第30話 邂逅

 勇者たち(既に「仙人種」に至ってしまったフライング野郎は除く)が「修行場」への旅を始めて一月半あまり。


 彼らの現在地は、「修行場」の四方それぞれを門番のように取り囲む自然環境である「蟒蛇」「ブルーピークス」「クリスタルナイトメア」「ギロチンバースト」にバラけている。


 これらを攻略しつつ、その過酷な環境負荷を利用して「勇者」としての基礎体力作りを行いながら、三領域の身体強化に至るための基本的な修錬を日々積み重ねていた。


 しかし、今世の勇者たちは、いずれも額に輝く石を持つ才覚溢れる面々。

 開花の時は間も無くといったところである(既に「仙人種」に至ってしまったフライング野郎は除く)。


 東から「クリスタルナイトメア」を横断する強者は勇者カーリーとその導き手。

 この灼熱地獄を涼しい顔で和気藹々とスタスタ歩いている。


 カーリーは早くに「精霊強化」を会得し、虚空の精霊「ボイド」に守護されていた。

 虚空の精霊に守護されること自体が相当に珍しく、彼女の導き手であるアカツキは、自身にして「初めて見た」とちょっとビックリしたのだった。

 もう一人の導き手のキヨはオオカミの獣人で、攻撃系魔術が得意な他、空間操作系にも精通している。

 アカツキはエルフ族の精霊魔法の使い手。

 そしてカーリーという「勇者」の器を持つ者。


 この組み合わせこそが、虚空の精霊という人との距離で言えば珍しい存在が守護精霊になるに至った原因のようだ。


 虚空の精霊は、「満たさない」ことが真理の精霊である。

 例えば、空間に空気を「満たさない」を実践するとどうなるか。

 「真空」が生まれるのである。


 で、ここでこの一行が灼熱の砂漠を苦もなくスタスタ歩いている答えだが。


 カーリーは「ボイド」の力を使って一行の周囲に薄い「真空の層」を創り出し、外界との温度を遮断。アカツキは自身の守護精霊である霧の精霊「ミスティ」の力で彼女たちの空間だけ霧で満たすことで砂漠の強い日差しを乱反射させて散らし、同時に帰化熱による冷却効果も加えている。足元を湿らせて歩きやすくしているおまけ付きで。とどめにキヨが空間魔法で外界との換気を行う。


 つまり、「断熱材で守られたエアコンの効いた部屋を動かしながら歩いている」から、となる。


 渺茫たる「砂漠」においては、たとえ鍛え上げている「導き手」ですら心身ともに疲弊し切ってしまう。

 ならばせめてと、移動くらいは体に無理のないようにとカーリーの優しさから生み出されたものなのだ。

 類い稀なる発想力と慈愛の精神。

 カーリーという女性の真骨頂である。

 導き手の両名も、修行とのメリハリが生まれる効果も体感したため、すっかりこの移動方法の虜である。


 同様に、北からは勇者ミョルニル一行が、西からは勇者ガイと勇者ハルニレの一団が、南からは勇者ケンシンと勇者ドルオラの一団が、既に中央大陸修行場エリアに入り、「ベースキャンプ」であるミラジェを目指して歩みを進めていた。


 間も無く、今世の勇者たちが一堂に会するこの時に、むしろ逆の動きをしているのが、「既に「仙人種」に至ってしまったフライング野郎」こと勇者トールである。


 クリスタルナイトメアの上空を、雲を引きながら高速で移動している。

 両親が囚われている「魔大陸」のダンジョン「フィアー」に向けて絶賛移動中だ。


 と、「仙気」の派生能力によって、飛行を開始して間も無く勇者カーリー一行の存在に気づく。


 「気配」の質に大師匠お二人、そこまでいかずともカンヌ&ミコペア並みのものを感じて興味が湧いたため、この過酷な砂漠(本人は空飛んでるし快適)を旅する者がどんな人物か確かめようと、寄り道してみることにした。


 カーリー一行は順調に歩みを進めていた。

 修行以外の移動休憩食事の時間は和気藹々。姦しく楽しく目的地へと向かっていた。


 何かの接近に最初に気づいたのはキヨ。


 空間魔法で自分たちの周囲に半径500m程度の「回転リング型」の結界を張っている。

 細い針金のような巨大なリングを数本、自分を中心座標にしてランダムに高速回転させ、触れたものを検知する高コスパの結界魔法だ。

 実質半径500mの球状結界を張っているのと大差ない検知力を誇る。キヨが「導き手」として高い実力を備えていることの証左であろう。


 だが。今回は相手が悪かった。


 「!!何か侵入!えっ!はやっ!」

 半径500mもの結界である。

 侵入そのものを阻害するものではないにしても、感知即臨戦態勢のアドバンテージは甚だ大きい。


 だが今回は、驚いた直後に対象は目の前にいた。


 慌てて臨戦態勢になるカーリー一行。

 でもねー。

 その目の前の仙人、君らが臨戦態勢になってる理由、分かって無いと思うよ。そこそこ天然だから。


 「やぁ!初めまして。俺はトール。突然ですが勇者です。君たちの中にも勇者いますか?」


 挨拶も質問も簡略化し過ぎてちょっと何言ってんのかわからない。


 「えぇっ!?私も勇者なんです!初めましてカーリーです!奇遇ですね!!」


 返答した勇者カーリーも、そこそこ天然だったから噛み合った。

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