第42話 元天使かく語りき(後編)
ラファウの独白は続く。
「当時の「人種」は、この生物兵器に屈しました。
巨大な建物を築き、極めた技術で自らを進化すらさせた彼らも、それらを一瞬で灰燼に帰す「魔物の王」の暴力に抗いきれ無かったのです。
これにより、その当時の文明、人種そのものも一度滅びかけます。
ただそれは、神々が容認しませんでした。
簡単に滅びを迎えることを、です。
驕り高ぶった不遜なる者に贖いを全うさせるべし。
生き残って繰り返し「魔物の王」という災厄に苛まれること。それこそが唯一の神への償いだと断じた訳です。
結果、神々は自ら「天罰」を与えた「人種」に「魔物の王」と互せる程度の対抗手段を与えます。それにより、最初の「魔物の王」は斃され、「人種」の存在は、首の皮一枚で繋がりました。
・・・矛盾する行為に思えますよね。
なら「天罰」など与えなければ良いのにって思ってしまう。
神々にも「矛盾」があるとでも言えば良いのでしょうか。
失礼しました。話が逸れましたね。
神が与えた対抗手段とは「賢者の石」。
そう。トール様の額に輝くそれは、正しくは「賢者の石」と呼ばれるもの。
世界の記憶と呼ばれる全知の領域「アカシャレコード」へのアクセスを可能にし、あらゆるエネルギーを媒介できる奇跡の結晶です。
正しく力を引き出しさえすれば、「魔物の王」に十分対抗できるものであり、初回の使用者に対しては、ある一柱の神が一度限りの使い方を伝えています。「お告げ」を利用して。
以降も神々は、「賢者の石」を与えこそすれ、正しい使い方を教えることはしなかったんです。
試行錯誤段階で「人種」が数を減らそうとも、特に何もしませんでした。
神々の不興を買った、それも「人種」の試練であるから、というのが理由のようです。
しかも、その石が「人種」に与えられる割合は・・・。申し上げにくいのですが・・・。
神々の気まぐれで決められています。
そう。例えるなら賽を投げるかのように決めるのです。あるいはクジでも引くように。
・・・私からすれば、本当に心苦しいことなのですが。
今世の勇者に「石」を持つ者が多いのは、ただの偶然です。
また、「勇者」とは皆さまがご存知の通り、鍛え上げれば「魔物の王」に一矢報いることができる可能性をその身に宿す者。
その時代に清き強き魂の持ち主がいれば、神々はその肉体と魂に恩寵を与え、潜在能力を大きく引き上げます。
当然、対「魔物の王」戦力としての恩寵ですから、「魔物の王」の出現時期を見越して選ばれた者に与えられます。「魔物の王」出現に合わせて「勇者」が生まれる理由でもあります。
余談ですが、初回の出現時に次いで犠牲の大きかった、現時点から遡れば3000年前の危機の際は、「賢者の石」については初回出現時と同じ使用方法が取られています。
それは、一人の「勇者」が奇跡の力を発現し、その尊い犠牲によってたった一人で「魔物の王」を討ち取ったとされている逸話。
皆さまにも記録として伝わるそのお話、実態としては「賢者の石」の力を強制解放させて「魔物の王」と相打ちさせると言う、凡そ「人種」の命を軽んじなければできない選択の結果でした。
「お告げ」を都合よく利用して、それしか手段が無いかのように、勇者の自己犠牲の精神を引き出して、自主的に「特攻」を選択させる。
そこまで無慈悲に人種の命を弄ぶ様な真似をしてでも、神の力は都合よく使われるべきでは無いという神の矜持みたいなものでしょうか?
正直共感できないので分かりませんが。
「人種」を救ったその勇者の魂は、文字通り全てを燃やし尽くしたために生まれ変わることすらできませんでした。
これを機に、正しく勇者を鍛えあげるための人材として、勇者と比べれば絶大なものでは無いですが、常人には比肩できない恩寵を与えられた「導き手」と呼ばれる存在も勇者同様に世界に生まれてくることになりました。
ここでも都合よくお告げを利用して。
要は、「勇者」も「導き手」も神々のご都合主義の結果生まれ矛盾を、命懸けで神々の意図する結果へと調整させられる役割でしかありません。
そもそも「魔物の王」など自然に生まれたものでは無いわけですから。
もう十分に償った。
「人種」は精神的に大きく成長したと判断して、試練を終了させれば良い。
そんな風に考えを改められないのかと思います。
でも、悠久の時に在る神にとっては、「人種」の記録では遡れぬほどはるか昔の行為ですら、意識としたらまだ昨日のことなのです。日頃は意識すらしないのに。
私は、「人種」の心に寄り添いたい。
命を尊び、生きる喜びを分かち合い、
次の世代を慈しむ貴方方に寄り添いたい。
形式主義に陥り心を失い形骸化されてしまった神々の
長くなってしまって申し訳ありません。
そして、貴方の疑問への答えが酷く渇いたもので本当に心苦しいですが、「「人種」が犯した過ちを贖う方法として、神々が決めたから」というのが、「勇者」が圧倒的に不利な状態から戦いを始めねばならない理由であり、背景です。
・・・ずっと溜め込んできたものを吐き出せてスッキリしました。
皆さまには不愉快な思いをさせたことと思います。改めてお詫びさせていただきます。
私はこの世界の真実を知りながら今日まで皆さまに寄り添わなかった一人。
大変申し訳ございませんでした。」
ラファウの独白のような、デリンジャーさんの問いに対する答え。
デリンジャーさんは少しだけ間を置いて
「ラファウさん。
と答えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます