ep-03 イケメン王子はビキニ鎧がお好き?(前編)

地下一千層、無限の闇を湛える≪大深殿ルオ=ヴァルス≫。


その百十五層目に〝純潔の魔女〟ことフィリアン・スパークスの潜伏する住居があった。


この層は巨大な空洞となっており、水脈を湛える地底湖のほとりに〝女神ベルタス神殿〟の遺跡がある。


その遺跡の一角に、自分でDIYしたバラックを建てて、フィリアンは生活しているのである


洞穴内は〝輝光苔シャイン・ウォート〟の群生地で、昼間のように明るく、それなりに快適だ。


ダンジョン内には独自の生態系があり、案外と美味い食肉が手に入る。


苔の光による光合成によって野菜やキノコ類なども育てられる。


そんなわけで三か月、ダンジョンに引きこもっても、フィリアンはそれなりに健康に生きていけてるのだ。


だが…………


「ああ……寂しいなぁ……」


やはり、たった一人の生活というのは、とても孤独である。


しかし……のままでは、ダンジョンから出て街に行くのもままならないのだ。


この……(ほぼ)全裸の、煽情的なエロエロ・ビキニアーマー姿では…………


「はぁ……、パートナーが……欲しい……」


「予は汝の相棒と認めるが、汝は?」


魔導鎧≪ヴァルミラックス≫が答える。


「はぁ? 誰が相棒だっての! カンベンしてよ!」


フィリアンは自らの裸体に貼りついく忌々しい鎧に毒づく。


「私の言うパートナーってのは……かっこよくてぇ、やさしくてぇ、イケメンな……彼氏のこと」


「認識を理解――生殖目的の雄体を欲求」


「ミもフタもない言い方をするなっ!」


そんないつものような、二人の漫才のような掛け合いをしている、その同時刻。


彼女らのはるか頭上……ダンジョンの上階では、世間を騒がすとんでもない事件が起きていた――。



   ◇ ◇ ◇



「なっ、ど、どういうことだ!?」


「と、扉に設置されたトラップが発動したようです!」


「なんでそんなものが……!? 殿下は!? レドリック殿下はいずこに……!?」


「わかりません! トラップは――≪転移テレポーター≫、おそらくダンジョンの別階層に転移したと思われます……!」


「護衛は!? 殿下の近従がいただろう?」


「い、いえ、トラップにかかったのは、殿下おひとりです……!」


「なんだとっ……!!!」


王国近衛騎士団第五連隊は、騒然となって愕然となった。


ヴァルディニア王国第二王子、レドリック・アプ・ヴァルディニアス。


今日の彼のダンジョン探索は、あくまで形式的なもの――冒険者を鼓舞する表敬訪問のはずだった。


ガチガチに武装した近衛精鋭に守られ、上層を軽く散策し、皆を慰問し、挨拶し、帰還する。


それだけのイベントのはずが――偶然仕掛けられたトラップに、王子が引っ掛かったのが事件の端緒だった。


「レイドック殿下の消息は……不明! 探索は……絶望的です」


「くっ…………! 無念……! 殿下……おいたわしや…………っ」


護衛責任者である近衛騎士連隊長アレックスは、ガックリと膝を落とし、天を仰いだ。



   ◇ ◇ ◇



「…………えっ?」


寝ていたフィリアンは、自分のベッドから飛び起きた。


なんだか、体が重い……


それもそのはず……何か謎の物体が、寝ていたフィリアンに覆いかぶさっていたのだ。


「な、なに……?」


驚いて跳ねのけようとすると……モゾッ……と謎の物体が動いた。


そして……剥き出しになったフィリアンの胸を、ガシッと揉む。


もみもみもみもみもみもみ……


「ひゃおをををっ!!?」


フィリアンは驚いてシーツをめくる。


そこには――イケメンがいた。


透き通るような金髪の、いかにも高貴な育ちらしい、見目麗しい美青年……


イ、イ、イケメンが……空から……振ってきた……!!??


「う、ううう……ん…………」


金髪イケメンが、悩ましい声で唸り、ゆっくり目を醒ます


「ここは……どこだ?」


キョロキョロと周囲を見回す。


そして……目の前にいる……(ほぼ)全裸の少女の、煽情的な裸体を目の当たりにして…――


「ほんげやああああああああああ!!!!!」


鼻血をブー。


そして昏倒した――。


   ◇ ◇ ◇



「す、すまぬ……! ご婦人のプライベートに突然闖入していまい……お詫びの言葉もないっ!」


「え、あ、いえ、だ、大丈夫ですっ! 私こそ……はしたないものを、お見せしまして……すみません」


気が付いた金髪イケメンと、エロビキニアーマー痴女が、とりあえず挨拶を交わす。


お互い背中合わせ、お互いの姿を見ないようにしながら――


「し、しかし……どうして貴方は……その、は、裸なのですか?」


「えーと……それには……海よりも深あ~~い理由がありましてぇ……」


フィリアンはドキマギして言葉を詰まらせる。


裸が恥ずかしいというもモチロンだが、何より相手である金髪イケメンが、あまりにイケメンだからである。


うわっ、この人……めっちゃ……カッコイイ……


こんな人が彼氏だったら……ステキだろうなぁ…………


夢見がちのな少女は、ついつい、妄想を広げてボーッとなってしまう。


「私はヴァルディニア王国親王、レドリック・アプ・ヴァルディニアス。どうやらダンジョンで道に迷ってしまったようだ」


「へっ、お、王子さま!?」


確かに、気品と風格のあるその物腰は、かなりやんごとない身分であることは予想していたが……まさか王族とは……!


「こっ、これは……もしかしてっ……た、玉の輿ッ……!? ひゃっほおおお!」


「……何か言いましたか?」


「あっ、い、いやなんでもないですっ!」


おちつけフィリアン! まずはお友達からだ!


あくまで私は清く正しく健全な男女交際を目指しているのだ!


やましいことなど何もない!


フィリアンは高鳴る胸をを抑えつつ、冷静にアドバイスする。


「と、とにかく……お城に戻りましょう」


「し、しかし……ここはどこだが、私には皆目見当が……」


「ダンジョンの出口までの順路なら、私が知っています。私についてくれば大丈夫」


「か、かたじけないっ! 貴方は命の恩人だっ……!」


イケメン王子が感謝の涙を流す。


「おまかせください、王子様」


と、いいつつ、すぐに帰してしまうのは、ちょっともったいたいな、とも思う。


ここは帰路の道すがら、仲良くなる作戦でいこう。


そんでもって、話が弾んで、お互い意識しちゃったりして……


そのまま恋が芽生えちゃったりして……


フィリアンさん、私はもう……あなたがいないと、生きていけません!


ああっいけないわ……私は庶民……身分違いの恋……


それに……こんなにエロいビキニアーマーなのよ?


かまうもんか! 君を妻に迎えたい……! 共に宮殿で暮らそう……!


ああっ、嬉しいわ……! 


ぶちゅーっ!


なんちってなんちって! むはーーーーーーーーっ!!!


「どうしました?」


「あっ、いいいいいいえっ!! なんでもありませんっっっ!!!!」


フィリアンは焦り、両手をブンブンと振って、思わず立ち上がる。


拍子に、エロビキニアーマーの股間が……ずれた


「あっ……!」


「どうしました!?」


そのリアクションに、驚いて思わず振り返るレドリック。


ち、ちょっ!!


「だ、だ、だめっ! み、みないでえええええええ!!!」


「!!!!!」


至近距離で、バッチリと王子の目に焼き付く、乙女の………………○○○○。


「ほんげやああああああああああ!!!!!」


王子、鼻血ブー。


「だっ、だ、だ、大丈夫ですかぁぁぁぁ!?」


「出血多量、冒険はしばらく困難と判断――」


≪ヴァルミラックス≫が、冷静に状況を分析した。



         つづく

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