第2話 自分勝手な出会い

資本主義社会に生きる者は、大方三つの人種に分けられる。

夜景を優雅に見下ろす資本家、汗水垂らしてひぃこら働く労働者、そして生産性皆無のニートの三つだ。

逆元灰二サカモトハイジはニートに属する人間である。

年齢は二十五。性別男。趣味は掲示板で対立煽りをすること、という至って平凡な人間だ。

いったいどうしてこの無味無臭のような彼が社会の毒にしかならねぇニートになってしまったのか。

それは四年前に遡る。

当時、大学4年生の灰二は就活を舐めきっていた。

「就活活動ねぇー。こんなに早くからやらなくてもよくね?いや、どうせガチれば四年の秋頃でも受かるだろ。」

と、就活を後回しにしやがったのだ。

大した学歴もガクチカも無いくせに、自信だけは妙に一丁前という低能さをひけらかす様な行動をする灰二。お前のゴールデンタイムは刻々と減っているのだから、とっとと就活をすべきである。しかしこの男、次々と内定を貰う同期を見ても、自分はもっとじっくりと悩んでホワイト企業にストレート就活してやるよ、なーんて甘ちゃんな考えを抱いていたのだ。とんだ阿呆である。

さてはて結果は皆さんお判りの通り、灰二君は内定を得ないまま卒業してしまいました。まぁ、当たり前である。

母親からは

「灰二、あんた何やってんの!お母さんはニートを作るために大学通わせたんじゃないのよ!」

と責められ、五歳年上の兄からは

「灰二。俺の知り合いの人が雇ってくれるかもしれないから、取り合えす面接だけでも来ないか?今年は…、まぁ全体的に就職氷河期だったから、受からないのも仕方ないよな。」

と慰められる始末。もちろん今年は就職氷河期でもないし、面接は当日にドタキャンした。

そんなこんなで春夏秋冬ひととせが三回過ぎ、とうとう二十代後半に差し掛かってしまった灰二。この年になると、実家に小学校の同級生が"私達、結婚しました!"とポストカードを送ってきたりするように。(ちなみに、ポストカードは無惨にもビリビリにされてしまった。南無。)

就職するのも本気で厳しくなってくるが、灰二は未来の事など全く考えていなかった。とりあえず、明日の分のペ◯ングと冷蔵庫にマヨネーズがあるならそれでいいや、などと楽観視しているのだ。人生楽しそうで何よりである。

そんな灰二の生活が少し変わったのは、四月一日。いわゆるエイプリルフールの日のことだった。

「クソがっっっ!なんでそこでミスんだよっ!おめーの位置ならヘッドショット出来ただろーがよぉ!この---(不適切な発言)---がっ!」

FPSで味方の失敗にキレ散らかす灰二。真っ昼間からいいご身分である。

「こんなクソゲー売ってやる!いーや、窓からぶん投げてやるわっ!」

とうとうゲームにまで当たり散らかす二十六歳児。

物が散乱した汚部屋で、体が大きいだけの子供が昼からゲーム三昧。…現代社会の風刺としては中々だが、これはアート作品ではなく現実なので、結構キツイ。母親と兄が見たら絶句すること間違いなしである。

「なんでこんなに立て付けわりぃんだよこのクソ網戸っ!ぶっ壊すぞ!」

ガタガタと備え付けの網戸を揺らしながら苛立つ灰二。

彼が住んでいるのはキッチン、浴槽&シャワー、トイレ、そして洗濯機が完備しているワンルームだ。都心に位置しているのに家賃は水道光熱費込みで約3万5000円。文字通り、破格の安さである。

Q どうしてこんな好条件の物件がこんな安いのですか?

A 耐震性をドブに捨てているからです。

実はこのボロアパート、震度一の地震が来ただけでグラグラと揺れるくらいには耐震性が低い。バッド・フロンティア以前から建てられていた物件で、築年数は約70年。そりゃあ脆いはずである。

住人は灰二を含めて四人しかおらず、しかもそのうち一つは大家なので、借りて住んでいるのは灰二を含めて三人だ。本来の半分の住人しか居ないボロアパートは、まるで寂れたお化け屋敷のようである。(8部屋中4部屋しか埋まっていなければ、そうなるのも当然だ。)

慣れれば大して怖くない(灰二談)のだが、初見の人間は大体この独特な雰囲気に飲まれてしまうのだ。そのためか、内見に来た奇特な人間は殆どがとんぼ返りをしてしまう。実に賢明な判断である。

こんな物件なので、網戸の立て付けが悪いのも仕方のないことなのである。とはいえ、それに八つ当たる事から灰二の人格は伺えてしまうのが悲しいところだ。

がしゃん!

格闘すること約五分。クソニートVS錆びついた網戸の決着がようやくついたようだ。

「しゃおらっ!物ごときが人間サマに逆らうなんて頭が高いんだよ!ハーハッハッハッ!」

ゲーム機を不法投棄する人間の方が古びた網戸よりも格が低そうだが、お花畑な頭の持ち主はそんな事にすら気づいてないようである。いや、高笑いをしているから破滅する悪役令嬢だろうか?

まぁ、どちらにしろ馬鹿という事に変わりはないのだが。

「さ、て、と。今から捨ててやるからな〜、このポンコツが。」

せっかくなら遠くに投げてやろうと野球選手っぽいフォームを意識して投げようとする灰二。窓から数歩下がり深く息を吸う。軽く助走をつけたら、

「ふんっっっ!!」

全力でぶん投げる!

シュッ!

冷房が効きすぎてもはや寒い部屋から、風切り音を響かせながらいきなり暖かな春の空を飛ばされたゲーム機。買われた当初は御神体のように大切にされていたのに、現在はただのゴミ扱い。実に哀れである。だがまぁ、

「ふ〜、たーまy


ぶちゃあっっっ!!!


顔面に硬い粗大ごみを直撃させられた彼よりかは、幾分かマシだろう。


…ぁあ?」

むちむちとした可愛らしい体に四角の黒い電子機器を食い込ましたそれは、

「ぎゅう。」

と呻いたあと、ごちゅんっ!と地面に大激突した。

映画をあまり灰二にとってはどうでもいいが、今地面を見ればスプラッター映画ファン大興奮の景色を眺めるだろう。

「…あー。なんだ、あれ?新手のUMAか?それとも、宇宙人か?」

この痛ましい衝突事故を起こした犯人は悪びれる様子すらなく、むしろ相手を気味悪がってさえいる。いくら相手が人外とは言えこの対応。

紛うことなきカスである。

「入ってきたら面倒だな。うん、閉めとくか。」

ガラガラ~と容赦なく網戸と窓を閉める灰二。しれっとさっきの怪生物を面倒な羽虫扱いしているあたり、図太い精神をしているニートだ。

残念ながら、その数少ない長所は面接官の前に出ると、ことごとく霧散してしまうのだが。

「さーて、爆◯イでこの世の底辺どもでも見るか!」

ベッドに寝転んでスマホの電源を入れた時、

どんどんどん

窓を叩く音が響く。

「いや、ここは王道の5ちゃ◯ねるでも覗くか…?」

どんどんどん

「変な生物も見たし、対立煽りしたら洒落怖でも見るのもいいな。」

どんどんどん

「…。」

どんどんどん

「うるせぇっ!」

ドンッッッ!!!

ハイジの まどドン

まどのむこうがのじんぶつに 

せいしんてきダメージ100

パッパ パラララー

しずかに なったようだ!

…窓を軽く叩いていたつもりなのに、返答がこんな粗暴なものだとは相手も予想していなかっただろう。とんだ災難である。

「るっせえんだから静かにしてろ!用があるならそこで待ってろ!」

灰二げんきょうはそう言い捨てると、スマホの音量を最大にして借金返済系アニメを見始めたのだった。


〜6時間後〜

「ふわぁ〜、もうこんな時間かよ。ペ◯ングでも食うか。」

のそのそとベッドから立ち上がり、灰二はスマホの電源を切る。

とん、とん、とん

「チッ、なんだよ。うっせぇな。あーくそ、何なんだよ。」

ガラガラッ、と窓を開ける灰二。そこに居たのは、いかにも不機嫌そうな顔をした、スマホ台の大きさのハムスターだった。

その顔面は赤く腫れ上がっており、とても痛そうに見える。灰二はそれを見て、

「うわキモッ。」

と呟く。自分がやったというのに罪悪感は皆無のようである。

「てめぇ…、

そんな灰二の言葉に、とうとう彼の堪忍袋の緒が切れた。

何様のつもりだぁ!」

ゴッ!!!

灰二の怠けきった頬に右ストレートを捻り込んだ!回避不可能の攻撃は灰二に多大なるダメージを与え、

「ぐべらっっ!!!」

という奇声を上げさせ、一気に意識を刈り取る!

まともな会話を交わす前に、一発KO!

これが、後に魔法少女ワンルーム・ディストピアとなる男と、そのMASCOTミンのクソったれな出会いであった。


オマケ

逆元灰二 年齢:26 性別:男 職業:レスバ職人

・家族構成は母、兄。父は故人。

・ストレスで白髪が混じってきている。

・目の下の隈は魔法少女の姿の時と同じ

・誕生日は3月13日

・好物はペ◯ングwithマヨネーズ

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