第四章 大会に向けて

第26話

「リヴァ、三時の方向だ!」

「おけい! とりゃー!」


 背後から迫る、狼に似た魔物の襲撃を、リヴァはこちらの声を頼りに正確に躱すと同時に反撃する。

 二日前に買い与えた剣を彼女は完全に使いこなし、一太刀で魔物を切り伏せていた。


「ふぅ……これで九匹ね。主都の近くにこんなに魔物が出るなんて驚きねー」


「この辺りは農業地帯だからね、作物を狙った魔物も多いんだ。人間に撃退されるリスクを冒してでも、簡単に食糧を手に入れられるここを狙うって訳さ」


「そっかぁ……じゃ、今日はこの依頼報告して終わりにしよっか。私は寮に戻って、知り合った子達と訓練するね」


「はは、もう友達が出来たんだね?」


「うん、ランクが違うから討伐依頼には一緒に行けないけど、明日採取依頼に一緒に行くんだ。ケイアも来る?」


「いや、俺は採取依頼ならわざわざ行かなくても良いかな? ただ必要な道具もあるだろうし、ギルドで商売させて貰うよ。明日、ギルドで是非俺から買っていってくれ」


 リヴァの冒険者生活が始まった。

 俺が与えた剣は一級品のロングソードだということもあり、これまで以上に彼女の力を引き出しているように見えた。


 そりゃそうだよなぁ……いくら何でも、投げ売りされていたショートソードじゃ限度もあるだろうし。


 が、ここにきてリヴァが実力を伸ばしているのは、今日の依頼でもはっきりした。


 この魔物『ベジタルウォルフ』はランクCの魔物で、彼女の相手としては適正だ。


 だが……それはパーティーを組んだ上での話であり、断じて数分で、しかも一人で群を壊滅させられる相手ではない。


「本当、強くなったねリヴァ。もしも遠出することがあっても、君なら大丈夫そうだ。でも、初めて行く場所の時は俺に声をかけること」


「もちろん! ケイアは優秀なガイドさんでもあるからね、私専属の」

「冒険者専属、な。じゃあ戻ろうか」


 主都東口から出てすぐの農業地帯。

 ここは冒険者ギルドのある区画から近い為、頻繁に討伐依頼が出されることもあり、新人の良い訓練場所になる。


 が、明らかに場違いな強さを持つリヴァに、近くで同じ依頼を受けていた冒険者達から奇異の視線を向けられていた。


 あ、あと結構商品が売れました。

 道具袋と採取用のナイフ、結構仕入れてきたんだけど完売です。


「収穫祭まで後二週間か……」


 リヴァが最初に巻き込まれるイベントでもある。

 そのおおまかな内容はこうだ。



『毎年、この時期に開かれる、様々なギルド入り乱れての闘技大会』

『そこで、リヴァはビギナーリーグに出場しようとする』

『が、手違いで彼女は熟練者の入り乱れるエキスパートリーグに出場してしまう』


 こんな内容になっている。


 当然、ゲーム一周目では負けイベント扱いで敗退してしまうのだが、そこでの戦いぶりが目に留まり、昇級試験の代わりに『ある依頼』を所属ギルドから与えられるのだ。


 ……が、このイベントには分岐がある。

 二周目や三周目でデータを引き継いでいる場合、なんと負けずに勝ててしまう。

 それどころかしっかり育っていれば優勝まで出来てしまうのだ。


 すると……そこからルートが分岐し『求道者ルート』に入ってしまう。


 自分の強さを悟ったリヴァが更なる強者を求め、まだ見ぬ強者に勝負を挑み続けるというルート。


 すると彼女はついに単独で魔族に挑むべく、国を去り孤高の旅に出てしまうのである。


 ……ダメダメダメ! 絶対そっちには行かせないからな!

 なんとか手続きのミスをなくして、ビギナーリーグに行ってもらうぞ!






 ギルドでリヴァと別れた俺は、その足で自宅へ戻り、鎧を身に着ける。

 ……ちゃんと顔見せに行かないとな。フルフェイスだけど。


「クレアが戻ってくるか……なんでまた彼女自ら巡回に出ていたんだ?」


 これも俺の影響なのだろうか? ……懐かしいな、グラムとして初めてあの子達の上司となった頃も、色々とあの子には手を焼いたっけ。


「一八年か……段々と昔のことを忘れてきたな、そろそろ」


 思い出そう、忘れないように。

 思い出そう、リヴァや彼女達に不幸が降りかからないように――








「では、本日より残されたお前達を再編、壊滅状態の騎士ギルドを束ねることになった『グラム』だ。以降、私のことは団長と呼べ。また……私への反逆は即座に王国への反逆と見なしても良いとのことだ。だが……私は権力でお前達を縛りはしない。縛るのは……力への恐怖だ。不服ある者は挑むと良い。ただし五体満足で済むとは思うな」


 騎士ギルド新団長就任式典。

 初めが肝心だからと、どこぞの軍曹よろしくスパルタ風な挨拶をしてみたが、やはりというか想像通りというか……不信感が凄い!


 そうだよ、いくら王族からの命令とはいえ、いきなり知らない全身鎧の男が来ても信用出来ないよ! っていうかこの名前ってあれだろ、国宝の武器の名前だろ。

 有名だし偽名だってバレるだろ絶対。


「……団長様よ。なら、俺が挑んで勝ったらどうしてくれるんだ?」

「ふむ。貴様の名はなんだ、名乗れ」


「『ライカ・カーマイン』だ。俺は前団長にはイヤって程面倒な任務を出されてきた。そんで死んだから戻って見りゃ、いきなり王族連中から知らない男、ツラも見せねぇような人間を団長にすると言われる始末だ。アンタを負かしたら……俺を団長にしろ。この腑抜け連中を叩き直せるのは俺くらいなもんだ」


「なるほど、話は分かった。なら今すぐここでかかってこい」


 出た、原作キャラ。この人物は騎士ギルドにおける熱血親父枠。

 今はまだ二〇半ば程度だが、彼は騎士ギルドでは珍しい熱血漢で、不正を絶対に許さない、曲がったことが大嫌いな男だ。


 そして……それ故に遠方の任務に出され、主都には近づけないようにされていた。


「へぇ、話が分かる御仁のようだ。んじゃ遠慮なくいかせてもらうぜ!」


 式典の為、数の減った騎士ギルドの人間が整列する中から、ライカが駆け出してくる。

 剣を抜くつもりはないのだろう。

 殴りかかって来たライカの拳を掴み取り、背負い投げで地面に叩きつける。


「私も遠慮なくいかせてもらう。私は絶対だ、逆らうのなら今ここで絶対的な差を分からせてやる。見ての通りだ。もしも今までの騎士ギルドと同じだと思っているようなら即刻除隊しろ! 連行、処分された馬鹿な騎士もどきのようになりたくないのなら、性根を入れ替えるか今すぐここで除隊しろ! 分かったか!」


 若干、ドスを効かせるには幼い声も、ヘルメットのお陰で籠って聞こえる。

 そしてこのやりとりに、ギルドの人間達は恐怖し、完全に委縮していた。


 ……これでいい。

 今まで虐げられていた身分の低い連中は、まずは同じく恐怖で支配するに限る。


 いきなり優しくしたって、何も良いことはないんだ。

 今はただ……恐怖だけではないのだと、目的あっての行動なのだと分かってもらう。

 

 その為には俺が率先して行動で示すしかないのだ。

 絶対『古い考えの老害だ』なんて日本でなら言われるんだろうけどな。


「では、これよりお前達の新たな配属、任務を言い渡す! まず――」

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