第11話 VS ドラゴンワーム②

見事に策が当たり、ドラゴンワームに会心の一撃を与えることに成功した。

ドラゴンワームは背中からお腹にかけて、致命傷と言えるだけの深い傷を受けたこととなる。

流石のドラゴンワームも重力、遠心力、そしてカーフェ自身のスキルを使用した腕力には勝てず、切り裂いた瞬間、悲鳴とも取れる鳴き声を発していた。


確かな手応えを感じた私は、地面に深く突き刺さった鎌を抜いて、ゆっくりと上体を上げる。

手には鱗を越えて肉を絶つ感覚が確かに残っている。

大ダメージを与えた自信がある。

しばらくその余韻に浸っていた。


しかし、ここでふっと違和感を覚えた。

何かがおかしい。

しかし、その正体が分からない。

その様に考えていたが、次の瞬間にはその違和感に気がつく。

上部からキュイーンという機械音の様な、不思議な音が響き渡る。

私は我に帰ると同時に、顔を向ける。

違和感の正体。

それはドラゴンワームが倒れなかったこと。

確かな手応えを感じたせいで、確実に致命傷を与えたと勘違いしてしまった。

いや、実際致命傷を与えることには成功したのだろう。

しかし、致命傷程度では倒れない。

それがSランクの魔物なのだとこの瞬間、認識してしまった。


目の前のドラゴンワームが顔を向けて、口を開けている。

口からキュイーンという音と共に可視化出来るほどのエネルギーが収束し巨大なエネルギー弾が出来上がっていた。


そして、回避行動をとるままなく、私の視界は目の前のエネルギー弾に包まれたのである。






⭐︎






カーフェの一撃がドラゴンワームを貫いた時、レアードは達成感に包まれていた。

ドラゴンワームが非常に深い傷を負ったことはここからでも分かる。

これは確実に致命傷だ。

隣から気配を感じたので振り抜くと隣にはリリィとカインが立っていた。

リリィもカインもレアードと目を合わせたのち、互いに笑みを向け合い、そして、カーフェに温かな視線を送る。

カーフェは切り裂いた余韻に浸る様に片膝をついてその場から動かないでいる。

レアードはそんなカーフェを見ながら心の中で祝福していた。

カーフェは心の闇を乗り越えた。

レアードはそう感じていた。

リリィとカインも同様だろう。

だからこその温かな視線だ。


しかし、その安心も束の間だった。

視界の端で何かが動いた様に感じ、視線を動かす。

そこに映ったのはドラゴンワームの頭部。

砂埃に隠れて見えなくなっていたため、気づかなかったが、ドラゴンワームは未だ起き上がったままだったのだ。

そのことに気づいたレアードはすぐに声を荒げる。

リリィとカインも顔色を変えて、大声をあげている。

しかし、遅かった。

ドラゴンワームはすでに反撃の準備を終えていた。

口からとてつもないエネルギーの収束を感じる。

あれを受けたら骨も残らない。

レアードは地面に手を翳し、軌道の修正を図る。

地面から鋭利な針を伸ばし、ドラゴンワームの傷を抉ることで軌道を変えようとした。

しかし、その前に巨大なエネルギー弾がカーフェを包み込み、その余波がレアードを絶望させたのであった。






⭐︎






目を覚ました時、私は全身の痛みに襲われた。

顔を顰め、目を瞑る。


「カーフェ、しっかりしろ」


レアードの声を聞いて、ゆっくり目を開ける。

視界にはレアードがいる。

どうやら私は意識を失っていた様だ。


レアードは私を見ると一安心した様にホッとしていた。

しかし、再び目が合うと、慌てて立ち上がりそっぽを向く。


それにより、体勢が変わり、頭を打つ。


いてて。


どうやらレアードに介抱されていた様だ。

リリィ姉とカインとも目があったが、2人とも一安心した様子を見せる。

私は立ち上がり、ドラゴンワームに目を向ける。


!!


驚愕した。

私が切り裂いた背中から腹部にかけて、傷が徐々に塞がっているのだ。


斬られた傷痕から皮膚が再生し、傷痕の修復を行なっている。


その姿は気持ち悪い。

その一言に尽きる。

よく見れば、眼球も同様。

ぐちょぐちょと変化が見られ、作り直している様に見えた。


「これは・・・・・・」


息を呑む。

流石のレアード達も言葉を発することができず、目を見開いている。


やがて完全に完治した様で、再び体の芯まで響く様な咆哮を放った。






⭐︎






「レアード」


エイトとクトリが向かってくる。


「クトリ、カーフェを助けてくれてありがとな」


「当然のことをしたまでです」


レアードが絞り出して出したのが今の言葉だった。

始めは意味が分からなかったが、次第に意味を理解する。


私がこうしてどこの欠損もなく生き永らえていること。

それが、クトリのおかげだと気づいたのだ。

おそらく、あのエネルギー弾発射の瞬間に軌道を一瞬変えてくれたのだろう。

そのおかげで後方まで吹き飛ばされたが、身体が消滅することはなかったのだと推測する。


しかし、頭を下げる間もなく、ドラゴンワームはエネルギー弾の2発目を放つ。


距離をとっていたこともあり、今度は確実に躱すことに成功する。

私達は散り散りに分散していった。


ドラゴンワームの狙いは私だった。

最も危険な存在として認識したのだろう。

先程の一撃を受けて、私を最優先で倒すべき敵として認識した様だ。

ドラゴンワームはエネルギー弾を細かく分散して放ってくる。

細かく散らされたエネルギー弾は全て私を狙って放たれた。

細かいといってもそれはドラゴンワームから見たらの話。

私から見たら一撃一撃がまるで隕石の様に感じる。

私は『身体強化』で一つずつ確実に躱していく。

しかし、数が多く、近づけそうもなかった。

そんな中、レアード達が動く。

躱しながら、視界の端で何かが動いているのが見える。

レアードだ。

レアードは地面に両手をつく。

すると、レアードの足元の地面から真っ直ぐドラゴンワームまでの地面に割れ目が出来るのが見えた。


何かを仕掛けようとしていることに気づいた私は回避に専念する。


すると、レアードは地面につけていた手を思い切り広げる。

すると、ドラゴンワームの足元の地面が割れ、ドラゴンワームの長い胴体が割れた地面に挟まれ、身動きが取れなくなる。


急な出来事に、意識を私に割いていたドラゴンワームは対応できず、頭部を地面に顎から叩きつけていた。

そこにエイトがやってきてドラゴンワームの上空から風の落とし、ドラゴンワームの身動きを封じていく。

クトリもドラゴンワームが暴れない様に一役買っていた。

そして、ドラゴンワームの死角から飛んでくるカイン。

カインは先ほどと同じ様に、ドラゴンワームの眼球を切り裂く。

もう片方の目もリリィが潰す。

再び両目を潰され、悲鳴を上げるドラゴンワーム。


私は今度こそ仕留めるため、ドラゴンワーム目掛けて駆け出した。






⭐︎






エイトが腕を振り上げる。

私の足元から風が巻き上がり、私の身体を高く舞い上げる。

上空まで上がった私は再び回転しながら落下する。

ドラゴンワームに大ダメージを与えたあの一撃と同じ。

今度は頭部を狙う。


回転を続ける鎌は段々と速度を上げ、もはや目で追える速度ではなくなっている。


カインは落下を始める瞬間から退避を始めている。

もはや、障害は何もない。

そのまま落下し、ドラゴンワームを頭部を貫こうというその瞬間、私は信じられない光景を見に目にしてしまう。


あと数秒、1秒未満の限られた時間。

『身体強化』によって身体全体を、目を、脳を、神経速度を限界まで強化したからこそ気づいた光景。


その僅かな刹那の時間、ドラゴンワームの眼球は一瞬で作り変えられ、再生したのだった。


そして、目が合う。


その瞬間、ゾクっと身体が竦み上がった。






⭐︎






あろうことか、この状況からドラゴンワームは反撃の準備を整えたのであった。

まず眼球の再生。

そして、何をしたのか、身体を挟み込んでいる地面と、上から吹き落とした風の壁を吹き飛ばし、自由を得たドラゴンワームはその場で身体を捻り、尾を振り上げ、私の身体全体を激しく強打した。


地面が大きく抉れ、クレーターが出来る。

砂埃が舞い、その中心に落ちた私の姿はどこからも目視できなくなっていた。


「カーフェ!!」


最大限の強化のおかげで咄嗟に受け身を取ることに成功したが、それでも意識を失いかける。

レアード達の声が聞こえたことでなんとか意識を保つことができたが、身体が動かず、仰向けのまま空を見上げていた。


再びキュイーンと音が耳に入る。

ドラゴンワームはエネルギー弾を放とうとしていた。

今度こそ死を覚悟した。

あれは躱せない。

動くことも出来ない私にあれをやり過ごすことなど不可能であった。


ザザザと音がしたため、逆方向に目を向けると私の元へ駆け寄ろうとするレアード達がいる。


ダメ!


声をあげたくても上げられない。

とうとう、レアード達全員が到着してしまう。

そして、それと同時に放たれるエネルギー弾。


レアード達は私を守ろうと壁を何重にも重ねるが全て無惨に潰されてしまう。


私は目を見開き、その光景を目に焼き付けていた。






⭐︎






「カーフェ!」


ドラゴンワームによって地面に叩きつけられたカーフェの元へ向かうレアード。


頭で考えるままなく足が勝手に動き、そして、クレーターを降りていく。

カイン、リリィ、エイト、クトリも同様だった。

皆、血相を変えクレーターを降りていく。

この行為は間違っている。

今まとまってカーフェの元へ駆けるなど全滅させてくれといっているも同然だ。

だというのに、気づいたら足が勝手に動いてしまっていた。


バカやろう!


心の中で自分に悪態を吐くが、その反面自分の行いが正しいとも感じてしまっていた。


そして、全員カーフェ元へ辿り着く。


ドラゴンワームはすでにエネルギー弾をいつでも放てる様になっている。

わざわざ待っていてくれたかの様に。


レアードとエイトはすぐさま全力で防御を固める。

レアードは土の壁を可能な限り、増やし、厚く、そして堅くする。

エイトは風の壁を可能な限り、濃く、厚く、強くする。

クトリも全力で軌道を変えるために尽くす。


ドラゴンワームは遂にエネルギー弾を発射する。

一瞬で土と風の壁の第一層を突破する。

第二層、第三層とまるで赤子の手をひねる様に簡単に突破していく。

余波で飛ばされ様になるレアードとエイト身体をカイン、リリィ、クトリで掴んで止める。

やがて第四層も突破され、残すは最後となる第五層。

エネルギー弾は未だ勢い衰えず、消える気配を見せない。


レアードは全力で土壁保とうとするが、無情にも土壁が先に崩壊し、目の前が絶望に包まれる。


青白い光を浴びたエネルギー弾が視界いっぱいに覆う。


しかし、次に見た景色は真っ白でも、真っ暗でもない。

いつも見ていた真っ青な景色。

雲一つない快晴とも言える真っ青な空の景色であった。

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