第41話 元天使かく語りき(前編)
ギルド内にあるピルスナーさんの執務室に戻った。
当然だが、ラファウも付いて来ている。
俺から一歩下がった位置。
できた女房のような位置どり。
・・・この女。わざとだな。
さっきのやり取り引き合いに出して、「え?家族になれって、嫁にするって言いましたよね?責任とってくれるんですよね?」とか言い出さないよな・・・
「えーと、トールちゃん?
そちらの見目麗しいお嬢さんはどちら様?」
実母が問うてくる。
一人頭冷やしに外へ出て、女連れで戻ってくりゃそうなるよね。
皆うんうん首が動いて激しく同意している。
「えーと、彼女はラファウ。
元俺専属の秘書でこれからは戦闘の実技指導をしてくれる新しい師匠です。
元天使でむちゃくちゃ強いから見た目で判断しない方が良いですよ。」
俺は包み隠さず皆に紹介する。だってラファウがそうしろって言うから。
紹介された当の本人は、頬を赤らめながら照れている。という
両手で頬を押さえてヤダ恥ずかしいのポーズをしてクネクネしている。
・・・この女、わざとだな。
皆お口アングリ。
有名な口語自由詩のワンフレーズにようだ。
鰯がキーワードのアレね。
俺だけ既にラファウ免疫を獲得しているから、さっきの続きを話し始める。
「えーっと、俺が知り得たことを踏まえつつ、つい今さっきラファウから得られた最新情報も加味して、もう一度、真実と思しきものに迫れるよう情報を整理し直します。
「魔物の王」は一柱の神とその使徒によって操られている存在です。
ダンジョンはずっと昔に開発された、「魔物の王」専用の飼育システムで、これらを稼働させ、「魔物の王」に力をつけさせてから世に放っているのがさっき出て来た神の使徒どもです。
使徒どもの強さは、「魔物の王」を使役、或いはコントロールできるという事から、勇者レベルからラファウクラスの天使程度と予想されます。
なので、基本相手にできるのは俺を含めた勇者かなと。でないと厳しいと思います。
最終的には使徒の後ろに控える神もどうにかしないといけないんですけど、そこは俺が何とかする予定です。
ラファウがその手助けをしてくれます。
そして、この戦いを制することが出来れば、おそらく二度と「魔物の王」は現れなくなります。
何故なら、500年周期で自然発生しているのではなく、奴らに意図的に造られている存在だからです。
ちなみに、俺は既に寿命が無くなった仙人種なので、こういうおかしな輩が出てこないように、問題解決後ものんびりと見守るつもりです。
これが「魔物の王」に関わる現状最新の情報であり「魔物の王」問題の根本的な解決方法となります。」
引き続き皆お口アングリ。
そりゃそうか。
なんて言った今?案件多数含んでるもんな。
パワーワードは「神」「使徒」「魔物の王飼育システム」あたりかな?あと「寿命が無くなった」もそうか?
いち早く現実に戻って来たのはやはりMr.クレバーのデリンジャーさん。
「えーっとラファウさんでしたか?
元天使ってどういう事でしょうか?おまけに元トールさん専属秘書って・・・ちょっと意味が・・・分からないんですが・・。」
ラファウが答える。
「そのままの意味です。それ以上もそれ以下もありません。
トール様は類希な才能をお持ちであることから、天界においては私が所属していた神及びその組織から保護し育成せよとの指示が下りていました。
その保護役兼指南役が元天使たる私です。
元としている理由としては、今後ますます存在の格が上がるトール様にお力添えして直接お仕えする事が私の生きる道と考え、
現時点では
「・・・ではもう一つ確認を。
勇者や導き手は、ラファウさんが属していた「神」によって、定めを負わされてこの世に生まれてくるのでしょうか?」
デリンジャーさんが問う。
「・・・その通りです。世界の均衡を保つため、
やや俯き加減にラファウは答える。
「・・・トールさんの説明にあった倒すべき存在、「魔物の王」をこの世に遣わしてくる黒幕について確証が持てた事は我々にとっては今後に向けて良い材料です。
ただ、私の娘もトールさん同様「勇者」だ。
命を賭けて戦う宿命を負わされている。
その点をもう一度問いたい。
何故、あのような、兵器とでも呼ぶべき化け物に、勇者と呼び称えられたとしても、生身の人が、人の身のままで挑まねばならないのですか?向こうと同じく巨大な何かが遣わされても良いんじゃないですか?」
デリンジャーさんが斬り込む。
「・・・そのあたりのこと、正直に申し上げます。少々長くなりますがご容赦ください。
まず、皆さんが知り得るよりもまた更にはるか前から、この世界には生命が生まれて世代を重ねています。
500年周期で起きる「魔物の王」襲来という災厄は、そのはるか昔に遡ればこの世界には存在していませんでした。
「魔物の王」襲来以前のこの世界においても、皆さまの祖先にあたる「人種」は存在していました。
高度な文明を築き上げ、我が世の春を謳歌しておりました。
神の側から見れば「不遜」としか映らぬほどに。
高度な演算を可能にする機械を生み出し、様々な領域の根源、法則、因果関係等を解き明かし、生物として「人種」に備わる様々な壁を乗り越え始めます。
それは、不老の命や新たな生命を生み出すという神の力の模倣にまで至ります。
自ら神の座に就こうと考えるまで、さほど時間は要しませんでした。
この驕りに対し、天罰が降ります。
その天罰の具体的な形こそが、神々の叡智により生み出された「人種」を駆逐する為の生物兵器、すなわち「魔物の王」でした。」
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