第42話 博物館

 午後になり、この日最後の目的地は空港の近くにある郷土博物館だった。国道から外れ、細い道を進んで先にあるため、マイナーなのか、志喜たちの他には車が一台停まっているだけだった。

「入館料、安ッ」

 大人一人三〇〇円だった。チコは小学生以下と見なされ、無料となった。

 一階の第一資料展示室には、湖や湾での漁業に関わる道具や木造船、季節ごとに獲れる魚のイラストやパネル、漁業の様子のジオラマなどがあった。館内には志喜たちの他に観客はおらず、駐車場の車はもしかしたら、施設関係者かもしれなかった。

 入場したては一同で並んでいたが、歩幅や見る関心の差によって自然とばらけていく。

 チコはあまり関心なさそうだったため、ロビーのソファに腰を下ろしていた。志喜は立ったまま、この館のパンフレットを広げていた。それを裏表一通り見た後、ふと目を上げると、あおゆきが直立不動になって、入口の外に顔を向けていた。

「あおゆきさん……?」

「姫様を頼みます」

 言うが早いか、あおゆきは施設を出て行った。

「ちょっと、あおゆきさん」

 言われたものの、チコを抱えて志喜もダッシュした。

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