第3話 Oh! My サン!
「はっ!俺はいったい…。」
記憶喪失系アニメの主人公のような台詞を吐いて起き上がる二。目の前には仁王立ちしたヘンテコな生物が仁王立ちで立っており、灰二を睨みつけている。
「え〜〜と、どちらさん?ここは地球ですよ?宇宙人ならお帰りはあちらです。」
何故か開けっ放しになっている窓を指差す灰二。頭に多大なダメージを受けたせいか、気絶する前の自分が何をしていたのか覚えていないようだ。
「俺は宇宙人じゃない!俺の名はミー・ホライズン。MASCOTだ!このヤロー!」
「んん?」
女児向けアニメに出てきそうな可愛らしい声で、物騒なこと言うMASCOT。ギャップが酷すぎて灰二の故障している頭は理解を拒む。
「だから、MASCOTだって言ってるだろうが!」
「え、マジ?」
「マジもマジだわ!」
「なんで俺の所に来てんの?というか、逃亡してきたマスコットは魔法少女省に駆け込むのが普通だろ?」
「うっ、それは…。」
そもそも、MASCOTがゲートからやって来たならば、ゲート付近を交代で見回りをしている魔法少女と接触するのが普通だ。接触した後は、MASCOTは魔法少女省へと保護されるのが一般的である。しかし、お役所の人間と一緒に来てない所を見るに、このMASCOTは正規ルートで来たわけではなさそうだ。
「なんかきな臭ぇな、おま…あー、ミーなんちゃらさんよぉ。」
「べ、別に俺は怪しくないぞ!というか、俺の名前はミー・ホライズンだ!」
「長いなおい。あー、じゃあミンで。」
「勝手に略すな!」
「まぁまぁ、そこはどーでもいいだろ。」
「良くない!」
コホン、と灰二が態と溜息をついた。話を強制的に切り替えるときはこうするのが一番だ、と灰二は知っているのだ。
「いやさ、ミンさんよぉ。男の所に来てる時点で怪しさ満点すぎるだろ。自分を客観視するくらいはしろよ。なんだ、もしかして異界には鏡が無いのか?」
「鏡くらいあるに決まってるだろ!………って、え?お前ってオトコなのか?」
眉をハの字に下げ、困惑した表情を浮かべる
「オス・メスの違いも分かってねぇのかよ!このど阿呆!」
「人のオス・メスは区別しにくいんだよ!それに、俺はただ自分のカンに従って魔法少女の適合者の所にやって来ただけからな!だから…、てっきり、オンナの子だと思ったんだ!」
「ざーんねーんでーしたー。俺は男でーす。お帰りはあちらでーす。とっとと帰れやこの人形もどき。」
「口悪っ!…ホントにお前が魔法少女候補なのか、俺も自分を信じれなくなってきた…。」
「知らねーよ。」
そう言つつ、スマホで"魔法少女 男"と検索してみるが、出てくるのは魔法少女絡みのスキャンダル事件のみ。男が魔法少女になった、などという例はネットには載っていない。
(やっぱ、これオンボロマスコットなんじゃねぇの?)
胡乱な目で軽く睨みつける灰二。目の前のミンはうーん、と唸った後、吹っ切れたような顔になる。それはギャンブラーがもうどうにもならないと諦めたような、嫌にスッキリとした顔だ。
「ま、変身させてみればいいか!」
(ヘンシン?…あっ、変身!?)
「はっ、ちょおまっ!」
何をさせられるか瞬時に察した灰二は目の前の存在を蹴ろうとするが、
一足遅かった。
「【変✩身!】」
シャラララララララ!
どこからか軽やかな鈴のような音が鳴り響き、灰二の周りにラズベリーピンクの霧が出現する。ふんわりとしたファンシーなラズベリーの匂いが部屋に充満していく。元々部屋に漂うペ◯ングの匂いと混ざって、地獄のような香りになってしまった。犬や猫がこの部屋に来たら、卒倒すること間違いなしだ。
「うわぁあ!なんだこの体に害のありそうな霧!訴えてやるぞ!」
灰二はどたばたと霧から逃れれようとするが、霧はうっとおしく纏わりつくため払いのけることが出来ない。
「うるさい!オトコは度胸だろうが!」
「あー、性差別だー!いっっまの時代はLGBTQが大切なんだぞー!こんの、時代遅れの中年マスコット!」
「だぁーれが中年だぁ!!俺はピッチピチの二十九歳だ!」
「おっさんじゃねぇか!」
「おめーと年齢はさして変わらねぇだろ!」
「二十五と二十九は別物だろうが!」
「はぁ〜?てめーだって数年後はこうなってるんだぞ!バーカ!」
「黙れや!」
ぎゃいぎゃいと騒ぐうちにも灰二の体と服は変化を起こし、原型を失っていく。痩せ型の男の体は華奢な少女の体に、ユニク◯で買った灰色のジャージはラズベリーピンクと黒を基調とした学生服に。ローラーシューズが形成され、ややサイズが大きい黒のコートが羽織生成される。
数秒が経過し、とうとう変身は終了した。
「お、やっぱり変身できてるじゃないか!」
無事魔法少女に変身した灰色の姿を見て、色めき立つミン。対して、灰色はワナワナと震え…、
「頭がおめぇ!目線が低い!なんだこのクソみたいな体!」
変身した肉体に文句をつけていた。
まぁ、それも仕方のないことだろう。灰色、いやこの体の髪型は腰まで届くようなバカでかツインテールだ。ゆうなれば、頭にキロ超えの重りを乗せられたようなもの。身長だって、170cmから150cmへと下がってしまっている。そして、目線の変化は灰二にとてつもない屈辱感をもたらした。灰二は兄に身長で負けているせいか、平均ほどしかない元の身長に不満タラタラだったのだ。それがこんな低身長になってしまったら、ちっぽけなプライドがべっきべきになるのも致し方ないだろう。
「くそ、本当に魔法少女になっちまっ………、ん、少女?」
アルコール中毒者のようにガタガタと震える手で股間を弄る灰二。26年間を共にしてきたそいつを探し出す。が、
スカッ
帰ってきたのは虚しさだけ。あのぶにぶにとした感触は消えている。
(女ってことは、これ…、あ、)
コロコロコロ…アイデアロール成功! SAN値-5
発✩狂!やったね!
「おっ、
あらん限りの慟哭を叫ぶ灰二。普通の魔法少女ならここは喜ぶ場面だろうが、灰二は成人男性。TSしたという事実は通常性癖クソニートを発狂させるには充分すぎるのである。
「るっせぇんだよ、叫ぶなっ!美少女になれたんだからいいだろうが!」
煩ささに言い返すミン。こちらも契約者本人に似てMASCOTとは思えない程の口の悪さだ。案外、馬が合う奴らなのかもしれない。
「良くねぇよド阿呆!ち◯こが無くなってんだぞ!」
「代わりに胸が出来たんだからいいだろが!」
「貧乳だろうがこの体!断崖絶壁だわ!谷間どころから揉む部分がねぇんだよ!」
「ないよりマシだろ!」
「いーや、こんなんだったら無いほうがいいわっ!」
ぎゃーすぎゃーすと言い争う二人。あまりにも醜い光景だ。誰が見ても、これが魔法少女()とMASCOTの健全な出会いだとは到底思えないだろう。
だが、文明の悲鳴が鳴り響いたことによりその不毛な争いは終止符を打たれた。
ビィィィィィィィィィィィィィイイイ!!!!!!!!!
『第1種警戒警報発令。市民の皆様は直ちに地下避難シェルターか、空中都市への避難を。繰り返す。第1種警戒警報発令。市民の皆様は___。』
ゲートが観測、または蠢きだした場合に発される緊急避難警報。その高Hzの警告は街中に蔓延し、人々の根源的恐怖を思い出させる。その直後に無力な一般市民の悲鳴と怒号の洪水が街を満たす。
当然、ボロアパートに居る二人にもその音は届いてきた。
「
ボソリ、と呟くミン。か細いその声は、音の濁流に流されて、運良く灰二の耳には届かなかった。
「第1種警戒?大型のダーティニアでもやって来たのか?」
不穏な言葉を聞き逃し、頭の中にしまい込んでいた知識を引っ張り出す灰二。この街で第1種警戒が出るのは、実に二ヵ月振りの事だ。普通の人ならばちゃんと覚えておくのだが、灰二にとってはこんなこと、遥か昔のことになってしまっている。
緊急避難警報はダーティニアの脅威によって3、2、1、特級と段階が上がっていく。1ならば街に深刻な影響が及ぶこと間違いなしとされており、安寧に生きる人々からすれば突然の死刑宣告となんら変わりは無い。
「まさか訓練も無しに戦わせる事になるとはな…。」
申し訳なそうに、そう呟くミン。彼からすれば、少しづつ力に慣れさせて実戦をさせるつもりが、まさかこんなことになるなんて予想もしていなかったのだ。
「ん…?」
「大型はベテランの魔法少女が大人数で連携して、やっと倒せるような存在だ。いかにお前がクズだからといって、腹いせに戦わせていいやつじゃない。」
「んん?」
「本当なら逃がした方がいいのは、分かってる。これは、俺のエゴだ!」
彼の脳裏に
『ここは通してやらないわ、ダーティニア!』/『速くッ!速く逃げなさい!ミー!』/『ごめん…、僕はここまでみたいだ。せめて、君だけでも…。』
必死にダーティニアに抗う両親、自分を地球に逃そうとして殺された姉、飢餓によって道半ばで倒れた親友…、数々の犠牲を乗り越えて、彼はここまでやって来たのだ。
「それでも、戦ってくれるか?」
不穏げに手を伸ばす、ミー・ホライズン。
「…。」
部屋には柔らかな夕日が差し込み、二人をオレンジ色に眩く照らしだす。光を浴びながら、ミンの瞳はキラリと決意に輝いていた。
灰二はその優しさが満ちたその暖かい手を…、
「えっ、嫌だけど。」
ばちん!っと追い払った。
オマケ
灰二の衣装…魔法少女のコスチュームは本人の願望や今の状態に合わせて作られている。
学生服→灰二「学生時代に戻りてぇよ!ちくしょう!大人になんてなりたくねぇ!」
ローラーシューズ→灰二「就活できずに足元固めてないからか!?舐めてるのかよ!あぁ?」
コート→灰二「せめてもの大人っぽさを出してるのか?これで?餓鬼が威張ってるだけにしか見えねぇぞ。」
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