第27話 「仙人種」

 Rとの会話を終え、「三領域同時発動」の実践に付き合ってくれた師匠たちに改めて意識を向ける。


 流石に「ポカン」「アングリ」からは抜け出してくれたようだ。

 びっくりさせちゃってごめんなさい。


 「トールちゃん、だよね?めっちゃ背が伸びてるし体格も立派になって・・・」

 恐る恐ると言うか半信半疑と言うか、何だかぎこちない感じでミコさんが聞いてくる。


 「一体全体何がどうなった?お主に何が起きたのじゃ?」

 カムイランケ大師匠がざっくりとした疑問をぶつけてくる。


 「俺は「三領域同時発動」に成功しました。

カムイランケ大師匠やグルヴェイグ大師匠、ミコさんやカンヌさんのおかげです。」

 俺はまず感謝を伝える。


 「何やら気配が変わっとるの。一体全体何がどうなった?お主に何が起きたのじゃ?」

 グルヴェイグ大師匠がカムイランケ大師匠と同じことを聞いてくる。何だかカワイイ。


 そうか。

 師匠たちのレベルだと、感じたことのない存在に対する違和感が大きいのかも知れない。


「気配でお分かりになるなんて流石にお二方ですね。

 俺は仙人種に至りました。「三領域同時発動」がそのきっかけになるみたいです。

肉体的な変化は「仙人種」に至ったことによる「存在進化」、つまり「ホモ族」から「仙人種」に進化したためのようです。」


 ここで、服に合わないサイズに成長していたことを思い出す。


 「ああっ、そう言えば変な格好になってました。着替えますね。」

 俺は言うなり、まるでいつもそうしていたかのように、

 生成りのゆったりとした袖の無い上着、濃紺の腰帯、脛の辺りで絞られた道着の様な作業着の様な雰囲気の穿き物にシンプルなカンフーシューズ。武道家をイメージして物質化したらこうなった。

 前世の漫画の影響が大きいなぁ。


 !!

 突然の変化に4人ともびっくりしている。


 「えーっと、今何したのか説明できる?」

 カンヌさんが聞いてくる。


 「あぁ、これですか?これは僕の「仙気」を練り上げて凝縮、物質化して作りました。

 「精霊強化」を会得した時と物凄く良く似た手順で形づくり、「魔力強化」で凝縮と具現化をする感じですね。一度理解した感覚なんで、一瞬でできるんです。」

 纏った衣類を摘んで引っ張って見せながら俺は答える。


 そして、無意識的に行ったが故に、一つ確信を持ったことがある。


 今まで身につけたことの延長線上に、「仙人種」の能力はあるということだ。


 「物質化」は、奇跡の御技にも奇術にも見えるかも知れないが、本質的には説明した通りだ。


 「三領域同時発動」というのは、「人」としての殻を破れるかどうかの試金石。

 「人」としての殻を破るためには、そもそも高められる力の各領域を同時に扱えるくらいの「器」である必要がある。


 そういう意味では、俺自身が「仙人種」に至ったからって上から目線で偉そうにって、そう聞こえるかも知れないけど、誰でもはできないかも知れない。


 「よもや「仙人種」に進化しよるとはのぉ。その力をを確かめん訳にはいかんよなぁ。「仙人種」に至ったお主の力試し、最初の相手をさせてもらっても良いかの?」

 カムイランケ大師匠が言う。


 「はいっ!ぜひお願いします。」

 願ったりだ。カムイランケ大師匠相手なら、自分の立ち位置と、これから何をすれば良いのか多くのヒントが掴める気がする。


 「ワシも同時で良かろう?恐らくその方が良い。カムイも構わんじゃろ?」

 砕けた調子でグルヴェイグ大師匠がカムイランケ大師匠に同意を求める。


 「ムゥ。グルから見てもそれほどということか。」

 今更だけど、二人がお互いを呼び合うとき省略形なのなんか良いな。


 「トールや。それで良いかの?」

 もう一度カムイランケ大師匠が確認してくる。


 「はい。是非お願いします!」


 武の極み。

 お二人が積み上げてきた、技術と知識がまた俺の新たな扉を開けてくださる。

 なんて幸運。

 ここまでとんとん拍子なのは、きっともっと先があるからだ。何となく、でもやっぱり確信めいてそう思う。


 「トールちゃん?もお師匠方も無茶だけはしないでくださいよ!」

 疑問符混じりに呼んでくるけど、ミコさんが心配して声をかけてくれる。


 そりゃそうか。3000年振りに現れた「仙人種」と現代最強の二人組との手合わせなんて、誰も見たことないんだから。

 どうなるか分からなけりゃ心配するか。


 「ミコ氏と一緒に回復に専念する!お二人のリカバリーは任せろ!」

 カンヌさんからも万全のサポート宣言が伝えられる。少しでも俺の力の把握ができる様に気遣ってくれてる。

 マジ感謝だ。


 ふぅっ。いつもの短い息を吐くルーティン。

 ・・・俺を導いてくれる四人の師匠の心意気に応える!


 「ワシらにできん事をやってのけたのじゃ。最早お主は格上。遠慮はせんぞ!」

とカムイランケ大師匠。

 「「相撲」の時とは訳が違うぞよ。手加減無しのワシの術、味わうがよい!」

とグルヴェイグ大師匠。


 二人の力が膨れ上がる!

 二人とも笑ってら。武に生きる者の性ってやつか。


 「ォオオオオッ!」

 初撃はカムイランケ大師匠。

 気合いの咆哮を挙げながら、あの時と同じ真正面からの掌底が迫る!


 ビィッシィィイイイイ!!

 踏み抜く足元は大きく捲り上がり、それでも有り余る踏み込みの威力は、蜘蛛の巣のような亀裂を地面を産みながら放射状に大きく広がる!

 前回とは比べ物にならない威力。

 闘気強化だけでなく精霊強化も同時発動か!

 掛け値なしの全力!感謝!!


 同時に、捲れ上がった地面の死角から、植物の蔓が脚に絡みつき下半身を封じてくる。

 この辺りにこんな立派な蔓植物は自生していない。

 さっき見たあの「枯れ枝」のような植物を媒介にした術か?


 「搦手と強襲のコンボじゃ。どう捌く?!」

 興味津々といったグルヴェイグ大師匠の声。


 達人コンビVS新人仙人、試合開始!









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