第13話 雨音に紛れた声
——その日、店には一日じゅう、しとしとと雨音が響いていた。
屋根を打つ音、濡れた葉のしずくが落ちる音。
水たまりに浮かぶ波紋までもが、まるで何かを語っているようだった。
主人公は、店先の古い木の椅子に座っていた。
いつもなら気づかぬうちに現れる来客を待つこともないのに、この日はなぜか、心がそわそわして落ち着かなかった。
「ユウ、今日は……誰も来ないのかな」
「来ない日もあるよ。君が覚えていないだけでね」
ユウは窓際の棚の上で、くるんと丸くなっていた。
雨のせいか、今日は少しだけ、まぶたが重たそうだった。
そのとき――
カラン、と鈴の音がひとつ鳴った。
だが扉は開いていない。
音は、奥の倉庫から聞こえた。
「……ユウ、今の、聞こえた?」
「うん。でも、あれは風じゃない。誰かが、“呼んでる”んだよ」
主人公は立ち上がり、いつもは鍵のかかったままの倉庫へと向かった。
扉に触れると、今日はなぜか鍵がかかっていなかった。
薄暗い倉庫の中。積まれた木箱の隙間に、ひとつだけ、ぽつんと置かれた小さなラジオがあった。
古びていて、もう動かないはずのそれが――微かに、雑音を響かせていた。
「……これは、動くはずないのに」
そう呟きながら、ダイヤルを回すと、不意にノイズの中から“声”が聞こえた。
『……いて、まだ……いるの……? あの時、言えなくて……』
一瞬のことだった。
すぐに音は消え、ラジオはまた沈黙に戻った。
「ユウ、今の……」
「うん。届いたんだね、“あの日の声”が」
ユウは、倉庫の入り口にちょこんと座りながら、小さく尻尾を振った。
「じゃあ……また来るのかな、その人」
「かもしれないし、来ないかもしれない。
でも、“君が思い出した”なら、きっともう、一歩近づいたんだと思うよ」
——雨音に紛れて、届いた声。
あれは誰のものだったのか、主人公にはまだわからない。
けれど、確かに心のどこかが、揺れていた。
そして、雨は止まないまま、静かに夜を連れてきた。
続く
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