第9話「ずっと一緒に、七味かけよう?」
グルメフェス当日。快晴。
屋外のイベントスペースには、各チームのブースが並び、朝から多くの来場者でにぎわっていた。
七味さんと俺が担当するのは――
「七味×ご飯の新常識! 味変ブース」
目玉メニューは、七味そぼろ丼、七味ポテサラ、七味焼きおにぎり。
ブースには「あなたの知らない七味の世界へようこそ」というポスターが貼られ、
その横には、七味さん私物の“マイ七味セット”が並んでいた。
「ついに……ですね」
「うん。七味のすばらしさ、みんなに伝えよう」
* * *
開場と同時に、想像以上にお客さんが集まった。
「これ、辛そうだけど意外と食べやすい!」 「ポテサラに七味ってアリなんですね~!」 「柚子の香り、すごく良い」
そんな感想を聞いて、七味さんは静かに、でも確かに、笑っていた。
「あの人、“七味革命”って言ってたよ」
「革命、起きちゃいましたか」
「うん。私は七味の民だからね」
「七味の民って何」
冗談を言い合えるほど、七味さんの表情はやわらかかった。
……思えば、最初はクールで話しかけづらかったのに。
今は、こうして一緒に笑ってる。
午後、ブースの列が一段落した頃。
俺たちはブースの裏側で、用意していたおにぎりを一緒に食べることにした。
「今日、すごかったですね。めちゃくちゃ盛況でしたよ」
「うん。正直、びっくりした。でも……すごく、うれしい」
「七味さんの企画、ほんとにすごかったです」
「ありがとう。……田中くんが一緒にやってくれたから、できたこともあるよ」
七味さんは、唐辛子色のピックが刺さったおにぎりを見つめながら、ぽつりとつぶやいた。
「これからも……一緒に、七味かけて食べようね」
「えっ?」
「うん。新作七味、試してほしいし」
「そ、そうですね! 喜んで!」
俺は元気よく返事をしたけど――
それが、もしかすると“告白”だったことに気づいたのは、数時間後だった。
* * *
イベント終了後。
ブースを片付けながら、俺はなんとなく、さっきの言葉を思い出していた。
「これからも一緒に、七味かけて食べよう」
それって、要するに――
「一緒にご飯を食べ続けよう」ってことで、
それってつまり、「一緒にいたい」ってことで……
……あーーーーーーーーッ!!
ようやく気づいたときには、もう七味さんは「じゃあね」と言って軽く手を振って、先に帰っていた。
俺はその背中を見ながら、心の中で思った。
「ずるいな、七味さん」
でもきっと、
“ずっと一緒に七味をかけていたい”と思ってるのは、俺も同じだ。
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