31.ゴーカイザー

全体的に黒い装飾の巨大なロボットが、目の前で静かに立っている。


巨大ロボの周りには、整備のためか簡易的な橋が幾つか囲っていた。


「す、すごい大きなロボットですね…」


目を見開いて、興味深げにロボットを眺める。


「こいつの名前は【ゴーカイザー】!俺の自慢の切り札さ…」


「ゴーカイザー…」


ロボットアニメは幾つか見た事あるが、実際に目の前で眺めてみると思ったより大きい。


…いや本当にデカイなこれ、何メートルぐらいあるのだろうか。


僕が勤めてる会社のビルよりでかい気がする。


「すごい大きいけど、これってなんメートルくらいあるの?」


「こいつの大きさはピッタリ100メートルだ!重心もブレないよう足腰はがっちりしてある!新たな強化システムも別で開発中だったんだが、俺が元々戦ってた相手はそれほど強くなかったからな。少しのんびり作っていたんだが…、それが仇になった」


最初は少年のような輝いた表情で説明していたが、段々とその表情は暗くなった。


「宇宙人の侵略…ですか」


「そう。奴らが攻めてきたのは数週間前だ…。最初はそれ程でもないと思われていた宇宙人の軍団も、その数が一向に減らず、相手の巨大な機械兵も複数体現れ、俺のゴーカイザーも流石にジリ貧でな…。どうにか奴らの軍団に対抗する為に、この秘密基地でひたすらに改良を加え、新たな強化システムも全て完成させた…、はいいものの、ゴーカイザーが出撃できない間は俺自信が宇宙人共をひたすら倒していたんだが、ずっと戦場に出て疲労が溜まっていたのか、ついに被弾してしまったのが、数時間前の事だ。友軍にどうにか逃がしてもらったはいいが、どうも毒が仕込まれた特殊な弾頭を食らったようでな、傷も中々塞げず、解毒も出来ない、この星には無い毒だった…。だからこそ俺は、最後に取っておきの秘策を起動させた」


顔の濃い俺はロボットの近くにあった制御装置のようなものがある所へ向かいながら語り、そのまま何かよく分からない装置のキーボード操作を初め、僕にも分からないプログラムコードを入力し続けている。


「秘策…」


「そう、もう1人の…、異世界の俺をこの世界へと呼ぶこと…」


「………」


「改めて謝罪しよう…。君の都合を考えずに呼んでしまってすまない…。これしか方法がなかったとはいえ、君のような一般人である自分をこの場に呼んでしまった…。本当にすまない」


何らかのプログラムを入力し終えた彼は、俺に向き直り腰を曲げて謝罪しだす。


「い、いえ、まぁ、その、困った時はお互い様ですよ」


俺は特に困っていないし、なんだったらこの非日常感に、無礼ながらワクワクしてしまっているため、若干申し訳なさすらある。


最悪きっと、レドが助けてくれるだろうという楽観もある。


来なかったらどうしよう。


「君がそう言ってくれる事、俺は心から感謝する…。そしてどうか君に…、この後の戦いを引き継いでもらいたいのだが…、どうにかお願いできないだろうか…」


「あっ、やっぱりそんな感じかぁ…」


予想はしていたが、突然のこと過ぎてあまり実感がわかない。


本当に俺がこの後の戦いを引き継げるのだろうか。


「やはり、厳しいだろうか…。もちろんこの私の財産は全て君に託すつもりだ。おそらく君にとっては若干近未来の、多くの技術や財産、この世界を守り切れば、この世界でも1番の不自由ない暮らしができる事を約束しよう」


「お、おお、なんか、この世界の俺ってそんなすごいんだ…」


「ああ、…まぁ、この世界を守り切れれば、の話なんだがな…」


少し考えてみたが…。


「…まぁでも、きっと俺がやらないと、君は困るよね」


「…そうだな」


苦笑いで返事する彼に俺は、


「じゃあ、うん。…俺がやるよ」


真面目な顔で、とりあえずそう言っておく。


彼は俺であり、俺は彼だ。


ならきっと、どうにかなるだろう。


それに俺には、頼りになる神様(レド様)もついてるし!


ついてきてないし連絡も付かないけど…。


「…そうか。ありがとう…、本当に…あゲボボ」


もう1人の俺は物凄い吐血した。


「だ、大丈夫!?」


「あ、ああ、まだ、…まだ大丈夫なはず…ゲホッ…。とにかく君にはこれから、このゴーカイザーに…」


そこまで言ったところで、遠くの出入口でウィーンという音と共に、怪しげな戦闘服を身につけた軍隊が、室内に入ってくる。


侵入者たちは、白い近未来型のライフルを構え、ヘルメットのバイザーが赤く光る。軍人とは違う、異星の洗練されたようなデザインの戦闘服だ。


「□‪✕‬△!!!!」


何かよく分からない言語で叫んだ彼らは、手元の近未来な銃をこちらへ向ける。


「まずいっ奴らだ!!ふせてっ!!!」


次の瞬間には、青白い粒子の塊、おそらくプラズマの弾頭がこちらへ飛んで来ていた。


俺と彼は咄嗟に制御装置の陰に身を伏せた。


すぐ近くの壁へプラズマ弾が当たると、溶けた壁の金属が滴り落ち、白い煙が立ち上る。


おおっ、と非日常的な光景にちょっと興奮してしまった。


驚きはしたが、何故か俺に焦りはなかった。


前に怪人に襲われた時は少し焦ったが、今は隣にちゃんとすごいバージョンの俺がいるからか、ちょっとだけ安心感すらある。


前の時はまさか佐藤さんが勇者だとは思わなかったし…。


でもよく考えたらこの人怪我してるんだよね…、大丈夫かな。


「くっ、もう基地内まで侵入してきていたか…。すまない、もうあまり説明する時間が無い。あとはその腕に着けたデバイスに搭載しているナビゲーションAIに聞いてくれると助かる。君の生体認証は俺と同じだ。ゴーカイザーの起動は確実にできるだろう。後ろのエレベーターに乗って、ゴーカイザーの背面へ向かい、そこから搭乗してくれ」


「わ、わかった…。でも君は…」


「俺はこの場で、奴らの足止めをするっ!」


彼は銃撃が止んだタイミングで前へと一回転して飛び出し、右足を前に、右手を握りしめ天へと掲げ、左肘を後ろに引きながら曲げて、左拳を腰に当てる。


「変…………」


そう言葉を区切り、天へ掲げた右手の拳をゆっくりと下ろし、顔の前まで来た所で、笑顔で続きを叫ぶ。


それと同時に、侵入者たちの銃口が再び彼を捉え、プラズマの光が銃口から放たれる。


「身ッッッ!!!!」


煌めく閃光。


侵入者達のプラズマ弾はその光に掻き消され、何事も無かったかのように輝く光が彼を包み込む。


光が収まるとそこに立っていたのは、黒い翼のようなマントと機械的な装甲を身につけ、顔の上半分を仮面で隠したヒーローだった。


「さぁ、もう1人の俺よ!後は…、任せたぞ」


そう言った彼は、俺の答えを聞かずに、猛然と侵入者に立ち向かって行った。


再び放たれるプラズマ弾の飛来を紙一重で回避しながら軍隊の真っ只中へと突っ込み、彼の拳や蹴りが敵を薙ぎ払う。


怪我をしているとは思えないほどの大立ち回りをして戦う彼の姿は正しく、この世界のヒーロー〈主人公〉であった。


「…任されました」


俺は真面目にそう1人呟き、エレベーターへと乗り込んだ。



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