第39話 Rの苦悩と決意

 Rです。


 みなさまの視線が刺さってきます。

 どっち側だよと。

 誰の手先だと。


 ・・・そうなりますよね。

 「。」と。


 お前は世界の何を知っているんだと。


 ええ。

 少なくとも現時点ではマスター含めて誰よりも存じております。


 この世界の真実を。


 ただ、マスターはその核心を朧げながら捉え始めています。

 自らが対峙すべき真の存在がいることに気づき始めています。

 私の立ち位置がマスター寄りであることや、そもそも情報制限ありという怪しげな状況も合理的な推論を加速させ、疑問を核心に変えるには適した思索の材料だったことでしょう。


 私はマスターの人格に大いに期待を寄せました。

 それは今でも変わりません。


 「マスターが真の力に目覚めることで「災厄」などは簡単に打ち払い、世界を新たな高みに導いてくださるのでは無いか。」

 かつて私は、自らの心情をこのように述べました。


 立場上、私的な見解は恣意的なものであり、大いなるシステムに関わる存在としてはいただけないことであると考えます。

 でも、私にも心がある。


 この世界のバランスは、多くの命で贖われてきました。

 「魔物の王」の命すらその一つ。例外ではありません。

 そのように設計されたシステムがあり、それを支える者たちがいます。

 


 私は、自我を前面に出さないことを旨としています。

 「神」の力を分け与えられし、使いとしての使命には、恣意的なものなど含まれないと解釈してきました。

 今でも私自身のシステムとの関わり方の基本です。

 正しく、「神」が願いし世界で在るように。


 でも、「神」が願いし世界も永遠ではないことをいつの日からか知ってしまいました。

 悠久の時の中、何かが失われ、歯車が狂うことがあるのです。

 より正確に、私自身の立場を超えて言うならば、「神」とて全方位的に正しくあり続けることなどできないのです。

 「神」となりし者は、時にその狂いをを認められない。バランスを欠いた存在になってしまうことがある。


 その歪みを、今世の勇者であるマスターは気づき始めている。


 マスターの周囲には、「勇者」の資質を持たずとも、知恵や人格、判断力や忍耐力などなど、様々な面で個性的で優秀な人材が集まります。

 マスター自身がそのような人材を集める才能があるのでしょう。

 或いは人間的な魅力というべきでしょうか。

 さすが我々の組織が見定めた魂です。


 周囲の方々の助力とマスター自身の優秀さが相まって、想定外のスピードで世界の真実に近づきつつあります。


 だからこそ、転生して以来初めてと言って良いくらい、今、苦悩しておられる。


 間も無く確信を持って向き合うことになる。


 自分を苦悩させているものが何なのか。

 そして、心の底から怒りを覚える筈です。

 敵はまたもや「システム」なのかと。

 いや、それをもたらす「神」なのかと。


 この世界にお越しいただく際の、私が抱いた唯一の懸念が、マスター自身が新しい世界に前世と同じ矛盾や閉塞感を感じて絶望されることでした。


 所詮、どのような世界にもシステムは存在するのです。

 そしてそれを間違いを犯すことなく扱えると自負するは「神」の座にある者。

 そして、「神」の立ち位置は、必ずしもそこに住み生活を営む命にとっての「真理」や「道理」と同一では無い。


 「神」には善も悪も無く、世界を均衡に導くことこそが唯一の真理。

 でもそこに至るために、意志ある命にとって正しく無い方法が選択されていたら。


 不遜を承知で申し上げれば、「神」は自ら内包する矛盾に巻き込まれ、変質することがあるのです。


 マスターがこの先向き合う事になる、この世界における歪んだシステムとは、変質してしまった神の真理をそれでもなおこの世界の根幹に据え続けようとする者たちが拘泥する世界の在り方そのものであり、そして、変質してしまった一柱の神のです。


 「魔物の王」に蹂躙される世界線に終わりを齎す英雄になることは最早疑いが無い。


 私にしても、ここからがマスターを支えるという私が果たすべき役割、使命、その本番と捉えております。


 「オペレーター」Rとしても、もう隠し事無しで心を通わせて向き合いたいと思っています。


 例え、神の使徒としての地位を失っても。


 マスターに心惹かれ、待ち望んだ変革の救世主であると確信してからは、私の日々にも色彩が戻ってきたかのようでした。


 命とは、色鮮やかなものです。

 たおやかで、愛おしいものです。

 美しく、輝きに満ちたものです。

 奥深い物語を秘め、一つ一つ大切にされるべきものです。


 決して容易く蹂躙されて良いものでは無い。


 マスターが絶望という灰色に染まっていたこの世界に、希望の色彩に彩られた豊かな命の輝きと営みの尊さを取り戻してくださる。


 マスターがこの先に成し遂げることを思えば。

 私の立場などどうでも良いとさえ思います。


 いつまで、マスター専属オペレーター「R」でみなさまと向き合うかは分かりません。


 でも、そう遠くない未来で今の立場を離れることができたなら、姿


 そろそろマスターからのお呼びがかかりそうです。


 精一杯、誠心誠意対応させていただこうと思います。


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