苦労人
「………さて」
家に近づくにつれて増していた違和感。ここ数日、埃が積み重なるようにして淀みが蓄積されている。家に寄ってくるよからぬモノの数も増えているような気がする。
「なにがどうってほどじゃないんだけどな。警戒はしておこうかね」
オヤシロさまとやらに指摘されたのは驚いたが、風助が危なっかしいから“あえて”憑いているのは否定することでもなかった。
本人は気づいていなかったようだが、風介の憑かれやすさは相当なものだ。鍵がかかっていないどころかドア全開で家具まで完備し入居者を募集している優良物件。実体を求めているヤツらからすると喉から手が出るほどに欲しい人間なのだ。
ただ唯一の救いはその部屋の広さというか容量だ。風介ひとりに対して取り憑けるのは霊1体が限界のはずで、先住者がいれば、それが出て行かない限り新たな霊が取り憑く余地はない。つまり、雷太自身が取り憑くことで他の霊をシャットアウトできるという訳だ。
まあ雷太とて成仏できてない地縛霊だったわけで、取り憑かれる側としてはたいして変わらないのかもしれない。現時点では善意の存在ではあるのだが、その在りようが裏返ることなど珍しくない。
そういった理由から雷太は風介に取り憑いているのだが、とはいえ何か特別なことができるわけでもなく、気の弱そうな霊ににらみをきかせるくらいしかできていなかった。気合いで殴って追い返すこともあったが、もし強力な相手だったら効果があるかは不明だ。
「まあいざというときに頼れるところが増えたと思えばな。でも蛇なんだよなぁ……」
オヤシロさまという後ろ盾ができ、最悪の場合相談できる相手ができたというのはありがたい。しかしその正体が蛇というのはネックである。蛇の姿をしていなくても、元が蛇であるという事実は雷太にとってネックだ。だからといってオヤシロさまに任せて風介から離れるという気もない。
「まあ寝ちまったようだし、起きるまで漫画でも読んでおこうかね」
不穏な気配とオヤシロさまという新たな縁、不安な要素はいくつもあるが、悩んだところで何か変わるわけでもない。気持ちを切り替えると、おそらく風助の蔵書ではないであろう『ガラスの仮面』を読み始めるのであった。
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