第28話 「仙人種」の力

 「搦手と強襲のコンボじゃ。どう捌く?!」

 興味津々といったグルヴェイグ大師匠の声。


 達人VS仙人、第一ラウンド。


 俺は、まずは下半身の事は意識の外に置いて、迫り来る掌底を観察。


 力の流れを把握して、自分も同じ型で掌底を合わせ、攻撃を正面から受けに行く。


 「正面から受けよるか!舐めて怪我ぁせんとけよぉっ!」カムイランケ大師匠が吼える!


 だが、受けて耐えるとか弾き返すのでは無く、打撃の威力を減衰させずに


 引き受けた「力」は、掌から腕、腕から身体、身体から足へと伝っていく。完全に支配下に置いた「力」は、俺の身体は一切傷付けず、下半身を拘束しかけていた蔓だけが弾け飛ぶ!



 「!!」

 「!!」

 カムイランケ大師匠とグルヴェイグ大師匠がほぼ同時に今起きた事を理解する。


 流石はお二方だ。


 一旦距離を置く二人。

 第二ラウンドだ。


 今度は俺を中心に対角線上に位置しながら、尚且つ円を描くように隙を窺ってくる。


 俺は中心で不動の姿勢のまま。


 と、一瞬の「間」が場に生まれそうになった瞬間、グルヴェイグ大師匠の指輪が強く輝く!

 駆け引き上手いな!


 ヴゥオンンッ!

 大小様々な魔力球が俺に放たれる!

 ん?一発目以外の速度が遅い。意図的だな?

 念のため躱した最初の一発が少し離れた岩に当たる。

 後ろで起こる爆発。どうやら触れればそうなるらしい。

 指輪の仕込みなのか無詠唱でどんどん放って来る。

 逃げ場を潰すように。


 グルヴェイグ大師匠は俺の周りを半周すると、今度は魔力球を放った範囲に瞬時に地面から伸びる様にドーム状の結界を張る!

 同時にカムイランケ大師匠は俺の頭上に飛び上がり、ドームの閉じていない真上から闘気弾の雨を降らせる。こちらの方が魔力弾に比べて速度が速い!


 足元以外の全方位から攻撃される状況。

 上からは闘気弾の雨が降り注ぎ、魔力球は包囲網を縮めて迫り来る。

 確実に無くなる逃げ場。

 更に結界で爆発の余波まで逃さない空間に閉じ込めてくる!えげつないな!


 ここで俺は、先程とは逆の行動を取る。

 魔力弾も闘気弾も、俺に近づく側から「仙気」を強く纏わせた高速の掌底で弾いていく! 

 弾かれた球同士が俺の周囲で誘爆し始めても気にせず弾く!弾く!弾く!


 全弾撃墜。


 とはいえ爆発の威力は結界に密封された分、凄まじいものになった。土埃で視界が効かなくなる結界ドーム内。


 だが、しかし。


 俺は身体に纏う白銀の「仙気」を、通常の倍程度だが強く大きく展開。

 それだけで、爆風の影響を全てを遮った。

 これが「仙気」の力。物質化して纏ったあたりから気づいたけど、質も量も至る前とは次元が違う。


 俺の佇まいから状況を正確に理解するお二方。


 その、俺を観察するという行為に集中し過ぎた二人の達人が見せた一瞬の隙。


 観察という行為を選択した心の何処かで「相手からは来ない」と見誤った事で生じた、瞬きにかかるよりも薄い時間に生じた油断。


 俺はそれに即座に反応した。

 第三ラウンドはこちらから行く!


 「仙人種」到達による大きな恩恵の一つは、意識と肉体の乖離がことにある。

 そして、「死角」が


 そもそもが意識と肉体の調和においては異常な程高い能力を備えていた俺だけど、その点においても次元が違う。


 相手の油断を感じ取ったその時には最適な行動を取っていた。

 最小労力最速でカムイランケ大師匠との間合いを詰める!


 「!!」

 急に目の前に現れたかの様な俺の姿に瞠目するカムイランケ大師匠。

 それでも即座に反応して、前世の記憶にある、とある拳法の体当たり技「貼山靠」によく似た攻撃を仕掛けて来る。


 だが「起こり」から


 両の掌底を打撃面である背中に添えて、掴むのではなく、掌を添えたまま、ただ引き上げると、カムイランケ大師匠が掌に吸い付くように持ち上がる!


 「なあっ!?」

 接近戦に介入しようと迫っていたグルヴェイグ大師匠が思わず声を挙げる。


 吸い付けられた格好のカムイランケ大師匠は、何故か動けない。


 俺は顔も向けずに、こちらに迫るグルヴェイグ大師匠に向かって、吸い付けたカムイランケ大師匠を放り投げる!


 受け止めるグルヴェイグ大師匠。漸く身体の自由が戻るカムイランケ大師匠。

 「「何じゃぁ、今のは・・・!」」

 二人の声が、セリフが重なる。

 マジで仲良いな二人。


 俺が今使ったのも前世の記憶にある、とある拳法の技「化頸」である。

 見た通り、相手の力を無力化し、吸着する技である。

 「吸着」は、やられた側の感覚的に分かりやすく言うと「思い通りに動けない感じ」。

 カムイランケ大師匠ですら初見では対応できなかった。


 第四ラウンド。

 グルヴェイグ大師匠からここまでで最大値の魔力と精霊力の高まりを感じる!

 大魔法を使う気だな!


 「ならばこれもどうにかして見せよ!!」

 グルヴェイグ大師匠が詠唱するところを初めて見た。敢えて発動を止めない。


 ヴヴゥゥォォォオオオツッ!

 空間から低い唸りのような音がして、空に黒いシミができたかと思うと、あっという間に大きく広がりその中に夜空が!

 「流星召喚!!」

 グルヴェイグ大師匠の魔法が完成する!


 赤熱する隕石が、夜空の奥から姿を現す!


 見上げる俺の左手には既に

 「(R。隕石あれに対応できる術式を教えてくれ。物理的な被害ゼロにできるやつが良い。)」

 「(了解。術式情報をマスターの意識に同期します。)」

 意識下でRと体感レベルでは分からない一瞬でやり取りを終え、俺は魔法を発動する!


 「虚空召喚」

 隕石の落下方向に、それが出現した時と同じように黒いシミが現れあっという間に広がると、そこに夜空が現れた。と、隕石はまるでトンネルに入って行くかのように夜空に帰って行く。

 「虚空召喚」なんて仰々しく術名呟いたけど、実際にはグルヴェイグ大師匠の術を途中までパクっただけだ。この最適解を瞬時に俺に伝えるRが凄いというお話し。


 「送還」

 俺は一言つぶやく。「夜空」は、広がった時の映像を逆再生したかの様に、「夜空」を包み込みながら黒いシミへと瞬時に戻され消える。


 ここまでグルヴェイグ大師匠の魔法の発動から10秒前後。


 カムイランケ大師匠が踏み抜いて荒れた地面とグルヴェイグ大師匠が爆裂系魔法球を炸裂させた場所以外は、何も無かった様に荒野の静寂が戻って来る。


 お二人はと見やると、

 パチパチパチパチと拍手している。


 どうやら想定よりも早く試合終了と相成ったようだ。

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