【第16話】ギャル、先を越されて焦る件




「マヒロー、最近さー、なんかモテてね?」


 朝の教室で、いきなりひなたがそんなことを言ってきた。


「え、えぇ……?」


「つばきっちに告白されーの、昨日は朝比奈あかりっしょ?」


「なんで知ってるの?」


「ウチらの情報網なめんなって話!」


 ひなたはドヤ顔で胸を張った。


「つーかさぁ、あたし、めっちゃ置いてかれてる感あるんだけど!」


「置いてかれるって……」


「いやいやいやいや! マジで焦るわ!」


 机に突っ伏しながら、ひなたがボヤく。


「なんでみんな、サラッと告白してんの!? あたしだけ練習止まりじゃん!」


「そ、そういうもんでもないと思うけど……」


「はぁ~~~、やば。マジ焦る。ガチで焦る。恋愛レースで最下位なんだけど」


 ひなたの様子は、明らかにいつもと違った。


 ギャルっぽく振る舞いながらも、言葉の端々に焦りと苛立ちが見え隠れする。


「なーんか、こう……マヒローともっと、近づきたい感あるんだけど」


「ひなた……?」


「よし。今日の放課後、あたしとデートね!」


「えっ、いきなり?」


「うん。文句はナシ! 女の子の“焦り”をナメるなよ?」


 そう言って、ひなたは笑った。


 その笑顔は、いつものギャルスマイルじゃなくて、

 ちょっとだけ必死な、だけど本気の“女の子”の顔だった。


 放課後、ひなたに連れられて向かったのは、駅前のファッションビルだった。


「ほらほら、ここのショップ、前から気になってたの!」


「いや、俺がついてきていいやつなの?」


「いいに決まってんじゃん! てか、マヒローの好み知りたいし?」


 ウィンドウショッピングをしながら、ひなたは次々と服を手に取る。


「これさ、似合うと思わない? ちょっと大人っぽいやつ」


「うん、似合うと思う。てか、そういうのも着るんだな」


「……ふふっ。あたしだって、マジなときはちゃんと可愛くいたいんだよ?」


 少し照れくさそうに笑ったその表情に、俺はドキッとした。


「てかさ、今日は“デート”ってことでいいんだよね?」


「え?」


「いや、だから。あたし的には、“ガチデート”のつもりなんだけど」


「ひ、ひなた……」


 その瞬間、店内のBGMが甘ったるいラブソングに変わった。


「タイミング良すぎでしょ、これ……」


「ね。なんか、告白しろって背中押されてる気がするんだけど」


 ひなたは笑う。でもその目は真剣だった。


 ──けど、次の瞬間。


「やべっ、バイトの時間!」


「えっ」


「やばやばやばっ、また遅刻しちゃうっ! マヒロー、またなっ!」


 そう言って、ひなたは全力ダッシュで走り去った。


 俺は残されたまま、店の入り口でぽかんとしていた。


 ──まさかの、また“未遂”かよ。


 でも、今日は少し違ってた。


 ひなたの“本気”が、ちゃんと伝わった気がするから。

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告白下手な美少女たちに囲まれて、僕の日常がカオスすぎる件 Novaria @novaria

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