第29話 父と母の元へ

 「いやはや。」とカムイランケ大師匠。

 パチパチパチパチ。

 「あっぱれじゃの。」とグルヴェイグ大師匠。

 パチパチパチパチ。

 だいぶコンビ色が強くなってきてる。

 パチパチパチパチパチパチ。

 二人してパチパチ拍手しながら褒めちぎりはじめた。


 「さっきの大質量攻撃魔法はワシの術の中でも攻撃力最上位の魔法の一つじゃ。おまけにワシしか使えんやつで術式自体もかなり面倒なやつじゃ。何せワシが長ったらしく唱えにゃいかんくらいだからの。

 あれを簡単に再現されて防がれたら、ワシじゃのうても理解できる。

 たとえワシがもう何回か最大火力の術で攻撃を仕掛けたとしても、お主を仕留めることは出来んじゃろうことがな。

 ただただ脱帽じゃよ。」

 とグルヴェイグ大師匠。


 「仮に全力の直接打撃を何度かお見舞いしたとして、ああも綺麗に去なされては打つ手なしじゃ。

 おまけにあの身体の力を奪う技は何じゃ?

 ワシが自由を奪われるなんざ尋常な技じゃ無い。

 冷静に考えて、お主の速力と対応力に対して、何度も不意を突くための同時攻撃ができる保証はどこにもない。

 技を繰り出しても、起こりを読まれていなされて、そもそものスピードでもパワーでも技術でも及ばないとなれば各個撃破されて終いじゃろうて。」とカムイランケ大師匠。

 「故にここまでじゃ。あまり長く相手してやれんで申し訳無いがのぉ。」

 「ワシらの力不足じゃて。」

 とお二人。


 「いえ。お二方に伍せたことで自分の現在地がハッキリしました。

 次に目指すべき頂が見えた気がします。」

 心からの敬意を込めて感謝を伝える。


 「「修行場」《ここ》でお主が自分の感性の赴くまま更なる研鑽を積み、より高みを目指すことについては全く問題ないんじゃが・・・。」

 とカムイランケ大師匠が何やら言いかけて隣のグルヴェイグ大師匠に目線を送ると、

 「お主にちと頼みたいことがある。」

 とその視線を受けてそう言うグルヴェイグ大師匠。


 「少しばかり前の話になるが、ワシらの弟子二人がの、不幸なことにダンジョンに囚われてしもうての。」


 ダンジョンに囚われたって、そもそもレアケースでそんなに事例はないんじゃ・・。

 まさか・・・?


 「まぁこやつらが相当の強者なのが幸いして「魔物」としては討伐されておらぬ。ただ、ワシらではこ奴らを「人」に戻したくても戻せなんだ。」

 とグルヴェイグ大師匠。


 「俺の父と母ですね。」

 単刀直入に切り出す。


 「ミコかカンヌから聞いとったかな。」

 とカムイランケ大師匠。

 「何故にお主にという理由じゃがな。

 あ奴らはダンジョンの「魔核コア」が放つ「呪い」によって囚われて、今も使役されておる。

 だが、最低限の仕事だけしとればダンジョン内は自由に動けとるようじゃし、自我までは奪われておらん。「ガーディアン」という存在の奇妙なところよの。

 ワシらではあ奴らを呪いから解放してやることは叶わんかったが、今でも意思疎通はできるし、死人になったわけでも種族が変わったわけでもない。

 囚われて「魔核」を持っとる以上「魔物」扱いなだけじゃ。

 お主の存在が希望を持たせてくれた。

 呪いから「解放」できる可能性に賭けたい。正確には「解呪」じゃの。

 鍵になるのは、お主が先ほどから見せてくれとった力じゃ。」カムイランケ大師匠が言う。


 後を受けてグルヴェイグ大師匠が、

 「ワシらも色々やってはみた。ただ、どうしてもワシらの力量では解呪できなかったのは事実じゃ。

 そう、まるで「三領域」の発動が出来なかったようにの。

 その壁を超えたお主なら、いや、超えたお主だからこそ、ワシらは解呪の可能性を見出した。

 カムイを手玉に取った「(誰が手玉に取られたんじゃい!というカムイ大師匠の抗議の声)」お主の調整力と「仙気」ならば、あ奴らを呪いのしがらみから解放してやれるような気がしての。」


 なるほど。

 「彼らのかけられた呪いは人間では解くことが叶わないもの」ではなくて。

 「解放出来なかったのは、かけられた呪いを解くことができる者、すなわち、からではないか?」

 なるほど!


 囚われない発想って本当に大事だな。

 こんなにも経験を積み、知識も豊富。

 ともすれば経験則だけに頼って柔軟な思考で考えなくなってしまうのに。

 それは極々普通のことだというのに

 自分たちの実績に拘泥しない。

 やっぱ大師匠お二人は尊敬に値する。


 ワシたちが出来なかったから無理。

 そんなことは一言も言わない。

 積み上げた日々にプライドは持っても、新たな才能を素直に賞賛できる。

 古い見識にしがみつかないし押し付けない。


 本当にこのお二人に師事できて良かった。

 このお二人の弟子であるカンヌさんとミコさんに見出してもらって良かった。


 俺は導かれている。

 未来を信じて託してくれる、偉大なる先輩たちによって。


 父さんと母さんに会いに行くことができる条件は、少なくとも自分の師を一対一で負かせるくらい強くなれ、だったよな。


 何故そのことが条件なのか、わからない部分もあるけれど。


 資格を手にしたのなら。


 行こう。


 父さんと母さんの元に。


 解放の時を待つ二人の元に。



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