第48話 天上天下唯我独尊

「さぁ、ワンディス殿!こやつらを倒しまっ、


ぶんっ

「こんのぉ、裏切者がぁ!」


無防備なINМインムの横腹に鍵がクリーンヒット!


ぶべらっあ!!!」

効果は抜群だ!

吹き飛ぶことは無かったが、INМは体を丸めながら口の端から血を流す。

「ぐっ…、流石はワンディス殿攻撃が重い!」

「言ってる場合か貴様!」

親指を立てながら溶鉱炉に沈んでいきそうな様子のキモヲタを介抱するルドルフ。コロコロと笑うばかりで何もしない九龍と違って、意外と優しいヤツである。

「はぁ?おいルドルフ、なんでそんな奴助けてんだ?」

ルドルフがアフDに対してキツイ物言いだったのに、元凶の片割れと言っても過言ではないINМへの対応の差にワンルーム・ディストピアは首を傾げた。

「あぁ、こいつは私達の味方になってくれたからな。懲らしめるのは一次的に止めていているのだ。」

「えっ、一次的でござるか?」

顔を更に青ざめるINМ。哀れである。

「味方ぁ?胡散臭ぇな。」

「まァまァ、ワンディスサン落ち着いて下サイ。利用できるモノはとことん利用スル、それだけデスよ。仮に裏切っタラ、遠慮ナク殺してくだサイ。」

「そもそも、大型ダーティニア三体討伐するのは我々三人だけでは厳しいだろう。…私だって、納得している訳ではない。だが、夢の世界から連れ出したのはこいつだ。最悪、肉盾として使えばいい。」

キモヲタ、酷い扱いである。

流石に哀れに思ったワンルーム・ディストピアだが、巨大な泥の手達が頬をかすめたことで、ツッコミから意識を取り戻す。

「って、やべぇ!呑気に話してる暇ねーじゃねぇか!」

襲いかかる泥の手を躱しながら、ワンルーム・ディストピアが大声を上げる。

「どうやって倒すんだよ!」

一般的に大型ダーティニアを倒すには黄金会のメンバーだとしても一体につき最低二人は必要だ。規格外ワンルーム・ディストピアが居るとはいえ、流石に厳しいものがある。

「それは___


「ッ!【シルト】」

それ・・に対応できたのは、この中で一番実戦をしてきたルドルフだけだった。

飛来してきたその魔法武器・・・・はルドルフの固有魔法であるバリアによって弾かれ、大爆発・・・を起こした。

バゴォォォォォォォォォーーーーン!!!

鼓膜を突き破るような強烈な破壊音が空気を揺らし、ゆらゆらと黒煙が辺りを覆い尽くす。文明に対する生理的嫌悪感を凝縮したような火薬の臭いが、ツンと鼻を突いた。ここが市街地ならなお酷い有様になっていただろう。

攻撃を仕掛けてきた人物が分からないワンルーム・ディストピアと九龍は警戒を露わにするし、攻撃の主を知っているINМイン厶は冷や汗を垂らす。しかし、ルドルフはINМと同様に知っていながらも、その反応は対照的で口を歪に吊り上げている。

「ハロー、ハロー。皆大好きアフDさんだよ!」

黒煙の中から姿を現したのは、数体の中型ダーティニアを引き連れた白衣の魔法少女だった。

「…よく私の前に姿を出せたな、泥クズが。」

「ワォ、ルドルフは相変わらずだね。祖国のこと、大好きってわけでもないのにどうしてそんなに憎むのか疑問だよ。」

「殺す。」

「怖いなぁ。まぁ、後で遊んであげるからちょっと待っててくれたまえよ。私は先に裏切者・・・の捕縛をしなくちゃいけないからさ。」

すっ、とおちゃらけた様子が霧散し鋭い眼光がINМを突き刺す。

「さて、どうして裏切ったのかな…INМアイエヌエムちゃん?」

(裏切っただぁ?)

ワンルーム・ディストピアはどういうことだ、と問いただしたかったがぐっと堪え、二人の少女の問答を見守ることにした。

「アフD殿、拙者は裏切ってなどおりませんよ。元々、拙者は仲間ではなかったでごさる。」

「酷いね君は。私達は君のこと本当に大切に思ってたんだよ?」

「実験生物として、でござろう?ワンルーム・ディストピア精神を確保したら要らなくなる、原初の魔法少女のINМ肉体の一次的な容れ物。」

INМがふっと自嘲した。

「それとも、ワンディス殿の魂に溶けさせるつもりだったでござるか?」

「まさか!魂の融合は多分出来ても一回までだからね。INМちゃんにはまた新しい肉体をあげるつもりだったのだよ。」

「それは新手のジョークでござるか?」

「いいや、本当のことだよ。はぁ…、Abyss先生も君には期待してたと言うのに。残念だ。」

そう言いつつも、アフDは緩やかな笑みを崩すことはない。

「無駄話はここまでにして、INМとワンディス君。君達には私と来てもらうよ。」

「行くわけねぇーだろばぁぁぁーかっ!頭のネジでも飛んでんのかこのクソタレ泥女!」

ワンルーム・ディストピアの知能が低そうな暴言を聞いても、アフDはニコニコと笑ったままだ。それは、自分が絶対的に勝利する事が確定している勝者の余裕だった。

「今来れば痛い思いをしなくて済むし、君の願いも叶えらるよ?」

「俺の願い?」

「そう、君の働きたくないという願いだよ。」

「っ!?」

(え、俺ニートってことバレたのか?)

冷や汗をだらだらと流すクソニート。

今までミンを除く周囲に暴かれなかったクソみたいな現状を明かされれば、こいつのちっぽけなプライドがバッキバキになることは確定である。

「これは今までの君の行動を私なりに分析した結果だよ。戦いから逃げ、困っていても人を見捨て、出来るだけ楽な方に流れてきただろう?」

「…それがてめぇに着いてくことと関係あんのかよ!」

それはそうである。

「大アリさ!君が魔法少女をしているのは、ダーティニアによって生活が脅かされているからじゃないかな?もし来てくれれば、私達はこの世界に・・・・・平和を齎すよ・・・・・・。」

両手を炎で赤く染まる空の上で大きく広げ、天使のような微笑みを浮かべるアフD。

「平和、ねぇ。まぁ、確かにいいことかもしんねーな。」

アフDが笑みを深くする。

「けど、俺はてめぇの齎してあげます・・・・・・・って上から目線がクッッソムカつくんだよ!何様のつもりだてめぇ!そもそもお前らが侵攻してきたくせに何が平和だ!どうして俺達が譲歩しなくちゃいけねぇんだよクソ泥ぉ!」

盛大に中指を立て、アフDを睨みつける。

「…おかしいな、私の分析パターンと違う。もしかして、原初の魔法少女の魂が混ざった副作用かい?」

1+1の答えが2ではない事に疑問を覚える学書のような顔をするアフD。

「だとしたら、その思考は前の君のものであって今の君のものではないよ。」

白い百合のような手を伸ばしてくるアフD。

「さぁ思い出すんだ、本当の君を。」

「…。」

その言葉に対して、ワンルーム・ディストピアは


ブンッ!!!

ゴッッッキヤァァァァ!!!

「が、はっ…!?」


迷いなく攻撃を返した。

瀟洒な銀のレバータンブラー錠が、アフDの横腹に食い込み、骨と肉に多大なダメージを与える。INМインムに対して行ったそれとは違い、完全なる敵意が籠められたその一撃はアフDを驚愕させる。

「ごふっ!げほっごほっ!」

口からとどめなく溢れる泥のような血に噎せながらも、アフDは護衛のダーティニアをクッションにすることで吹っ飛ばされることは無かった。

「ど、ぅして…ゲホッ、だい?」

カヒューカヒューとなんとか息を整えながら、トロトロとした血や折られた白い骨が突き刺さった柔らかな臓物を体から落とさないように腹を押さえるアフD。そこには先ほどのような余裕は無い。

「俺もよぉ、本当の自分が何なんのかとかちぃーっと考えたぜ?」

テラテラと血が着いた鍵を揺らしながら、ワンルーム・ディストピアはつらつらと言葉を並べる。

「でもそれって、ムカつくお前を倒すより大切な事だとはどうしても思ぇねんだよ。」

「ごほっ、それは…、後回しの考えじゃ、ないかい?」

「るっせぇ!俺はメソメソウジウジ考えんのが大ッッッ嫌いなんだよっ!」

ワンルーム・ディストピアは、ビシィッ!と銀の鍵を敵達に向けた。その瞳に迷いはなく、ただ迸るような闘志だけが漲っている。

「思い立ったが吉日!まずはてめぇらを土下座させてから小難しい事を考えるだけだぁ!」

銀の鍵が、主と同じようにギラリと輝いた。


オマケ


違うんです。正月でサボっていた訳ではないんです。信じてください。








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ワンルーム・ディストピアは働きたくない 椎螺艦澄 @kotatumikn

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