【第15話】直球すぎるスポーツ少女の告白の件




 放課後のグラウンド。

 サッカーボールを華麗にトラップしながら走る一人の女子生徒が目立っていた。


「あれ……朝比奈さん?」


「うっす、相沢くん。ちょっと付き合ってよ、パス!」


 勢いよく蹴られたボールが俺の足元に転がる。


 俺は慌ててパスを返すと、彼女は笑った。


「ナイスっ。さすが、運動神経“中の中”って感じ!」


「それ、褒めてるのか……?」


 朝比奈あかり。クラスメイトで、運動部全体から助っ人要請が来るレベルのスポーツ万能少女。

 ボーイッシュで爽やかな笑顔が印象的だが、言動はちょっとぶっきらぼう。


「ま、こっち来て。ちょっと話あるから」


 俺はあかりに連れられて、グラウンドの隅、ベンチの陰へ。


「で、何の用?」


 するとあかりは、いきなりドリンクのキャップを開けながら言った。


「相沢くん。あたし、お前のこと、好きなんだわ」


「…………は?」


「だからー、好き。あ、恋愛的な意味で。チームメイトとか、そんなんじゃなくて」


 まるでランチメニューを注文するみたいなテンションで、サラッと言いきった。


「ちょ、ちょっと待って……急すぎない?」


「えー、だって“いつ言おうか”って考えてる間に、試合終わったら嫌じゃん?」


「いや、これ恋愛であってスポーツじゃないから!」


「え、そう? でも告白ってタイミング命でしょ?」


 すっごい真顔でそんなこと言う。


 俺は完全にペースを乱されていた。


「ま、今日は練習だから。次は本番、デートの申し込みするわ」


「練習って……え、これも“告白未遂”なの?」


「ん、未遂じゃなくて“予告”だな!」


 元気いっぱいにウインクするあかり。


 ──また一人、強烈なヒロインが増えた予感がした。


 その日の夜。スマホを見ていると、通知が一件。


《朝比奈あかり:今日、ちゃんと聞こえてた?》


 ──なんだよ、その確認。


 けど、既読をつけた瞬間、またメッセージが届いた。


《マジで好きだから。変な意味じゃなくて、ほんとにちゃんと好き》


《ただ、急に言ってびびらせたなら謝る! ごめん! でも、後悔はしてない!》


 ……あかりらしい。全部が直球で、全部まっすぐだ。


 俺は、しばらく悩んでから返信した。


《驚いたけど、ちゃんと気持ちは伝わったよ》


《ありがとう》


 それだけ送ると、すぐに既読がついて、即レスがきた。


《よっしゃーーーっ! これで練習は完璧! 次はガチ告白だかんな!》


 ──練習って、やっぱり未遂だったのかよ。


 翌朝。


 教室に入ると、いつものようにひなたが席に座っていて、リサが窓際でスマホをいじってた。


「おはよ〜マヒロー。なんか顔赤くね?」


「え? そ、そうか?」


「ふーん……なーんか、ニヤけてたような……ま、いっか〜」


 ギャルの観察力、意外と鋭いな。


「おはよう、相沢くん」


 つばきが通りざまに声をかけてくる。


「おはようございます、生徒会長」


「昨日の“お返事”、楽しみにしております」


 その言葉にひなたとリサがピクリと反応する。


 あかり、つばき、ひなた、リサ──

 どうやら俺の“日常”は、ますますカオスになっていくようだ。

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