第18話 忘れられた約束
——はくぼうどうの扉が、風もないのに、かすかに揺れた。
主人公は立ち止まり、耳を澄ませた。
木のきしむ音。棚の上でユウが尻尾をふわりと動かす。
「誰か来たの?」
「まだ。でも、もうすぐかもね」
ユウはそう言って、大きなあくびをひとつ。
まるで、これからやってくる何かを迎える準備をするかのように、瞼の奥に残った夢を払いのけた。
その日は、一日じゅう、風のない日だった。
それでも、ガラス戸の奥には、かすかに光がゆれていた。
はくぼうどうの中にだけ差し込む、どこか懐かしい、夕暮れの光。
棚の上に、見慣れない小箱が置かれていた。
木製の、小さな、そしてほんのりあたたかみのある箱。
主人公はそれに気づき、そっと手を伸ばした。
「ねぇ、これ……昨日まではなかったよね?」
「昨日と今日は、同じようで、違うからね」
ユウは目を閉じたまま応える。
箱には、鍵穴がついていた。
だが、鍵はどこにも見当たらない。
そのとき、棚の隅に置かれていた手紙がふわりと落ちた。
一度も見たことのない、けれどどこか懐かしい筆跡。
——「約束を、覚えていますか?」
たった一文。けれど、それは胸の奥をやさしく叩くような言葉だった。
「……ユウ。僕、誰かと、約束してたのかな」
「忘れられた約束ほど、強く残るものはないよ」
ユウは、どこか遠くを見るような目で言った。
主人公は箱をそっと抱きしめた。
鍵がなくても、この箱はきっと、忘れたままではいけないものなのだと、
なぜか、そう思えた。
その夜、はくぼうどうには誰も訪れなかった。
けれど、扉の向こうのどこかで、誰かが立ち止まっていたような気がした。
——それは、思い出すためではなく、
忘れすぎないための、小さな祈りのような夜だった。
続く
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