第六話:鐘声の審判
執事は、あの赤子が気に入らなかった。
理解できないわけではない。ただの
彼はこの収容場で長く
彼は、この施設が聖堂として廃され、実験の場となる以前から、ここにいた。
三人の
彼は吸血鬼ではない。「
この収容場で、最も古く生き残った人間。最も静かな機械――だった。 あの「それ」が現れるまでは。
赤子の
細く、
小さな口が、かすかにその指を
その後、アスイェはここに留まった。
もとより、純血の吸血鬼がこの収容場に長く留まることなど、ありえなかった。
収容場は
それでも、アスイェはここに残した。 まるで、何かを待つかのように。
この
誰も、問うことはできなかった。
「それ」を残されたのだ。 アスイェの指を咥えた、あの「それ」は、生きる資格を与えられた。
執事は「それ」に触れたくなかった。
「それ」は
泣かず、動かず、食う本能すら封じられた、小さな化け物。
近づくたびに、執事は
ある夜、執事は、とうとう我慢ができなくなった。
「それ」は
執事は、揺籠の前に立った。
どうせそのうちに死ぬなら――早めに死なせてやるのも、
彼は、そう思った。
だから、手を伸ばした。
その時だった。
聖堂の、古びた天井から床へと、冷たい風が強く吹き抜けた。
風の音は、まるで
執事は、すぐに悟った。
これは、ただの風ではない。
これは――古く、そして
赤子は、
***
記録は、後から執事が書き足したものだった。 その数日、アスイェはここに姿を見せず、執事は「それ」の資料に目を通した。
体温、食べたもの、成長の速度、
この者は、狂っている。 古き神の影が残るこの場所で、化け物を育てるなど――死ぬのは自分だ。
執事には覚えのない筆跡だったが、その内容は、彼自身が心の底で思ったことと何ら違いはなかった。
だから、その
その夜、執事が「それ」を処理しようと本気で思ったことを、誰も知らない。 たとえ知ったとしても、アスイェは気に留めないだろう――執事はそう思った。
冷静で、
――その夜までは。
執事が扉を開け、部屋に入ろうとした時だった。 赤子は、アスイェの腕の中にいた。目を開け、じっと自分を見つめていた。 その動きは、執事には妙だった。 「それ」は、か細い腕にできる限りの力を込め、アスイェの肩にしがみついていた。
その目――
だが――アスイェは違った。
「それ」のささやかな敵意に、応えるように、腕を緩めず、確かにその身を支えた。 まるで慰めるように、優しく、だが決して拒まぬ形で。
執事は、理由もなく、一歩、後ずさった。
「なぜ、連れ出そうとした」
「……あなた様は、気にされないと、思い……」
執事は必死に弁解したつもりだったが、それが通じる場ではないと、理解していた。
これは最初から、
「俺は――他の
その声が落ちた瞬間、理解しがたい熱が、足元から這い上がるのを感じた。
執事は、
アスイェは、
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