第31話 再会を誓って

 天然勇者同士がシンパシー感じまくりなのは大いに結構だが、まずはお互いに常識的な範囲の挨拶と自己紹介から。


 「初めましてトール殿。私はキヨ。「導き手」だ。」

 「私はアカツキ。同じく「導き手」です。」


 突然失礼しました。テヘペロ。


 「これから「ミラジェ」ですね?」

 俺は尋ねる。


 「はい。あと1週間程で到着できると思います。」とアカツキさん。

 「ところで・・・、あの、トールさんはその・・・えーっと」と、聞きたいことが多すぎて要領を得ないカーリー。

「トール殿は何者なの?空飛んできたでしょ?どこに向かってたの?」

 ストレートなキヨさん。

 なかなか良い個性の三人組だなー。


 「俺は今から「フィアー」に行きます。可能であれば攻略してくるつもりです。」

 特に隠す必要がないので正直に言う。


 「え?お一人でですか?」

 カーリーが驚く。


 「はい。カムイランケ大師匠とグルヴェイグ大師匠から依頼されました。

 ここのガーディアンが、実は父と母でして。

攻略後にダンジョンの呪いに囚われてしまったんです。

 でも、今の俺なら何とかなるかもしれないってことで。」

 サラッと説明。


 でも流石に「導き手」のアカツキさんが突っ込んでくる。

 「えーっと、なんか順番が色々あれですけど、まずは現状把握から。もう、大師匠方との修行は終えられたってことですか?」


 「修行を終えたとは思っていません。ただ、お二方と試合って勝ちましたので、力は認めていただいたってところです。」

 と返す俺。


 当然だと思うけど、更に突っ込まれる。

 今度はキヨさん。

 「えーっと、マジで君何者?あのお化け二人に勝った!?単独で?ってか何でどうやって空飛んでんの?いくら勇者だからって、色々便利過ぎるあれじゃない?」

 だいぶ端折ってるし若干失礼入ってるけど言いたいことは伝わってくる。


 「俺は三領域同時発動に成功して仙人種になりました。3000年振りらしいです。

 ええ。間違いなくお二方を相手に試合って力を認めていただきました。

 ちなみに、俺もお二方も怪我一つしていませんので安心してください。

 空飛べるのは、仙人種の特権みたいなものです。

 その仙人種の力が、どうやら父と母の解放に繋がるようです。」


 導き手お二人がポカーンとしてしまった。

 一人カーリーだけが目を輝かせている。

 「すごいですね!もう三領域全部使えて、おまけにいっぺんに使えて、もう一つおまけに仙人になっちゃうなんて!

 ・・・トールさんも勇者ってことは、私もいける?あ!、額に石!」


 「気づきました?なんかこの石、良いらしいっすよ。カーリーさんなら多分いけます。」

 かなりザックリ伝えてるけど、カーリーさんのノリと勢いで解釈する力が凄くて、だいたい伝わった気がする。が。


 「・・・俄には信じられないけど・・・。」

 とアカツキさん。

 「分かりやす過ぎる纏め方だったな。」

 とキヨさん。

 二人の反応も分かる。なら。


 「実際に見てもらって、試したりする方が早くないですか?なんなら軽く手合わせしても大丈夫ですよ?」

 と俺は提案してみる。


 「「フィアー」の件は大丈夫なの?」

 とキヨさん。

 率直な物言いだからズケズケタイプに思われがちだろうな。俺なんかにもこんなに気遣ってくれてありがたい。


 「そもそも明確な期限は無いんで大丈夫です。

もちろん解決したらすぐに「修行場」ここに戻って、色々試しながら修行は続けますし。

 さっきも言いましたけど、大師匠方から依頼されたってことは、今はそこに行くことも修行の一環だと思ってます。」


 「・・・なら遠慮なく。」

 キヨさんが言いながら闘気を高める。


 「あの、自分で言うのも烏滸がましいですけど、二領域全開で構いませんし、なんだったらアカツキさんもカーリーさんも同時参加で構いませんよ?」

 と俺は提案する。


 「すごい自信ねって、そうか。あの方々同時に相手してるんだっけ。ならいけるわよね。」

 とアカツキさんも気配が大きくなる。

 彼女の守護精霊は水?・・・いや、同じ系統でも持っと繊細な印象だ。

 エルフ族だと思うから、精霊はお手のものだろうし、守護精霊を使った戦闘技術の練度は高いはずだ。


 「じゃあ私も遠慮なく!」

 と、カーリーさんも気配が変わる。

 ん?彼女の守護精霊もまた独特な雰囲気だ。

乾いたような、いや、クッキリとした感じってのが正しい印象か。


 「・・・行くよ!」


 初撃はキヨさん!

 掌に生まれた魔力弾。高い威力なのが分かる。だけど正面から打ち込む気はない。

 俺は背後の気配を同時に察知してそう確信する。

 と、同時にアカツキさんも仕掛けて来る!


 「ミスティ!暗黒の霧を!」


 アカツキさんの呼びかけに応じて精霊がその力を使って魔法効果を発現させる。

 俺の周囲に濃い霧がかかり、砂漠のど真ん中なのに視界が奪われる!

 暗くて見えないって言うより、視界にもの凄い量のノイズを入れられた感じ。簡単には解消できなそうだ。


 その瞬間、すぐ背後からさっきまで目の前に見えていた魔力弾の気配が!キヨさんやっぱり二種類の魔法を同時発動してた。凄い技術だ。


 迫っていた魔力弾は振り向きもせず、仙気を纏わせた踵を振り上げて上空へ蹴り飛ばす!

 魔力弾は霧のエリアを勢いよく飛び出しそこで炸裂。

 「!」「!」

 キヨさんとアカツキさんの驚く気配が伝わる。

 でもすぐに切り替えたのも伝わる。


 何故ならまた目の前にさっき背後に感じたものと同じ気配が生まれたから。

果たして、すぐ顔の前に蹴り飛ばしたものと同質の魔力弾が現れる!

 でも起こりが分かっていたから、掌底に強く仙気を纏わせて掴み取り、炸裂前にキヨさんに高速で投げ返す!


 「!」「!」「!」

 今度はキヨさんとアカツキさん、更にカーリーさんの驚く気配が伝わる。

 必中だったはずなのに!返してくるなんて!ってとこかな?


 「ヴォイド!お願い!」

 カーリーさんがキヨさんの危機を察知し精霊に呼びかける。


 直後、魔力弾の気配が消え、同時に霧も晴れる。


 三人も戦闘態勢を解いたので、俺も仙気を抑える。


 「信じてもらえました?」

 と聞いてみる俺。


 「いやー。魔力弾あれを使ったコンボを初見で、しかも無傷でどうにかできるって凄いわ。」

 とキヨさん。


 「「暗黒の霧」は、半ば物理的に視覚を遮るので、気配でどうにかするしかないんですけど、あの状況を何も問題にしないってことは大師匠に認められたのも納得です。」

 とアカツキさん。


 「何なんですか?その銀色オーラ?凄すぎません?」

 言いながら自分もその力に届く可能性を感じているからか、キラキラとした目で聞いてくるカーリーさん。


 「キヨさんの同時二種類魔法使用による攻撃に、アカツキさんの守護精霊を使った五感を封じるサポートの組み合わせ、効果が何倍にもなりますね。凄く勉強になりました。

 おまけにカーリーさんの守護精霊。もの凄く珍しくないですか?投げ返した魔力弾をかき消したの、その精霊の能力ですよね?」


 「・・・・全部バレてる。恐ろしい方ですね。」

 アカツキさんがちょっと怖いものを見る目で俺を見る。

 「「仙人種」って言ったっけ?出力でいえばほとんど力を使って無いってことだよね?基礎能力だけでここまでできるなんて・・・。」

 キヨさんも末恐ろしいと言った目で見てくる。

 「私の守護精霊の能力まで見抜いちゃうなんて!トールさん凄すぎますよー!」

 カーリーさん変わらず元気。この人良いなー。


 「「フィアー」からはすぐ戻るつもりです。また皆さんと研鑽を積めることを楽しみにしてます!」


 「次はもっとびっくりさせたげるからね。」

 とキヨさん。

 「次の試合までにトールさん対策しておきますわ。」

 とアカツキさん。

 「必ず戻って来てくださいね。私も早くトールさんのようになりたいですから!」

 と一貫して元気一杯のカーリーさん。マジで元気もらえるわこの人。


 「じゃあまた!「ミラジェ」でお会いしましょう!」

 言うと俺は「仙気」を高めて真上に飛翔すると、一度三人に手を振ってから再び「フィアー」にむけて飛び去る。

 一瞬で彼女たちの視界から消え去った。



 「辿り着きたい・・・!」

 さっきまでの無邪気さはどこへやら。決意の滲む表情でカーリーが呟く。

 「やれるよ。カーリーなら必ず。」

 とキヨ。

 「すぐに追い抜いて差し上げると良いですわ。」

 カーリー焚きつけて励ますアカツキ。



 もう間も無く、今世の勇者たちが一堂に会する。





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