第27話
「疲れた……喉が枯れる……」
団長室で一人になった俺は、ヘルムの顎部分を取り外して水を飲む。
ずっと声を張っていたので、喉が痛いわ反響する自分の声が煩いわで、中々にストレスになりそうだ。
「けど……まずはここからだ。とりあえず積極的に街の住人に生まれ変わった姿を見せないと話にならない……連中に騎士ギルドの誇りを思い出させるのは、その後だ……」
徹底した不正の禁止。賄賂の受け取り禁止。不必要な威圧行為禁止。
勤務時間厳守に加え、それ以外での騎士ギルドの鎧の着用禁止。
ギルドの名を私欲で振りかざすのも禁止。
これらを徹底し、街の住人からの苦情は全て俺に直接回すように厳命。
これでとりあえず数日、どうなるか経過を見てみるとして……。
「見習い騎士の受け入れ……今は安全だろうが、教団ギルドには預けたくないんだよな……そうなると中央にある学園に通わせるか……」
クレアとノルンを含めた、まだ正式にギルドに所属している訳ではない子供達の処遇をどうするか。
教団ギルドならば手厚く保護してくれるのだろうが、俺としてはゲーム本編での黒い側面を知っているだけに、どうしても素直に頼れないのだ。
ならば騎士志望を捻じ曲げてでも、術師として教育される中央の学園に通わせるか……。
一人考え込んでいると、団長室の扉がノックされた。
「入れ」
「し、失礼します……あの、私達は前団長の従者だった見習いで……」
「前団長の従者で、斥候兵としての教育を受けていたクレアと言います。こちらはノルンです。私達の処遇についてお尋ねしたく、無礼だとは思いますが訪問させて頂きました」
やって来たのはあの二人だった。
この二人は……出来れば騎士ギルドに残って教育していきたい。
だが希望があるのなら、出来るだけそれに沿ってあげたいと思う。
この子達はもう、十分に苦労を積み重ねてきたのだから。
「処遇か。見習いは一律、中央の学園に引き渡そうと考えていた。ふむ、ノルンとクレアか。元従者という話だが、お前達はどうしたい? 言ってみろ」
「私はこの場所に騎士になる為に入団を希望しました。今更他の道には行きたくありません。ここに残ることは出来ないのですか?」
「私も……出来たらクレアちゃんと一緒が良いです……」
やっぱりか。この二人が将来騎士ギルドを率いていくのは決定事項なんだろうな。
「ならば、お前達二人は私が直接指導しよう。先の粛清で、見習いを教育する人材がいない。そして私も信頼出来る部下がいない。どうせ信頼出来ないのなら子供の方がまだ扱い易いというもの。それでどうだ」
「それで構いません。危険な任務だろうとなんであろうと、私が受け持ちます。ただこの子……ノルンは戦いが得意ではありませんの。彼女には違う役目を与えて欲しいんです」
「クレアちゃんダメ! 私も危険な任務で構いません、だからここに残してください」
「分かった、では書類仕事の手伝いをしてもらおうか。クレア、お前は……暫くは他の騎士と共に主都警護を勤めろ。そして……不埒な人間がいたら私に報告しろ。無論、その相手が騎士ギルドの人間だとしてもだ」
どの道、今の騎士ギルドに満足な仕事は与えられない。
ならこれくらいしか今はしてやれない。これでどうだろうか?
「分かりました。感謝します、団長」
「か、感謝します」
「では、詳しい配属先は後程知らせる。下がれ、私は食事に向かう」
「あ、あの……でしたら一緒に……」
「断る。子供を連れて食事をするつもりはない」
ついうっかり面倒見過ぎちゃうじゃないですか。
ダメだダメだ、冷徹な団長として周囲に畏れられるくらいにならないと。
「……お願い致しますわ、私達だけでは食事を頂けません。寮での食事は基本、ギルドのお給金から食事代が引かれるんですの。まだ私達はお給金が出ていないので……」
「ごめんなさい、これまでは前団長があまりを分けてくれていて、その……」
おいマジかよ。俺の想像以上に扱いが酷くないかそれ。周りも助けてくれないのか。
というか、今の状況でも誰かに助けを請おうとはしないのは……意地なのか?
それとも信用していないのか? ……その両方なのだろうな。
俺の場合は、王族に派遣されてきた外の人間だから、多少は信用してくれているのか。
「仕方あるまい。今日のところは私に付き合うと良い。次回からはなんとかしておこう」
……もっと苦しめてから殺せばよかったな、あの前団長。
子供にひもじい思いまでさせていたのかよ、あの変態野郎。
「……好きなものを頼め。ただし、食べ残しは許さん」
「は、はい! 私が自分で選んでも良いんですの?」
「本当に? あの、私は団長の食べ残しで問題ないのですが」
「朝はあまり食べない。そうなるとお前に食わせるものがなくなる。大人しく選べ」
食堂に行くと、先程の就任式典が効いたのか、食堂内が一瞬で静まり返った。
「見習い騎士への食事は全て騎士団の予算から差し引いてやれ! そこのお前、今のことを宿舎にいる見習い達に伝えてこい! 行け!」
静まり返る中、周囲に聞こえるように指示を出すと、騎士の一人が慌てて出て行った。
見習いは学園に送るまで、まだ一週間はここにいる。
その間くらい費用はこっちで持てば良いさ。
本当……こういう差別が当たり前だと思っている貴族ばかりだとは思いたくないな。
もっと優しい世界設定でゲームを作ってくれよ本当。
誰だよ、こういう重い設定でGOサイン出したの……俺だよチクショウ。
「パンとサラダとコーヒーを頼む」
「は、はい。以上でよろしいですか?」
「ああ。この二人はまだ暫くメニューを決められない。少ししてから来てくれ」
流石に貴族が大勢いた宿舎の食堂だけはあり、街中の食堂よりも遥かに内装も上等で、当然、しっかりと手の込んだ料理が記されたメニューまで完備してある。
宿舎をなんだと思っていたんだ、捕まった連中は……。
「ノルン……これはなんて読むんですの?」
「ええと……フィットチーネ? キノコとたまごのフィットチーネだって」
「な、なんですのそれは……」
「わかんない……じゃあ私それにする」
「私も同じものにしますわ。あの、決まりました」
もし今の俺がケイアなら、すぐにでもお腹いっぱい注文させてやりたいのだが!
が、今はダメなんだ。冷徹騎士団長として……甘い態度を見せられないのだ……!
少しすると、俺の注文したパンとサラダ、そしてコーヒーが届けられる。
「……」
「あの、食べないのですか?」
「兜をお脱ぎになられては?」
「子供を放っておいて先に食べるヤツがあるか」
「は、はい」
少しして、さらに二人の料理が運ばれて来た。
なるほど、フィットチーネはパスタの種類だったのか。
そこまで詳しくないから俺も初めて知った。
流石は貴族向けの食堂だ、見た目の豪華さというか美しさが違う。
「来たな、食べると良い」
「あの……兜は外さないんですの……?」
「口の部分だけ外す。あまり顔は人に見せたくないのでな」
「わぁ……クレアちゃん、お料理だよお料理、一皿全部自分のなんだよ!」
「ノルン、はしゃがないの。頂きますわ、団長」
「あ、頂きます、団長」
あーもう、この子達の身の上ってどうなんだっけ?
クレアは貴族の出だったはずだが、どうしてこんな境遇なんだ?
それにノルンも、明らかに教育を受けていた形跡がある。
根掘り葉掘り聞く訳にもいかないか……。
今はとりあず……餌付けして警戒心を解いてもらうかね――
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