第13話 VS ドラゴンワーム④トドメと魔人

一斉に駆け出す。

ガロは一歩下がり、拳に力を集中させている。


私達は先ほどと同様、的にならない立ち回りを展開する。

充分に、尚且つ離れすぎない適切な距離を保ち、ドラゴンワームの注意を引いていく。

私はドラゴンワームの正面に入り、わざと立ち止まる。

思惑通りドラゴンワームは私を標的に変えた。

動き出し私を食さんと飛びかかってくる。

速度は速いが、まだ躱せる領域だ。

私はギリギリで躱して、頭部に鎌を振り下ろす。


「くっ」


振り下ろした鎌は金属音を立てて鱗の上を滑っていく。

威力の足りない振り下ろしでは鱗すら貫くことはできなかったり

鱗に鎌の跡が付くだけに留まる。


ドラゴンワームは切り返して、尚も私を狙ってくる。


私は身構えるが、正面に突如土の壁が出来上がる。

ドラゴンワームは何重にも連なる土の壁を破壊しながら突き進むが、それにより死角が生まれた。


私はその隙に離脱し回り込む。

クトリが手をかざすことで僅かにドラゴンワームの動きが止まる。

その隙を狙って、リリィが矢を放つ。

矢は真っ直ぐに眼球目掛けて突き抜ける。

ドラゴンワームはクトリの妨害を受けながらも身体を捻り強引に躱す。

そのまま離脱したドラゴンワームは今度はリリィ目掛けて動き出す。

リリィは慌てた様子でその場を動き出す。

ドラゴンワームはリリィ目掛けて突撃する。


リリィ姉!


私はリリィ姉を助けるべく駆け出す。

レアードも妨害に入るが、ドラゴンワームの速度は落ちない。


間に合わない!


ドラゴンワームはリリィが居た所に突撃し砂埃が舞うが、砂埃の中からリリィを担いだカインが姿を見せる。


それを見て一安心する。


しかし、立ち止まっては居られない。

背後に回った私は頭部目掛けて飛びかかり鎌を振り下ろす。

あと少しで直撃するというところで、身体に衝撃を受けて吹き飛ばされた。


「くぅっ」


衝撃を受け流さず、吐血しながら宙を舞う。

地面に叩きつけられた私は背中を勢いよく打ち、呼吸が止まる。


体が動かない。


再び身体が限界に達し、身動きが取れなくなった。

指一つとして動かすことが出来ない。

しかし、ドラゴンワームは私を狙わんと飛びかかってきている。

私は目を見開き、顔を逸らすことができなかった。

視界の全てがドラゴンワームで染まる。

ドラゴンワームの口が開かれ、その中の真っ暗い空間がその目に映る。


食われる。


そう思ったのも束の間、私の身体が宙に浮かび上がる。

身体中に風を纏い、勢いよく転がる。

この感覚は知っている。

また助けられてしまった、と感じる。

さらに、事態は急展開する。

動けない仰向けの私の視界の外から爆発音と共に爆風が起きる。

何とか首だけを強引に動かして、状況を確認する。


目を見開く。

宙に舞う、レアードとエイト。

血反吐を吐きながら地面を転がっていく。


レアード!エイト!


強引に起きあがろうともがくが体が言うことを聞かない。

視界の端からはカインとクトリがレアード達を助けようと駆け寄ってくる。


これは・・・・・・。


私は視線をを上げる。

そして、再び目を見開く。

そこにはエネルギー弾をいつでも放てるように準備しているドラゴンワームの姿があった。






⭐︎






ドラゴンワームはエネルギーを収束して今まさに放たんと顔を向けていた。


カインもクトリも気付いていない。


カインとクトリの顔には焦燥感が見てとれる。

今の彼らにはドラゴンワームのことが見えていないほど焦っているのだろう。

当然だ。

仲間の死がかかっている上に、今までこんなことはなかったのだから。


今まさにカインとクトリが駆け寄り、エネルギー弾の発射が成されようとしているその瞬間、ガロの怒号が響き渡る。


「テメェら、この期に及んで何やってやがる!冷静さを失うんじゃねぇ。一箇所に固まるなんて素人がやることだ!テメェらそれでもAランク冒険者かよ!」


怒号を聞いて、カインとクトリは我に返り、立ち止まる。

自身が何をしでかそうとしていたのかに気付いたのであった。

そして、ドラゴンワームに目を向けて始めて状況を正しく理解する。


ガロの怒号は尚も続く。


「レアード!エイト!テメェらもいつまで寝てやがる!さっさと起きろ!ここで全滅したいのか!」


この怒号に反応して、レアードとエイトの指がぴくりと動く。


そして、ドラゴンワームは・・・・・・。


ピクッと視線を変えると照準をガロに変える。


標的を変えた!


ドラゴンワームはガロ目掛けて発射した。






⭐︎






ドラゴンワームのエネルギー弾はガロ目掛けて発射された。

エネルギー弾は真っ直ぐ軌道を描き、ガロ目掛けて飛んでいく。

そして、ガロの上空を通り地面に落ちる。


「よくやった」


爆風が背後から吹き抜ける中、ガロは笑みを向けた。


「ど、どうも」


レアードがうつ伏せで倒れた姿のまま僅かに上体を上げている。

口からは出血が見られ、顔色を青くしている。


「レアード」


ドラゴンワームの真下の地面には段差が出来ていた。

地面を陥没させたことにより、顔を僅かに上げさせ、軌道をズラすことに成功したのだ。


ガロの拳からはとてつもないエネルギーが見て取れる。

それは徐々に強い光と放電を発し大地を揺らす。


私達はそれを見て息を呑む。


すごい。

これなら確かに一撃で葬り去れるかもしれない。


ガロはゆっくりと前方に歩き出した。

準備が整ったようだ。


歩くたびに放電が地面を穿ち、そして弾ける。

素晴らしい威力であるが、放電している右腕から煙が常時立ち上っていた。


「待たせた」


ここが正念場。

私とレアードとエイトは無理やり身体を立ち上がらせる。

膝が揺れて身体を動かすたびに激痛が走る。


あと1分だけでいい。

あと1分だけ動ける力を。


私は膝に鞭を打って駆け出した。

隣を見ればレアードとエイトも表情を歪めながら駆け出していた。


ドラゴンワームは飛び上がっていく。


私達は武器を構え待ち構えるが、ドラゴンワームは私達の上を素通りし、背後に飛んでいく。


まさか!


私達は振り向いてドラゴンワームに目を向ける。

奴の狙いは初めからガロだったようだ。

私達には目もくれず一目散にガロに飛びかかる。


私達に目もくれないとは。

けど、これであの一撃がドラゴンワームにとっても驚異であると分かった。


絶対に通さない!


私は地を蹴り、飛び上がる。

ドラゴンワームの上空まで高く飛び上がり、鎌を構える。

しかし、ドラゴンワームが私に意識を割く様子は見られなかった。


あくまで狙いはギルド長だけか!


私は悪態をつく。

すると地面から無数の野太い土の棒が伸び上がる。

それはドラゴンワームの腹部に直撃するが動きが止まることはない。

しかし、レアードは血反吐を吐きながらもスキルの使用を止めない。


「クソォおおおおおああ」


レアードは必死の抵抗を試みる。


高い土壁も添えて妨害に専念するがドラゴンワームは未だ壁を破壊しながら進んでいく。

すると次はドラゴンワーム正面から爆風が発生し、ぶつかる。

気付けば、エイトがドラゴンワームと同じ目線まで飛び上がっており、両手を突き出して、竜巻を発生させていた。

竜巻は土壁を避けるように散らされており、正面からでは無くズレた角度からドラゴンワームの頭部目掛けてぶつかっていく。

全力のスキル使用により、ようやく動きが止まる。

そこにリリィの矢とカインが迫る。

カインが飛び上がったことで風が止んだ為、ドラゴンワームは身体を捩り迎撃しようとするが、再びクトリの妨害に遭い、一瞬動きが止まる。

すぐに拘束を解くが時既に遅く、リリィの矢とカインの剣が眼球を貫く。

悲鳴を上げるドラゴンワーム。


そんな様子を上空で見つめる私。

格好のチャンス。

今だ!

私は急降下し落下していく。

視線の先にはドラゴンワームの頭部。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」


渾身の一撃がドラゴンワームの頭部を切り裂いた。






⭐︎






ドラゴンワームは更に悲鳴を大きく上げ、落下する。

私も共に落下していく中、傷口に目を向ける。


確実に致命傷。

すぐに再生されるだろうが、僅かに思考が鈍ればそれでいい。

ガロの一撃が通れば。


地面に叩きつけられたドラゴンワームは地面に倒れ、もがき始める。

頭部の損傷を再生させなければ、地面に潜ることは出来ない。


私の上空に影が出来、視線を向ける。

そこには拳を構えて落下していくガロの姿があった。


「よくやった!範囲外まで退避しろ!」


ガロは落下していく。

ドラゴンワームはガロの存在に気づいたのか、踠きながら傷が治る間も無く、地面に潜ろうとする。

しかし、突如地面が割れ、ドラゴンワームが挟まる形となった。


「これで終わりだ・・・・・・」


地形が変わったことで、僅かに潜るのが遅れる。

その一瞬の間のうちに、ガロはすぐそばまで落下してきていた。


「これでトドメだぁ!」


ガロの一撃がドラゴンワームの腹部に突き刺さる。

溜め込んだエネルギーが一気に放出され、巨大な余波を生み出した。

エネルギーが半径数メートルまで膨れ上がり肥大化していく。

そして、肥大化したエネルギーが弾け巨大な爆発を生み出した。

爆発により、地面が大きく削れる、崩れ落ちる。


!!


突然地面が崩れたことで体勢を崩す。

気づいた時には私の体は崩れた地面を急落下していた。

視線の先にはガロやレアードを含む戦っていた全員と、ドラゴンワーム。

爆発の余波により数十メートル範囲で地面が崩れていった。

爆風が私たちを飛ばす前に、私達はドラゴンワームもろとも地下に落ちていったのである。






⭐︎






「ううん」


目を覚ました私が初めに見たのは巨大な地下空間だった。

周囲に目を向ければ既に全員目を覚ましており、立ち上がり周囲に目を向けていた。


私も立ち上がり周囲を見渡す。


周囲を壁で覆われ上に目を向ければ、崩壊した地面が見える。

そこから光が照らされ、地下の様子がうっすらとだが見える。


ドラゴンワームは見るも無惨な姿となっていた。

身体が木っ端微塵になり、消し去ることは出来なかったが、頭部から腹部に向けてほとんどの部位が消失しており、もはや、鱗と僅かな肉があるのみとなっていた。

動く気配がない為、倒すことに成功したのだろう。

一安心する。


「ようやく起きたか」


目の前にきたレアードが声を掛ける。

レアードは口から血を流し顔色を悪くしている。

リリィとカインに肩を借り、なんとか立てている状態だ。

2人とも笑みを浮かべている。

最後にやってきたのはガロ、エイト、クトリであった。

クトリもガロとエイトの肩を借りている。

ガロも見た目はボロボロ。

一撃を放った右腕に限っては、赤く腫れ上がり、熱で焼け爛れていた。


手を差し伸べたリリィの手を握って立ち上がる。

私達はドラゴンワーム討伐に成功した事を確信し、顔を見合わせ、笑みを送り合う。


しばらく休憩したのち、私達は脱出の方法を考える。

結論はすぐに出た。

崩壊した地面とレアードのスキルを合わせれば簡単に出られる事に気づいたのだ。

レアードはもう一仕事ある事に霹靂していた。






⭐︎






地上に出ようと一歩踏み出した時、背後から大きな音が聞こえ、戦慄した。


ゆっくりと背後に目を向ける。


再生を終え、こちらを見ながら佇んでいるドラゴンワームの姿。


ドラゴンワームの姿を身に焼き付けた瞬間、全身を震えさせるような咆哮が響き渡った。


もう戦う力はない。

全員が虫の息で、立っているだけで精一杯の状態であった。

全員の表情が歪む。

もはや、我々に抗う力はない。

ドラゴンワームはゆっくりと近づいてくる。


更に表情を歪め、ドラゴンワームを睨みつける。

その瞬間であった。


ドラゴンワームの背後から漆黒の斬撃が飛んできた。

ドラゴンワームは断末魔を上げる事なく、真っ二つになり徐々に形が崩れていった。


目を見開く私達。

あれだけ苦労した怪物がほんの数秒で消え去った。

その事実に我々は戦慄した。


消えたドラゴンワームの背後から何かが姿を現した。

漆黒の身体に赤のラインが不規則に入っている。

手には剣を持っており、そこから漆黒のオーラが浮き上がっている。


その存在は全身からドラゴンワーム以上の覇気を纏っていた。

身の毛がよだつほどの嫌悪感に支配される。


あれは絶対に人類の敵だ。

あれは確実に滅ぼさなければ人類が危ない。


そう感じるほどの禍々しさを放っていた。


その存在は私達を興味深そうに観察する。

端から目がいき、そして私と目が合う。


ドクン!


その存在と目があった瞬間、私の心臓が大きく脈打った。

その瞬間、胸が焼けるような熱さを感じたと同時に私の意識は闇に消えていった。






⭐︎






その存在が現れ、カーフェと目があった瞬間、彼女は意識を失った。


ガロはそれを見て警戒心をあらわにする。

何も分からなかった。

カーフェが何をされたのか分からない。

その事に驚愕したのだった。


目の前の存在は気を失ったカーファに目を向けて、歓喜の声を上げた。


「はははははははは!見つけた!やっと見つけた!はははははははは!」


見つけた?

何を言っているのか分からない。

カーフェがなんだと言うのだ。


「ふふふ、ここに身を置いて正解でした。この国に訪れて20年余り。ようやく、いい報告ができそうです」


「お前は魔人だな?」


ガロが口を開く。


「ほう。我々の存在を知っているとは驚きですね。もはや我々を知るものなどいないと思っていましたが・・・・・・」


「そんなことはない。国の上層部はお前達の存在を認識している。その姿を見たものは誰一人としていないだろうがな」


「ふふふ、確かにその通りですねぇ。何しろ我々が表舞台に姿を現すのは5000年ぶりですしねぇ」


その声を聞いて、そっと耳打ちするレアード。


「魔人とはなんだ?」


レアードは魔人の存在を知らない。

しかし、それは不思議なことではない。


「後で話す」


ガロは一言答える。


ガロは魔人の一挙手一投足に意識を集中させる。

聞いた話通りだとしたら、こいつはSランク以上は確実。

気を抜いたら一瞬でやられるかもしれん。


身構えるガロ達を見て、魔人は顎に置いた手を元に戻す。


「ふふふ、今日は素晴らしい日です。ですので今日だけはあなた方を見逃して差し上げましょう」


「!!」


「私の気が変わらないうちに消えてくださいっ」


魔人は笑みを浮かべる。

その笑みはまるで醜悪な者に見えて仕方がなく思えた。


「その前に、いい報告とは誰にする者か教えてほしいのだが?」


「ふふふ、これ以上の発言を許した覚えはありませんよ?私の気が分からぬうちにさっさと消えてくれませんかね?」


ガロは全員に撤退の命を出す。

レアード達は黙ってそれを受け入れ、撤退の準備を始める。


それを見魔人は踵を返す。

その足の向く先には先へと続く通路があり、その先には確実に何かがあることを示していた。


魔人がいなくなったのを確認したのち、ガロはカーフェを担いで地上に向かっていった。








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