第44話 じゃあみんな、抜かりなく頼む

 ラファウの知識にデリンジャーさんの分析を加えて、対「魔物の王」、対「使徒」、対「変質した神」の基本方針と行動計画が練られていく。


 まず、俺と父さんと母さんは「ミラジェ」に向かう事になった。

 もうすぐ集う勇者の資質を持つ者たち、彼ら全員をできるだけ早く「仙人種」に存在進化させるためだ。

 父さんと母さんは「導き手」では無いが、カムイランケ大師匠とグルヴェイグ大師匠の直弟子だ。

 無事の帰還を報告するのと併せて、戦闘技術の指導の手助けをしてもらう。


 デリンジャーさんとピルスナーさんには、それぞれの立場を活かして各国への根回しをお願いした。

 具体的には、情報収集に少しテコ入れをしてもらう。


 コアの変化ばかりに注目しがちだったが、既存のダンジョンについて、密かに再調査の協力要請を行い、構造的な部分からダンジョン情報の再確認を徹底的に行うのである。

 これは、予想が正しければ「魔物の王」の早期発見に繋がる。

 既に諸王会議で各国間の協力は確約されてはいるが、静かに、でも確実に数と質を上げて調べ尽くそうという考えだ。

 ピルスナーさんにはギルド人脈をフル活用してもらい、この部分に注力してもらう。未発見のダンジョンなどが把握できる事にも期待したい。


 また、これまであまり注目されて来なかった、世界中に点在する遺物遺跡の類の再検証も進めてもらう事になった。

 遺された物の検証も大切なのだが、ラファウの話を受けて、合理的に考えれば遺されている筈なのに、「」を、遺されている物から逆説的に辿るという試みを行うことになった。

 この部分にはデリンジャーさんの力が必須だ。


 そして、ラファウにはこの二組、調査研究と修行の双方に関わってもらう。

 情報収集の過程で万が一「使徒」が動いた場合は第一次的な対策も担ってもらう。

 まあそうならないように冒険はしないで慎重を期してもらうけどね。


 新たな事実が判明すればラファウを経由して即座に情報共有の体制を取る。

 定期報告が無ければ何かあったと想定してアクトーのギルド庁舎に集まる。


 これまでを大きく上回る短さで「勇者」が力を付け、完璧な形で「魔物の王」討伐を成し遂げる。

 これが、これまでと比較にならないほど容易く行われたとすると、恐らく「使徒」が動く。使徒の手に負えなければ、「神」も。

 つまりこの部分は、三連戦を想定する必要がある。

 使徒と神の力が未知数だ。

 そのための準備を抜かりなく行う。


 「じゃあ皆んな、抜かりなく頼みます。」

俺は仲間たちに告げる。皆んな頷き、目配せしながら執務室を出て行く。


 最後に部屋の主人であるピルスナーさんが一人残る。俺は別れ際の挨拶をする。

 「今日は色々お世話になりました。またすぐに顔を出します。その時にはもう少し強くなって帰ってくる予定です。」


 「ハハハッ。そうなるんだろうね。こちらは質の低い人海戦術にならないように、精一杯情報収集に努めさせていただくよ。

 もちろん、期待には応えて見せるよ。」

 ピルスナーさんは決意を語る。この人なら、この会話の間にも対策を考えているはずだ。

 智略、先読みの能力は、恐らくデリンジャーさんに引けを取らない。

 人種は、この時代にピルスナーさんとデリンジャーさんという名参謀二人がいることを、後々幸運に思うことになるだろう。


 「お願いします!」

 俺はギルドの外に向かった。



ーーーーーーーーーー



 「ラファウ。こちら側に来たことで「俺」との遠隔通話のシステムは使用不能になったのか?」

 監視・サポート・連絡と多岐に渡って役割を担うラファウに確認する。

 同じシステムが構築できれば、かなり有利だからだ。


 「ええ。現在は解いています。

 「組織」が構築したシステムですから、万が一でもこちらの動きを盗み見られる事がないように、我々独自のネットワークを再構築する必要があると考えています。少しお時間をいただければ、問題なく再構築致します。」

 と、ラファウは答える。


 「頼むよ。まだその必要性が高くないだけで、情報が集まるに従って素早く精査しなきゃならなくなる。

 情報戦はこの戦いの肝だ。

 俺は、可能な限り短期間で勇者全員を「仙人種」に進化させる。

 俺自身は彼らの進化達成と並行して、ラファウが教えてくれた「神気」の扱いに可能な限り早く辿り着きたい。

 当面どちらともバランスを取らなきゃならなくなるから大変だけど、長距離転移はラファウしかできないから頼む。「導き手」にそっちの才能に高い人がいれば積極的に回ってもらうから。俺が「ミラジェ」に着けば「仙気」を追って補足できるだろ?まずはその段階で一度来てくれ。」

 ラファウに無理言ってお願いする。


 「もろもろ了解です、トール様。

 トール様に「神気」を会得して頂くことは私にとっても最重要課題ですので。

 最速で成し遂げていただきます。」

 ラファウも応える。


 父さんと母さんがやってきた。どうやら準備万端のようだ。

 まずはこれから共同戦線を張る事になる「勇者」たちと良い関係を築かなくては。まぁ修行してまで世界を救おうって連中だから気が合わないとか心配して無いんだけど。

 できれば誰一人欠けて欲しくない。いや、それはさせない。


 「ハハハッ。気負うなトール。俺はお前が成し遂げることを確信してる。だって俺たちを救ったじゃないか。」

 「そうよ。10年信じて待った甲斐があったもの。うちの息子は世界一の勇者なのよ♪ドンと来いよ。」

 父さんと母さんが励ましてくれる。

 そうだな。

 俺ならやれる。

 頼もしい仲間もいる。

 後はやるだけだ。

 行こう!

 

 仙気を纏って父さん母さんと手を繋いでで舞い上がり、ラファウに手を振ってから一路「ミラジェ」を目指す!

 



 





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