第12話 VS ドラゴンワーム③最強の援軍

その光景に思わず目を見開いた。

私に向かって放たれたエネルギー弾。

レアード達の壁を破壊し、目の前まで来ていたそれは突如軌道を変え、森の深部へ落ちていった。


その余波によりあたり一面砂埃が舞い、何も見えなくなるが、程なくして落ち着きを見せ、元の景色に戻る。

視界の先には私達を照らす太陽。

雲一つない青空が私達を覗いていた。


私達は息を呑む。

あの瞬間、私達は確かに目にした。

あれはドラゴンワームが意図的に外したわけではない。

第三者が割り込んで外させたのだと。

そして、私達はそれが誰なのかを知っていた。

足音を立てながら森から一人老人が姿を現す。


筋肉隆々。

スーツのネクタイとジャケットを脱ぎ捨てボタンを二つほど外していくその仕草。

それにより、ボタンに隠れていた筋肉が主張を開始する。

両腕には長年使い込まれた小手を装着し、殺気をドラゴンワームに向ける人物。


「剛腕のガロ・・・・・・」


ギルド長ガロが姿を現した。






⭐︎






ガロはドラゴンワームに目を向けるとすぐさま動き出す。

ドラゴンワームは咄嗟に尾で迎撃を始めるが、全て簡単に捌かれる。

そして、すれ違いざま、腹部に一撃叩き込む。

その一撃はドラゴンワームの巨体を僅かに浮かせ、体勢を崩させる。

ドラゴンワーム自身も初めての経験なのか、慌てた様子を見せていた。


ガロはドラゴンワームを抜けて、私達の元へやってくる。

ドラゴンワームに向けていた鋭い眼光を私達に向ける。

エイト、クトリ、レアードと順に目を向け、最後に倒れ込んで動けない私に視線がいく。


そして、うんうんと一人頷いて考え込む仕草を見せるとゆっくりと顔を上げ、ドラゴンワームに身体を向ける。


「少し話をしたいから時間をもらうぞ」


ガロはそう言い放ち、拳を込める。

拳を込めるとガロの手に徐々に雷の様なビリビリと放電するエネルギーが集まり始める。


私はガロの背中を、そしてあの拳に込められた力を目の当たりにして、あの日のことを思い出す。


それはまだ冒険者になりたての頃、仲間殺しの汚名を付けられ一人ボロボロになりながら日々戦いに明け暮れていた頃、私はガロに一度だけ助けられたことがある。

魔物に囲まれ、もはや助かる見込みはないと言う状況でガロは現れた。

当時から彼はギルド長の任に就いていた。

その時もジャケットとネクタイを脱ぎ、ボタンを外す動作をしていた。

そして、あの一撃。

あの一撃によって目の前の魔物は全て一瞬のうちに消え去ったのだ。

あの時は興奮で胸が震えた。

あの強さは自分が目指すべきものだと思えるほどに。

そして、その時、始めてガロと言う人物のことを知ったのである。

元Sランク冒険者『剛腕のガロ』。


私は今、目の前でそれをもう一度見ることができていた。

ただあの時と違うことは、目の前の魔物が怪物であることだけだ。


ガロは拳を放った。

あの時よりも遥かに強力であろう一撃はレーザーの様に真っ直ぐ突き抜けドラゴンワームに直撃する。

それにより大きな爆発が起き、砂埃が再び舞い視界が悪くなる。


ガロは最後まで見届けることなく身体を私達に向ける。

それを合図に、エイトが始めに口を開いた。


「なぜ一人でこんなところまで赴いているのですか?」


エイトは血相を変えてガロに詰め寄る。

『自己再生』を発動させ、何とか動ける様になった私はエイトとガロのやり取りに目を向ける。

私から見てもガロの行動がおかしな事はすぐに分かった。

周りを見渡してもギルドの仲間が姿を現す様子はない。

その事から一人で来ていることは明白。

そして、ここは深淵の森。

指定禁止区域に一人で入ったことに対する抗議だと言うことは誰もが感じることだろう。


「そんなもの、俺しか入れる実力がないからに決まってるだろうが」


しかし、ガロは悪びれる様子もなく、むしろ腕を組んで上から発言をする。


「し、しかし」


ガロの眼光に気圧されながらもエイトは引かない。

それに気づいたからかガロは続けて口を開く。


「大きな地響きがトレストまで響いてきた。その地響きと同時に僅かに魔物の咆哮のようなものが耳に入った」


そこまで聞いて、私はドラゴンワームのことだと分かる。


「魔物の咆哮が街まで響くなんて普通はありえない。確かに今日は風が吹いていて偶々音が届けられたのだろうが、だとしてもありえない出来事だ。だから私が代表して来た。冒険者は今一丸となって街を囲むように陣取り、魔物の襲撃に備えてくれている。あまり、負担はかけられない。ここで確実に仕留めるぞ」


ガロの言い分を最後まで聞いて、私達は気合を入れ直す。

私達全員、今の一撃で倒せたとは誰も思っていない。

それはガロが仕留めるといったことが原因ではない。

ドラゴンワームの、Sランクの魔物の底知れない化け物っぷりを目の当たりにしたからである。


私達は土煙立ち込めるドラゴンワームがいた場所に目を向ける。

未だ土煙が舞い、状況を確認出来ない。

しかし、あの一撃を受けても再生出来ると確信していた。

やがて砂埃が止む。


そこには何もいなかった。


と同時に、足元が光出す。


「全員散らばれっ!」


突如、地面が爆発を起こし、躱し損ねた私とクトリは天高く打ち上げられる。


しまった!


万全な状態ではない為、反応が遅れる。

打ち上げられた私を食さんと口を開けて飛びかかってくる。


「エイト!」


「はい!」


何とか身体を捻り回避しようと模索していると、ガロの声が聞こえる。

それと同時に私の身体を風が包み込む。

そして、次の瞬間には私の身体は勢いよく移動を開始した。

地面まで降りてくると風から解放される。

隣を見ればクトリも同じように着地していた。


「カーフェ、クトリ。走れ!動きを止めるな!」


立ち止まりドラゴンワームに目を向けているとガロから叱咤を受ける。

私とクトリは走り出す。


ガロは隙を見て次々に指示を出す。


「レアード。今のお前では、奴に傷は付けられない。直接ぶつける必要はない。周囲に壁を置き、少しでも動きを鈍らせよ」


「リリィ。お前は森の中まで退避しろ。お前のスキルなら距離は関係ない。遠距離で眼球を狙い続けろ」


「カイン。お前の役目は奴の目を引くことだ。その速度で注意を引き続け、反撃の時を待て」


「エイト。お前もカインと同じく奴の目を引く動きをしろ。今回お前はアタッカーではなく、サポーターだ」


「クトリ。闇雲にスキルを多用しすぎるな。抗体ができてしまったら最大の隙を逃す。使い所を考えろ」


そして最後に


「カーフェ。今回は俺とお前がアタッカーだ。カインとエイトの動きに合わせろ。決して足を止めるなよ」


ガロは走り回りながら的確に指示を伝える。


すごい。


あまりに的確かつ具体的な指示に驚く。

始めから戦い方を決めていたのか?

いや、ドラゴンワームの存在は知らなかったはず。

だとしたら即興?

どの道、頼りになる。

これなら!!


私は縦横無尽に走り回る。

無闇に攻撃を仕掛けようとはせず、適度な距離をとって攻撃の機会を伺う。


ドラゴンワームは私とガロに攻撃を集中しようとしているが、レアードの壁にカインとエイトの妨害、そしてリリィの遠距離攻撃により、徐々に苛立ってきている様に感じる。


これなら時期に大きな隙を見せるだろう。

それまでは大きな変化を見せずチャンスを待とう。


ガロの指示により、ここまでは有利に立ち回れていた。

常に互いを庇いあい、支え合う。

ドラゴンワームは尾を振り回り、時には地中に潜るなどしているが、ガロの起点の効いた指示により皆何とか対応出来ている。


やがて互いに決定打のないせめぎ合いをしている中、とうとうドラゴンワームの攻撃手段に変化が訪れる。


ドラゴンワームは私たちを掃討する為に状態を上げると顔を真上にあげて、エネルギーの収束を始める。


これはエネルギー弾!


ドラゴンワームの仕草を見て表情を変化させる。


「カーフェ準備しろ」


エネルギー弾はその威力ゆえ攻撃後に数秒のラグが生じる。

それは数発受けた時点で誰もが気づく大きな隙であった。


私はそこから真っ直ぐドラゴンワームに向けて駆ける。

ドラゴンワームのエネルギー弾は始めこそ大きな弾の様であったが、そこから分裂する様に小さく幾つにも分かれる。


それを見て、私の心には一つの疑問が浮かび上がる。

もうエネルギー弾は放たれる寸前。

飛んで距離を縮めるのはいいが、飛んで仕舞えば格好の的だ。

このまま攻撃を仕掛けていいのか?

どの様に援護が来るのか?

成功するのか?

様々な考えが浮かぶが、それを吹き飛ばす様にガロの声が響き渡る。


「戸惑うな!飛べ!」


ガロはすでに跳躍しており、その腕には雷の収束により放電を見せていた。

その声を聞いて、迷いを振り払う。

そして、大きく跳躍した。

私とガロはドラゴンワームを挟見込む形で飛んでいる。

しかし、このままでは躱すゆとりはない。

そう感じた時、突如ドラゴンワームの体勢が崩れる。


足元を見ると、地面に真っ直ぐ割れ、階段の様に段差が出来ていた。

上部を向いていたドラゴンワームはそれに気づかなかった為、体勢を崩され、地面に頭をぶつける。

倒れた状態でもエネルギー弾の維持はされていた。

ドラゴンワームは真上にいたガロと私に向けてエネルギー弾を放つ。

エネルギー弾は幾つにも分かれたがその全てが私とガロに集中していた。


躱せない!


目の前まで迫るエネルギー弾を見て、私は思わず目を瞑る。


「そのまま振り下ろせ!」


ガロの声を聞いて、目を見開く。

ガロは自分に向かってくるエネルギー弾には目もくれず、私に向かってくるエネルギー弾だけに視線を向けていた。


まさか!


反応するのも束の間、ガロが放った一撃はガロの周囲のエネルギー弾には目もくれず、私の周囲のエネルギー弾を貫いていく。

ガロの一撃がエネルギー弾に触れるたびに爆発を起こすが、衝撃は愚か、爆風もろとも貫いてガロの一撃は森の中に消えていった。

障害が完全に取り除かれた私は全力の一撃を倒れているドラゴンワームの向けて振り下ろした。






⭐︎






再び感じた肉を絶つ感覚。


しかし、視線の先に危険を感じる音を感じて振り向く。

ドラゴンワームがこちらに口を開け、エネルギー弾を放とうとしていたのだ。


私は急いで回避せんと後退を開始する。

しかし、それよりも早くエネルギー弾は発射された。


分散されたエネルギー弾と同等のサイズ。

収束の時間が足りずに打ち出したエネルギー弾は真っ直ぐにこちらに向かおうとしていた。


しかし、再びエネルギー弾は上空から落とされた一撃とぶつかり、その場で爆発を起こす。


目の前の爆発が私を襲う。

爆風が吹き荒れ、私の身体は宙に浮き、大きく吹き飛ばされる。

地面を転がり続ける私であったが、何かにぶつかる事で動きが止まる。

暖かな感触と男らしい筋肉。

案の定、レアードによって受け止められ、事なきを得た。


私が立ち上がると同時に、ガロが上空から降りてくる。

私達のすぐ目の前だ。

ガロは体に大きな傷を負っていた。

一撃の影響なのかエネルギー弾を受けた衝撃なのか身体からは煙が上がっている。

それだけでなく体の至る所に、火傷を負い、シャツが焼けてしまっていた。


私はその姿を見て申し訳なく思ったが、ガロに心中を読まれたのか頭を撫でられる。


私はガロの手をはたき落として睨みつける。


「惜しかったな。だが、充分ヤツにダメージは与えられた・・・・・・」


全てを言い終わる前にガロは発言を止めた。


ドラゴンワームはゆっくりと状態を上げ、こちらを睨みつけてくる。

頭部への傷も即座に塞がり無傷の状態で佇んでいる。


流石にこの状況は読めてなかったのかガロが初めて表情を歪ませる。


「ワーム種はその巨体故に弱点となる核の場所が個体ずつ異なる。よって頭部への攻撃が基本的な戦略となる。頭部を攻撃すれば、機能が大きく低下するため、核の破壊の前にまず頭を潰すべき・・・・・・というのが定石だが」


「既に再生してますね」


隣にやってきたエイトがボソッと呟いた。






⭐︎






なす術がなくなり途方に暮れていた私達であったが、ガロはゆっくりと深呼吸して再び表情を引き締めていた。


「何か策がおありですか?」


ガロに尋ねるエイト。


「あそこまで再生能力が高い個体は見た事ない。ワーム種のSランクともなると勝手が違ってくるのかもな。頭部の再生速度から逆算するとおそらく従来の戦い方は出来ないだろう」


「と言いますと?」


「奴の身体全体を一撃で葬るほどの威力を打ち込むしかないって事だ」


その時、私は気づいた。

ガロが何を考えているのかに。

私達は顔を見合わし、そしてレアードが代表して口を開く。


「あんたが倒すってことになるな。だが、それだけの威力を今のあんたが叩き出せるのか?」


確かに考えていない訳ではないが、私も疑問に感じていた。

ドラゴンワームを一撃で倒す威力となると相当なものになる。

ガロにしか出せない威力だろうが、そもそもそれだけの威力を腕に溜め込むのは危険すぎる。


「反対です。あなたであれば可能かもしれませんが、それではあなたの身体が保ちませんよ!」


「だがそれしか手はない」


否定しなかった。

それが答えだということだろう。

しかし、ガロからはそれだけの覚悟が見て取れた。


「今俺たちがすべきなのはあいつを倒し、街に対する脅威を排除することだ。どの道、ここで倒しておかなければならない」


そうガロが発言すると、エイトは表情を歪ませて、口を閉ざした。

ぶるぶると拳に力を込めていることから、納得はしているのだろう。


「諦めろ。ガロさんは頑固なお方だ。一度決めたら貫くのがこの人のやり方だろ」


「分かっている」


クトリに諭され、諦めを見せるエイト。


それを確認してガロはふたたび口を開く。


「俺はこれから力を貯めなくてはならない。その間、時間稼ぎを頼む」


「どれくらいだ?」


レアードが聞く。


「5分だ」


その言葉を聞いてため息を吐くレアード。

現状、この場で無傷のものはいない。

私自身既に限界ギリギリであるし、ガロもダメージがデカい。

レアード達はドラゴンワームから距離を取っていた為、ダメージが少ないと思いがちだが、壁で攻撃を受け止めたり、妨害に達したりと、既に精神力と疲労が限界に達しているだろう。

ここからさらに苛烈を極めるとなると、もはやスキルの行使すら至難の業となる。


5分という言葉を聞き、表情が暗くなる私達。


「お前達、子供達を助けたいのだろう。好きなだけ飯を食べさせて、好きなだけ遊ばせて、好きなだけ勉強させたいのだろう?」


この発言を聞いて、私達は顔を上げる。

子供達のため。

そう考えるだけで力が湧いてくる。


「お前達もだ。家族を守りたいだろ」


エイトとクトリにも同様に発破をかける。

彼らの目にも力が戻ってくる。


「よし!全員、絶対に生きて帰るぞ!」


私達の戦いは最終局面に入っていった。








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