第2話 【二度目の異世界・2】


 食堂に向かう道中、俺はある事に気付いた。


「やべっ、着替えてくるの忘れてた」


 今の俺は、寝間着を着た状態。

 こんな姿で食堂に行けば飯の前に説教を食らう所だった。


「ふぅ、危ない……あれ、セリナ? もしかして寝坊か?」


 改めて自室に戻り着替えて部屋を出ると、丁度俺の部屋の前を見知ったメイドが通る所だった。

 セリナ、グレンシャル家に仕えるメイドの一人で俺専属のメイド。

 普段は優秀だが、朝が弱くかなりの確率で寝坊してしまう。


「お、おはようございます……エリク様、お着替えは終わったんですか?」


「終わってるし、もう食堂に行くよ。セリナも俺の事はいいから、早く顔を洗って目覚めてこい」


「はぁい……」


 カクンッカクンッと首を揺らし、倒れそうになりながらも絶妙なバランス感覚で倒れず去って行った。

 あんな状態だが目覚めたらクールな仕事人間になってしまうから、一種の変身魔法だろうと俺は考えている。

 そんな変な事を考えながら、俺は食堂に着き席に座った。


「今日はいつもより早いな、エリク。やはり、五歳を迎えた日だからか?」


「……はい。グレンシャル家は五歳の誕生日が大事と聞いていたので、今日は気合を入れて起きました」


 今生の俺の父、ルドルフの言葉に少しだけ反応が遅れつつも、俺は適切な言葉を選びそう答えた。

 ステータスで年齢は分かっても日付は確認出来てなかったが、まさか5歳の誕生日当日だったとは……。

 五歳の誕生日という事は、もしかしてあれ・・が貰えるのは今日か?


「ふふふ、普段から賢い子だが今日は勇ましさも感じるな。なあ、エリアナ?」


「そうね。エリクは大人しい子だと思ってたけど、やっぱりあなたの子ね」


 母のエリアナは、俺の事を笑みを浮かべながら見つめそう言った。

 そんな両親からの言葉を受け取る俺に対し、この場にいるもう一人の人物からもお祝いの言葉を貰った。


「エリク。五歳の誕生日おめでとう」


「クリス兄さん、ありがとう」


 グレンシャル家の次男であり、俺の二番目の兄であるクリス。

 グレンシャル家は四人の子が居り、長男のアイザックは学園にいてこの場には居ない。

 もう一人長女のレイナ姉さんが居るが、彼女も今はこの家には居ない。

 確かこの時期から姉さんはかなり忙しくしており、家に居る事自体が少なかった。


「さて、エリク。この後、私の執務室に来なさい」


「分かりました」


 朝食後、俺は身だしなみを目覚めたクールモードのセリナに整えてもらい執務室へと向かった。

 ドアをノックし、父の許可する声を聴いて中に入った。


「エリク。グレンシャル家の歴史は勉強しているよな」


「伯爵家でありますが、グレンシャル商会を運営しており家督を継ぐ者として第一に商才がある者が選ばれます。また商才だけではなく、貴族としての責務を果たす人物であり、武力と知力を共に併せ持つ者が当主に選ばれると学んでおります」


「うむ。よく勉強しているな……ここまで完璧に答えているなら何も言う事はないな、ヘンリー?」


 父さんの隣で俺達の会話を聞いていた我がグレンシャル家の執事長であり、父さんの実質的右腕のヘンリー。

 そんな彼は俺の事をジッと見つめると、笑みを浮かべ「私もそう思います」と言った。


「そうか、では合格だな。エリク、これを受け取るんだ」


 そう渡されたのは両手で持てる程の箱で、俺はこの中身を知っている。


「中は興味ないのか?」


「開封の許可を貰っていませんので」


「……引っ掛けにも引っ掛からないとは、上の子達は大変な思いをするだろうな。よし、中身を見ても良いぞ」


 その言葉を聞いた俺は箱の中を開けると、箱の中には大量の金貨が入っていた。

 金貨一枚は、大体前の世界の通貨である円に換算すると約十万円。

 一般の平民家庭が四人家族と想定して、金貨一枚で一月は余裕で暮らせる金額。


「その箱の中には五百枚入っている。試験で引っ掛かていればその分引かれていたが、エリクは全て問題なかったから全額渡す事にする。これで何をすれば良いかは分かるな?」


「自分の手でこの頂いたお金を増やし、その過程で当主になる素質があるか確認する。グレンシャル家の〝当主への試験〟の資金です」


「そうだ。既に上の子達は、エリクよりも早くやっている。期限は私が引退する時までだから、エリクが成果を上げられる時までは、私も引退はしないでおこう。期待しておるぞ?」


「恥じない姿を見せない様に努力致します」


 そう俺は言い、機嫌が良さそうな父さんとヘンリーを残して執務室を出て自室へと戻った。

 ……よしっ! 〝父との面談〟を上手くクリアした。


「マジで一度目は散々だったからな……」


 あの試験の内容はある程度教えられていたから、頑張って父の望む回答をしようとした。

 しかしほぼ全て失敗してしまい、俺が一度目の受け取れた金貨は50枚程だった。


「それが今回は十倍。今なら何でもできそうだな……いや、調子に乗るな。一度目はそれで散々な目にあったんだから」


 調子に乗り、失敗するは一度だけでいい。

 今回は、前回の失敗を糧に上手く事を進めるぞ。


「さてと、これから先の事を考えないとだな」


 これから先、勉強の時間を除けばほぼ全て自由に使える。

 十二歳になったら王立学園に入学しないといけなくて、そこから三年間は学園に拘束される為に行動に制限が掛かる。


「一度目は散々で当主を目指す事さえしなかったけど、今回は目指してもいいかも知れないな……」


 一度目は当主なんて早々に諦め、自分勝手に生きていた。

 その中には兄達の邪魔になった事もあり、それで恨みを買ってしまった。

 しかし当主になる為の戦いなら、父の眼もあるから兄達もあんな行動には出ないだろう。


「というか、今生では兄弟の仲ももう少し見て生きてみるのもいいかもな。一番上の兄とは接点は前世もほぼなかったけど、クリス兄さんとはそもそも最初は悪い関係じゃなかったから頑張ればいい関係を築けるかも……」


 そう考えながら俺は、今回の人生は当主を目指しつつ兄弟仲も大事にしようと考え計画を練る事にした。

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