八振

イノベ博士が片道切符という衝撃の事実を言っても彼女らは動揺していなかったが強がっているようだ。


「別にわたし達はそれで構わないよ。どうせこっちにいたって、エクスとかがうるさいだけだし。わたし達のこと、博士は良くしてくれた。それだけで嬉しかったです。」

「同じく、博士とティル以外じゃ、私たちのことお荷物としか思っていないもの。せっかくの機会なんだもの、私たちで皇を倒して、エクスたちに吠え面かかせてやるんだから。」

「でも博士はもしこういった事態になったときに、わたし達がこの世界に未練が残らないように、ドラゲニウムを放出できる力を与えなかったのですか?」

「私も同じことを思っていました。博士、そこまで計算していたのですか?」


イノベ博士は少し俯いて考えた後、作り笑いをしながら答えようとしたが、涙を堪えられなくなってしまった。


「そんなわけないぞ。ただわしの技術不足で、両方の力を持たせられなかっただけじゃ。それにうしろめたさを感じて、今までお前たちに気を使っていただけじゃよ。今まで本当に苦労させてしまった。わしのせいじゃ…」


その言葉に彼女らも涙を押さえられなくなってしまったようだった。


「これがお前たちの旅の荷物じゃ。転移装置の重量制限で必要最低限じゃが、このスマートフォンという端末に電子マネーをかなり入れておいた。足りなくならないように逐一追加しておくぞ。それから何か困ったことがあるときはこの端末から連絡してくれ。」


まだ、目元が腫れているイノベ博士が旅の説明を始めたが、一つ気になることがあるレーヴァテインが質問する。


「博士?世界が違うのに通信ってできるんですか?」

「当たり前じゃぞ。わしは天才なんじゃ。発信先と受信先があれば通信できるシステムぐらい造作もない。」


その言葉を聞いたティルフィングたちは、さっき片道だけだから博士にももう会えなくなると思って強がっていた自分たちが馬鹿らしくなったように感じ、少々怒りが込み上げてきたが、「所長、準備が完了しました。」と扉をたたく音がしたため、抑えることにした。どうやらもう出発の時間らしい。


「分かった。すぐ行く。」と答えてイノベ博士が立ち上がった。


「すまない。ティルフィング、レーヴァテイン。皇討伐を頼んじゃぞ。」

「任せてください。」と言って、わたし達は目を合わせてから、博士に抱き着く。


「「私達を生んでくれてありがとー。博士大好きだよー。」」

二人からの言葉にまたイノベ博士は涙を流した。


(転移装置前)

研究員達が転移先の安全や転移方法の最終確認を行っていた。わたし達が来たと分かると転移装置まで案内された。荷物を持った彼女たちは緊張した面持ちであった。そして、ついに転移装置の扉が開いた。


「博士。それじゃあ、行ってきます。」

「さよなら、博士。絶対成し遂げるよ。」


そう彼女たちは言って、転移装置に入っていた。


「所長、発進させます。いいですね?」と研究員が博士に尋ねた。

博士は抑えられない涙を拭きながら「頼んだ。」とだけつぶやいた。これを聞いて研究員が叫ぶ。


「発進5秒前!5,4,3,2,1,ファイア!」


けたたましい音ともに転移装置が起動し転移が開始され、一瞬でティルフィングとレーヴァテインは転移装置の中から消えていった。


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