第25話

 城塞の名の通り、この区画は縦にも横にも広く堅牢で、巨大な塔に幾つも洞窟のようなスペースが空いており、そこに様々な工房や武具店が収まり商売をしている、まるでデパートに様々なテナントが入っているような場所だ。


 そして同時に『鐘響く』と呼ばれている理由として、まるで鐘を鳴らし続けているように、金属を叩く音が周囲に響いているのであった。


「うひゃー! うるさーい!」

「この辺りは特にうるさいね。少し路地裏の方に行こうか。表にあるのは日用品の修理や、オーダーメイドの逸品を作る場所だから、今のリヴァにはあまり関係ないんだ」


「へー! オーダーメイドって憧れるわ! ねぇねぇ、どういう武器が作られるの?」


「魔銀ミスラルを使った、魔法を切り裂ける魔剣や、どんな硬い鱗をも砕く強力なクラブ、鎧を簡単に貫く黒鋼の槍とか……物凄く高いから、将来の目標にするといいよ」


 そう説明すると、完全に夢見る乙女というか、憧れのヒーローに会えた子供のようなキラッキラの表情を浮かべていた。


「わぁ! 夢みたいね! そんな凄い武器、実在するのね! 物語みたいね!」

「そうだね、確かにそういう武器は憧れの対象だ。それで……今日買う武器はリヴァの希望に沿うつもりだけど、何が良い? やっぱり剣かい?」


「うーんと……さっきの試験で使ったみたいな、片手半剣か、ロングソードが欲しいわ」

「なるほど。バスタードソードかロングソードか……」


 オーソドックスな武器で助かった。それなら……あれが使える。

 ゲーム時代の救済措置がこの世界にも存在していた。


 ならば、他のショップ関係の小技や良いアイテムも実在しているのではないかと、確認したことがあるのだ。


 なので……俺は彼女に、ゲーム時代に存在していた『ある武器』を買い与える為、この区画の奥へ奥へと向かうのだった。




「ねぇケイアー……どんどん薄暗くなってきたよ? それに周りの音もどんどん聞こえなくなってきたし……」


「もう少し。この奥にね、掘り出し物の質の良い武具を扱う店があるんだ。まだ色々残ってると良いんだけど……」


 小道を幾度も曲がり、もはや日光もわずかにしか届かない薄暗い路地の果て。

 俺は、いろんなガラクタに道を塞がれている先に、ようやくその店に到着する。

 看板も何もない。ただ窓から中の様子が見え、それでようやく武器屋と分かる場所だ。


「店主さん、お邪魔するよ」

「……ん」

「お、お邪魔しまーす……あ、本当に武器屋だ……」


 店の中には、様々な種類の武器がところ狭しと展示されており、いずれも誰かの手を経てきたのだろう、使い込まれた跡が見て取れた。

 そして俺は、一振りの剣を飾り棚の中から取り出した。


「よし……リヴァ、この剣振れるかい? 店主さん、ちょっとこの剣、彼女に持たせてみていいかい?」

「ああ。振れるのなら振ってみろ」


 俺が彼女に渡した剣の名は『フェアウェルグラス』と言う名の細身のロングソード。


 この剣は……持ち主の攻撃力の半分がそのまま剣の攻撃力に上乗せされるという効果を持つ、成長する魔剣だ。


 実際の世界ではどんな効果があるかは定かではないが、少なくとも、彼女が今の段階で使える剣としては破格の性能、そして長く付き合える剣のはず。


 この世界では、貴重な素材で出来た武器や、一流の職人に生み出された武具には、ある程度持ち主に技量を求める意志のような、念のようなものが込められている。


 そしてそれは、実際に技量の足りない人間が振るうと、満足に扱うことが出来ないのだ。

 妙に腕が疲れたり、何も切り裂けないなまくらになり下がったりと様々だ。


 だが……この剣はどうやら、リヴァを持ち主と認めてくれているようだった。


 当然だ。ゲーム時代はこの剣、装備条件に『一定の技量と所属ギルドで中堅以上のランクが必要』と設定してある。

 つまりランクCのリヴァは、十分にそれを満たしているのだ。


「うわ……なんだろう、振ろうとするとちょっと軽くなったみたいに振りやすい……」

「……よし、気に入ったみたいだね。その剣でいいかい?」


「う、うん……なんだろう、私でも分かる……この剣ただの剣じゃない……とんでもない名剣だと思う……ねぇケイア、お金大丈夫なの……?」


「ふむ。店主さん、この剣いくらだい? 言い値で買うよ」

「……本来なら八〇万レインだ。だが……ケイア、久々に顔を見せたと思ったら、なんとも不思議な娘を連れてきたな。その子に持たせるなら八万レインで良い」


「なんだ、俺だって気が付いてたのかい? じゃあ八万レイン、口座に振り込んでおくよ。証明書や契約書は必要かい?」


「いらん。お前がそんなはした金を踏み倒すとも思えん」


 日本円にして八〇万の名剣、お買い上げです。

 本来は八〇〇万だと思えば破格の割引だ。


「は……はちまん……そんな高級品……え、でも本当ははちじゅう……そんな高い剣受け取れないわ!」


「いや、いいんだ。ここのお店とは昔色々と仕事の上で貸しがあってね。店主さん、本当は俺、タダで貰うつもりだったんだけど?」


「そりゃ剣に失礼ってものだ。ケイア、儂のことは良いが、剣を軽く見るのは許さん」


「……という訳だ。リヴァに受け取って欲しい。ずっと昔、いつか俺が買おうと思っていた剣なんだ、是非リヴァに代わりに持って欲しいんだ」


「私が……ケイアの代わりにこの剣を……」


「俺の夢の続きを、リヴァが見せてくれると信じている。だから、受け取って欲しい」


「ケイアの夢? ……うん、そういうことなら分かった。私、この剣でもっともっと強くなるわ」


 俺の夢。

 君の物語の先を共に見ること。

 そして……今やその夢は、君と共に未来へ向かうことへと変わっているのだ。

 だから……どうか、これからも君の軌跡を傍で見させてくれ。




 買い物を済ませ、この区画を後にする。

『鐘響く城塞(カリヨンパレス)』とはよく言ったものだ。

 俺は新たな剣を大事そうに抱えるリヴァと共に、冒険者ギルドの宿舎へと向かう。


「凄く綺麗な剣……白銀の刀身に金色のヒルト。なんだか女性向けってデザインじゃない?」

「そうだね、俺よりリヴァに似合う剣だと思うよ」


 中々見つけられない名剣。

 だがそのビジュアルは……ゲームの公式パッケージでリヴァが持っていたものなのだ。

 通常プレイではみつけられない剣を公式に持ってくるなんて嫌らしいが、そういうゲームなのだ。


 だが……これで、彼女の装備は安泰だろう。少なくとも武器は。


「リヴァ、その剣は見紛うことなき名剣だよ。だから、それに見合う剣士になるんだよ。毎日の訓練もサボらないこと。いいね?」

「勿論よ! ギルドの宿舎って練習場とかあるのかしら?」

「あるよ、だけど木剣で練習すること。その剣は強力過ぎるからね」


 リヴァの能力の半分が本当に上乗せされているのなら、恐らく俺が鍛えた彼女が使うと、終盤の武器と同じ程度のスペックはあるだろうから。

 そして彼女の剣の腕前も、同期の中では抜きん出ているのが分かっている。


 ……楽しみだな、彼女の躍進が。

 俺は、必ずこの街で頭角を現していくであろう、赤ん坊の頃からお世話をしていた、まるで娘のような存在である彼女の未来に思いを馳せる。


 必死に俺の名を呼び、手を伸ばしていた赤子の小さな手。

 その手が今は、未来を切り開く、美しい剣を握っている。


 ……この子の未来に待ち受ける不幸は、絶対に潰す。

 だから、見せてほしいんだ。君の物語、その先を――

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