30.もう1人の

とりあえずこの空間をうろちょろしてみるが、特に壁がある様子は感じない。


数分歩いたが一向に壁は見えないどころかぶつかりもしない。


もはやどうする事もできない俺は、とりあえずエラーを吐いているレドのLINE履歴に、「ヘルプミー」と書き込んで置いた。


一応リィラのところにも「ヘルプミー」と書いておき、暇な時間をニュースを見て潰すことに決めた。


と思ってニュースを見ようとした時、ウィーンと白い空間に自動ドアのような扉が現れた。


そしてそこに見えるひとつの人影。


それは、たぶん"俺"だった。


なぜたぶんなのかは、なんというか、顔が濃かったから…。


俺ってあんな顔濃かったっけ…。


いやだがなんとなく"俺"だと、直感で感じた。


お腹抑えてるけど、うんこかな。


ぽたっと滴り落ちる赤い液体。


あ、これうんこじゃない…、結構やばいやつだ…。


お腹を抑えた顔の濃い"俺"は、冴えない顔の俺を視認すると、フッと安堵するように微笑むと、その場で倒れた。


「あ、だ、大丈夫ですか!?」


急いで倒れた"俺"のもとに駆け寄り、安否を確認する。


倒れた"俺"の背後の通路には、赤い血が点々と落ちている形跡がある。


一体何があったのか…。


ていうか俺はここからどうしたらいいんだ?


あ、救急車とか呼んだ方がいいのかな。


そう思い咄嗟にスマホで119と電話をかけようとして…。


倒れている"俺"の手が動き、俺の腕を掴んだ。


「話を…聞いてくれ…」


「で、でも怪我が…」


「大丈夫だ…、まだ多少はもつ…。それよりも、重要な案件だ…」


苦しそうな息遣いで喋る顔の濃い自分は、必死で俺に何かを伝えようとする。


「君の…名前は、とりあえず【山田春】で、違いないか…?」


「えっと…、まぁ、そうだけど…」


「そうか…よかった…。…それで君は、何か、力を持っていたりは、しないか…?」


「力…、いや、うぅん、俺は別に、特に…」


「…そう…か…。…すまない、どうやら少し、宛が外れたようだ…。だが、呼べたのが、僕自身である事は、間違いないようだな…。遺伝子情報も、俺と何一つ違わない…。つまり、…君には可能性が残っている…」


顔の濃い俺はゆっくりと立ち上がろうとする。


「あ、無理はしない方が…」


「いや、もはや無理をしなければどうしようもない状況なのだ…。説明は…、してやりたいが…、はぁ、はぁ、とにかくこれを、右腕につけてくれ…」


そう言って立ち上がった後、懐から腕輪のようなものを取り出し渡してきた。


よく見ると、顔の濃い俺の右腕にも似たようなデザインの腕輪が付けてある。


「この腕輪は、そうだな、君の持っているデバイスから見るに、これはかなり未来の技術かもしれない。まぁ、私が開発した最先端の多機能デバイスと思ってくれ」


「…もしかして、この世界の俺ってすごく頭良いんですか?」


「ふふ、自分にそう言われると、なんだか恥ずかしい感じがするな。…と、こんなことを話している場合では、ないな…。君に、他にも託したいものがあるんだ…」


「託すってそんな…」


「とにかくついてきてくれ…」


そう言ってよろよろと、今にも倒れそうになりながら歩く彼に、俺は急いで駆け寄って肩を貸した。


「…フフ、すまないな」


「困った時は、助け合いですよ」


「………よかった。世界は変わっても、俺はヒーローだったようだな…」


「そんな立派なものじゃないですよ…」


「なに、いずれなるさ。君の心にもちゃんと、その優しさがあるからな」


「ど、どういたしまして…?」


「フフフ…」


苦笑いで返事すると、彼は静かに笑った。


そしてしばらく白い近未来な通路を進んでいき、近未来な自動ドアを幾つか通り過ぎて行く。


そうして幾つかの自動ドアを過ぎた後、ようやく目的地に到着する。


「ここだ」


もう1人の俺がそう呟き、ゆっくりと自動ドアの前まで歩く。


そして自動ドアが開いたその先で、凄まじく広い空間が目前に広がった。


その空間で最初に目に入ったのは、巨大な人型の機械。


巨大なロボットが立っていた。




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