第24話 「身体強化」レクチャー開始④
「全くたまげた坊主じゃわい。ミコの言うとった、史上最速の修得どころか、公式には誰も成し得ているない「三領域同時発動」が現実的に見えてきとる。」
カムイランケ大師匠の手放しの賞賛が続く。
「と言うても、体はいきなり目覚めさせられておるでの。言うても今日はここまでじゃ。「修行場」までの疲れもあるはず。しっかりと休んで英気を養うが良い。ここの飯は特別製じゃからのう。」と労ってくれるグルヴェイグ大師匠。
「トールちゃんなら明日中には形だけでも成功しそうだね。」冷静にミコさんが予想する。
「私も同感だ。感覚的なものは修得が困難なはずなのにあっさり会得する。お役に立てそうなのは稽古の相手くらいなもんだねぇ。まぁ実戦形式で存分に相手させてもらうよ」とカンヌさん。
「初日から師匠方ありがとうございました!ご期待には必ず応えてみせます!」
ーーーーーーーーーー
ジャポンッ!
「ウヒィーッ!効くなぁ〜ッ!」
「ミラジェ」にある勇者(並びに「導き手等関係者」)専用宿泊施設「エリシオン」。
食、医療、リラクゼーション、娯楽と、来るべき日のために全てを鍛錬に注ぐ「勇者」を労う要素満載の複合型宿泊施設である。
俺からすると、「修行場」感は元より、異世界感無さすぎて、俺以外の同郷出身の誰かがアイディア出してね?としか思えない。
温泉の気持ち良さに全く文句は無いけれど。
食事もとっても美味しいのだけれど。
マッサージ極楽なんだけど。
湯船で天井を見上げながらぼんやりとする。
完全なる脱力。
社畜時代から自分を支えてきたのは、このオンとオフの切り替えの上手さだった気がする。
まぁ後半はそれもできなくなってたけんども。
鍛錬する自分を思い浮かべないように意識する。
焦るな。逸るな。猛るな。
ここでコントロールできなきゃ、おそらく本番でやらかす。誰よりもクールになれ。クレヴァーになれ。
ザッブゥアァッ!
さっぱりした。
色々な物を洗い流せて、温泉はやっぱ良いな。
「修行場」の道中も何も無かった訳じゃな無かったが、俺が早々に魔力と精霊力を自力習得しちゃったから、かなり急ぎ足でここまでは来た。
途中、それなりに「魔物」に遭遇した。だいたいはカンヌさんかミコさんが片付けてくれたけど、たまに戦闘訓練の一環で俺が退治することもあった。
その時分かったことがある。
恐らく「魔物」は余程の個体でない限り俺の相手にはならない。
だから、改めて確信を持って言える。
俺の獲物は「魔物の王」だと。
俺の力はそのためのものだと。
生まれ変わる時に選択した結果って言うより、世界を超えて「理不尽」に鉄槌を下せって言われてる気がする。
俺のように理不尽に虐げられてきた存在をこれ以上産みださせない。
そのために授かった力。
カッコつけすぎた。
そして、風呂上がりのコーヒー牛乳が美味すぎる。
いつのまにか隣にいたカンヌさんが、腰に手を当てる正式な作法で一気に飲み干していた。
ちなみに、施設内は「館内着」と呼ばれる軽装でOKだ。だからどこのスーパー〇〇だよ。
「やはり君もコーヒー牛乳派かね?」
俺は親指を立てて同意を示す。
カンヌさんもイケおじ台無しの口髭周りコーヒー牛乳まみれでサムズアップ。
お互いにそれ以上は何も語らず各々の部屋に戻って行った。
え?この場面の意味はって?
温泉出てきたらマストでしょ?
ーーーーーーーーーー
「よく休めたかの?」
今日は朝からカムイランケ大師匠とグルヴェイグ大師匠を伴って街外れに来ている。
場所はここが丁度良いのだろう。
ただ、ミコさんとカンヌさんが10cmくらいの太さの角材をやたら持っているのが気になる。
「今日は「魔力」、「精霊力」、「闘気」それぞれの「身体強化」実践に挑む。」
グルヴェイグ大師匠が告げる。
「お主はどの領域も基本運用ができとる。身体強化とは、それを疑いなく明確に感じ取りながら纏い、己の力とすることじゃ。
「纏う」の一般的なイメージは、「魔力」の身体強化は体にピッタリの鎧、「精霊力」はその上に羽織る外套であり盾、「闘気」」は強化された肉体そのもの。肉体そのものが鋼鉄と化すイメージじゃの。
お主は非常に鋭敏な感覚がある。今日はワシが手本を示す故、同じ感覚で「強化」できたと思えたら声を掛けよ。実際に試してみれば良い。早速行くぞよ?」
グルヴェイグ大師匠の存在が増した!
「魔力」による「身体強化」だな。
昨日の今日だけどハッキリ分かる。
「「魔力」の強化ですよね?」
俺は念のため尋ねる。
「その通りじゃ。真似て見せよ。」
ふぅっと浅く息を吐く。
そこから一気に集中力を高め「魔力」を練り上げる!
纏うイメージを、より高い密度に、皮膚に纏わり付かせて大きく広がらないように。
鎧だとちょっとイメージしづらいって考えてたから、ボディスーツのようなタイトなスポーツウェアをイメージして作り出す!
キィィィイイィンッーー!!
俺の耳には甲高い金属音のようなものが感じられ、同時に力が溢れているのを感じる!
その後も状態を保ったまま、その感覚を記憶に、身体に染み込ませる。
「大師匠、できたと思います。」
「ならばそこの岩をゆっくりで良い。拳で打ち据えてみよ。」
丁度ミコさんくらいのサイズ感で柱状に立っている岩。
近づいて、しっかりと腰を落として拳を痛めない程度の加減で打ち据える。
ゴガァァアアンンッ!!
カンヌ師匠がカムイランケ大師匠に大岩を投げつけ砕けた時と同じような音がした。
拳は・・・無傷だ。
この感覚か。
忘れないうちに思い切り動いてみる。
まずは垂直跳び!
ドンッ!
足跡をその場に残して、さっき砕いた岩を飛び越えその背後に壁のように聳えていた岩の頂上に一息で届く!
14、5mは飛んでいる!
身体が軽い上に力強い!
おっと、大師匠ほっといちゃ失礼だ。元の位置に飛び降りる。飛べたから降りるのが怖くない。自分の感覚が広がってるのが分かる。
「大師匠!できました!」
呆れた顔でこちらを見ているグルヴェイグ大師匠。次いでミコさんを見やり一言。
「ミコや、持ってきただけぶん殴りな。多分大丈夫だから。」
「了解です!カンヌさん手伝って!」
頷くカンヌ師匠。角材を背中に目一杯背負っている。勤勉の象徴として有名だった銅像みたいだ。
「トールちゃん!そのままガードして!」
言いながら角材をもの凄い速度で俺に向かって振り降ろす!
パキイィッ!
思ったより軽い音がして角材が砕ける!
「どんどん行くよ!油断しないでね!」
気付けばミコさん二刀流でどんどん殴りづけてくる。絶妙なタイミングでカンヌさんポイポイ角材渡す。
良いコンビだな。
正月のめでたい芸を見てる感じだ。
なんて馬鹿なこと考えられるくらい、自然に強化状態を維持し続ける。
角材程度じゃダメージが入らないことに驚く。
1分とかからず角材は小さい木片の山を俺の足元に作った。
「いやはやたまげるね。文句なしだよ。感覚を覚えてから瞑想と錬磨欠かさずやっとっただろ?」
グルヴェイグ大師匠が俺に聞いてくる。
「はい。初めての感覚でしたから、練り上げ放出の強弱含めあれこれ試しながら。」俺は答える。
「まあ、ワシ相手に10分相撲取れとる時点でこの結果は予想できたがの。文句なしの合格よ。ケチのつけようが無いわい。」
「でもまだまだなんじゃ・・・」そう俺が言うと、大師匠がため息混じりで答える。
「お主の目指すものが「ワシ」である必要は無いぞよ。ワシなど通過点よ。比較されるのは光栄じゃが、お主が今と変わらず勤勉に魔力錬磨を続ければ、気づいた時には抜かれとるくらいのもんでしかないわ。
固定観念に捉われるな。お主にしか目指せぬ高みを目指すのじゃ。」
「押忍!ありがとうございます!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます