衝撃の事実を聞かされる



 オヤシロさまにお参りしてから約1週間。家での生活もバイト先でも特にトラブルは無く、平穏な日々を送れていた。



「そろそろオヤシロさまの所にいかなきゃならんかな?」


 ここのところ婆さんの蔵書にはまっている雷太になんとなく聞いてみる


「もうそんなに経つか? 頃合いなら行っておいた方がいいんじゃね」


 正直なところ人間以外と深く関わるのはどうかと思っている。しかし婆さんの遺言的なモノもあるし、地縛霊や悪霊の類じゃなくて一応は神様のようだし、さらに約束もしている。義理は果たしておくに越したことはないだろう。


 というわけで、スーパーにてお供えのお菓子とジュースを買い込んで、袋をがさがさ言わせながら、お社へと向かうことになった。もちろん雷太も憑いてきている。

 前回参拝したときは少し遠く感じたものだが、二度目ともなると道程が分かっているからか、思っていたよりも早く到着した。いざオヤシロさまとの再謁見。あまり威厳がないとは言えやはり神様なので、少し緊張してしまう。

 お社の前で最低限失礼にならないよう、身だしなみを一旦チェックする。ボタンも上まで止めた、靴紐もチェックした、チャックも開いていない。大丈夫なのを確認すると、すぅと息を吸い込みお社に向かって呼びかける。


「オヤシロさまかお染さんいらっしゃいますかー。鳥安の孫ですー。お供えもって来ましたー」


 すると鳥居の端からするりと黒髪の少女が姿を現した。お染ちゃんだ。今回は最初から人の姿をしているあたり、雷太への配慮なのだろう。当の本人はギリこちらからギリギリ視認できる範囲で離れていた。

 さっそく供物としてビニール袋ごとお染ちゃんに手渡す。


「ようこそいらっしゃいました。オヤシロさまともどもお待ちしてましたよ。供物もありがとうございます」


 お染ちゃんはそう言って深々とお辞儀をしてくれた。そして


「オヤシロさまー。待ちわびてたお菓子が来ましたよー! 首を長ーくして待ってたでしょー」


 眷属ってことは手下というか配下というかオヤシロさまを敬ってしかるべき存在だよな。お染ちゃんの辛辣とまではいかないが、遠慮など感じさせない対応はいつ見ても驚く。


「お染! オマエまたそんな!」


 少しばたつきながらオヤシロさまが出てきた。


「あーよく来たな孫。供物もあるとは殊勝な心がけじゃの」


 照れてるのだろうか、少しだけ目線を外されている気がする。しかし口元に笑みが浮かんでいるようなので、喜んではいただけているようだ。もってこいと言われたから供物持ってきただけなんだけど、それはそれとして持ってきた甲斐がある。


「どうぞお納めください。雪の宿とぽたぽた焼きです。飲み物はファンタとイチゴミルクを持ってきました」


 ファンタとかはちみつレモンが好きと言っていたのでわかりやすいフルーツ味が好きなのではないだろうかと予想してみた。イチゴミルクはペットボトルのものが長持ちしそうでいいかなというチョイスである。


「おおう。いちごミルクとな。存在は知っていたがはじめてじゃの。うむうむ」


 興味を示していただけたようだ。なにやらそわそわしている。

 それはそれとして期限付きで来いと言っていたのはこのお供えの件だったのだろうか。


(「これで終わりなのか-? もう帰ってもいいんじゃないのか?」)


 さすがに早いんじゃないかな雷太。帰りたいのはわかるんだけど。


「ああ、そうじゃったの。供物もうれしいがあくまでもそれは今回の主目的ではないぞ。ほれ、これを持って行け」


 オヤシロさまから紫色の小袋を手渡された。お守りかなこれ。


「ガワは私が作りました。自信作です」


 お染ちゃんの手作りなのか。女の子が一生懸命縫ってくれたと思うとなんかありがたいな。大切にしよう。


「中身はわしの皮じゃ」


 ……中身だけ捨てていいだろうか?


「なにか不敬なことを考えておらぬか?」


 バレたのだろうか。顔に出してはならない気がする。


「いや、大事にします。ありがとうございます。ほんとに」

「……」


 疑っておられる、いかんなこれは。しかしなぜ皮とか入れるんだろうか。体の一部をもっていけとかメンヘラにもほどがあるんじゃないだろうか。オヤシロさまもっとストレートな自信家というか、ぐいぐい引っ張っていく女社長タイプだと思ってたのに。


「オヤシロさま。おそらく鳥安さまは皮の意味がわからないのかと。あのですね、蛇の抜け殻というのは幸運のお守りとして有名なんですよ。財布に入れるとお金が貯まるとか幸運を引き寄せてくれるんです」


 それは初耳だ。そんな風習があったのか。でも生き物の皮、皮かぁ……。神様から直接下賜されたものだし御利益はすごそうだけど。


「金運が上がるのは素直にうれしいですね。ありがとうございます。婆さんの件があったとはいえここまでしていただけるとは」

「ん? 別に金運をあげてやろうとかそういうのは別に考えておらんぞ」

「え?」


 俺の後見的なイメージだったんだけど違うの? 定期的な供物はともかく、参拝の御利益とか見守ってくれるとかそういうものだと思ってたんだけど。


「そうですね。今回のこれはオヤシロさまの皮を使った依り代としての役割が強いのですよ。でも金運アップも私が保証します」


 お染ちゃんが補足してくれたが、依り代ってなんなんだろうか。


「そうじゃぞ。分体にはなるが、それを使えばわしが孫と一緒について行けるのじゃよ。そこの悪僧チンピラだけだといまいち不安じゃしの。仕方なくではあるがついて行ってやろうぞ」


 これはありがたい提案なんだろうか? 少なくとも現時点で困ったことは……なくはないか。着いてくるってことは家に居着くのかな。でも雷太だけでも騒がしいのに同居人を増やすってどうなの。神様とはいえ女性だしどうしたものか。というかどう断ったものか。


(「俺は反対だぞー」)


 雷太も難色を示している。声は遠いが気持ちは伝わってくるぞ。


「あのぉ、同居人が反対と言っているんですが。あまり困っていることもないですし」


 断られるとは思っていなかったのだろう。一瞬ひるんだ表情を見せるオヤシロさま。しかしそこでお染ちゃんのフォローが入る。


「損得で考えてしまうのは少々不敬ではあるのですが、受けた方が鳥安さまにとっても何かとお得かと思われますよ。鳥安さまのお宅は少々不安定な状態ですし。オヤシロさまが住まわれるとなにかと安心かと」

「えっ不安定とかなにがですか? 自覚無いのですが」


 本当に自覚はないのだ。霊とか不思議現象を見るのは元々のことだし、うっかり人以外のなにかに話しかけられるのも別に珍しくはない。引っ越してきて1年くらいだけどその間にトラブルは10回もなかったよな……。

 いや、認識できている範疇でのトラブルが10回近くあるって多いのか。多いよなきっと。


「思い当たる節が? 鳥安さまのお宅自体は悪意を寄せ付けないように弱い結界が張られていますが、お庭などは逆にその加護がほぼ無い状態です。鳥安さまに憑いてきたモノたちがお庭を休憩所にして待機してますよ」



 知りとうなかった……

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