラッと言うなよ」ってお顔をされていますね。

 怖がっていただいた方が良い。文字通り人外の領域です。「神」の領域な訳ですから。同時に、「神」であることは「人」ではなくなることの本質的な部分の理解に繋がると思います。

 これまで「神」の座に登り着いた者が、引き換えに失ったものは何なのか。お考えいただく機会でもあります。

 トール様は確定ですが、他はどなたがお試しになりますか?」


 グルヴェイグ大師匠が手を挙げる。

 「保険付きならば、自分で言うのもなんだがワシが適任じゃろ。

 天使殿、「神気」会得と理解には、現時点での能力はあまり関係がないと考えてよいかの?」


 「ご明察の通りです。ただし、肉体的な「力」とは異なる感覚領域であることと、エネルギーとしては桁外れのため、「修行場」に辿り着ける様な武術・魔術の熟達者であることは一つの目安になると考えます。

 もちろん、天賦の才を持つ例外もいるにはいますが。」

 ラファウが答える。


 「戦力が高くなる事に問題は無いんじゃ。この際行けるやつは取り敢えず行ったらどうじゃ?」

 いつの間にか来ていたカムイランケ大師匠が大胆な意見を述べる。

 でも、皆んな満更でもないようだ。

 まあ父母含めてここまで来れる人材たちだからね。


 俺が代表してラファウに提案する。

 「どうやら皆んな、一度試してみたいようだ。一気にこの人数は難しいか?」


 「いえ。問題ありません。

 確かに、どなたに適性が眠っているかまでは私でも分かりませんから。

 分かりました。

 「神気」修得の適性試験、謹んで執り行わさせていただきます。」



ーーーーーーーーーー



 「今から皆さんの精神、正確に言えば魂の部分に「保護」プロテクトをかけます。

 何の変化も感じないと思いますが。

 はい。終わりました。」

 なんて事はない風にラファウが言う。


 ラファウが続ける。

 「では、今から皆さんには初めての体験をしていただきます。もちろん、これ自体が適性試験でもあります。

 一つだけ忠告させて頂きます。

 皆さまにかけた「保護」プロテクトですが、一種の制御装置です。

 皆さまの中で精神的な限界に近づいた方は強制的に眠らされます。決して抗わないでください。

 眠ってしまう段階が皆さんの「神気」適応レベルの上限です。眠ってしまうレベルの「神気」は使いこなすことはできません。

 もしかすると、試験開始直後に意識を失う方もいるかもしれませんが、周りの方は決して頑張らせないでください。私がケアしますのでご安心を。


 ではまいります。

 まずはレベル1です。」



 

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