連プリ革命

ドーデモ国・王都ダカラナニ小学校。その食堂に、とんでもないイレギュラーが発生していた。


「え、またプリン!?」

「昨日もプリン! 今日もプリン!」

「奇跡すぎる」


児童たちの間に走る驚愕と歓喜。普段より明らかに高いテンション。心なしか、トレイを運ぶ足取りも軽い。そんな熱気あふれる給食列の最後尾で、ひとり戦慄する人物がいた。


「まさかの連プリ⋯⋯!?」


名はルナ。キョウミナ国から送り込まれた魔王直属のスパイである。今日も給食当番風の完璧な変装で小学校に潜入していた彼女は、プリンの姿をトレイに認めた瞬間、身体の奥から震えが込み上げていた。


(プリン二連投⋯⋯人間、恐るべし)


彼女は席につき、プリンを睨む。つややかなカラメル。スプーンを近づければ、ふるふると応えるように揺れるそのボディ。


「⋯⋯完全に兵器」


そう呟いた彼女の声は、隣に座る男子児童に聞こえていた。


「え、何? プリンが平気?」


「ちがう、兵器。これはただのプリンじゃない」


「いや、プリンはプリンだよ?」


こいつ何言ってんだ的な視線を向けられるが、ルナは気にしない。スプーンを差し入れ、ひとすくい。とろりとした甘さが口の中いっぱいに広がる。昨日と同じ⋯⋯いや、昨日よりも若干カラメルが濃い?


(レシピ調整? それとも誤差?)


過剰すぎるスパイ脳。完全に職業病である。キョウミナ国からすると、ルナは処遇に困るスパイなのだが。


しかし、甘味を食べる幸せには逆らえない。柔らかく、心を溶かすような味わい。ルナのスプーンは止まることを知らない。それはまるで、これが戦場の最前線なのだと錯覚するほど。


そしてプリンを完食。ルナは手帳を取り出し、情報を記録する。


◆極秘情報No.002

『王都ダカラナニ小学校にてプリンが二日連続提供』

献立における甘味は周期性を保つが明らかな異常。

→児童たちの士気高揚を確認。糖分戦略の可能性大。


プリンはただのデザートではない。それは心をとろけさせ、秩序を乱す甘き混沌の塊。


「このままだと、毎日プリンという革命が⋯⋯!」


ルナは息を呑み、ひとりで震えた。




放課後、ルナはベンチに腰を下ろしていた。給食による異様な熱気が冷めた空気の中で、彼女はプリンのことを反芻する。


二日連続でプリンが提供されるという奇跡。もはや偶然とは考えられない。そう、これはプリンによる心理戦。甘味によって精神を支配し、戦意を鈍らせる新手の戦術兵器。


「って、考えすぎか」


きっと栄養士さんの気まぐれか発注ミスだと思いつつも、手帳には更なる考察を書き込む。


『児童の反応から見て、プリン提供は士気回復に絶大な効果を持つ。また、一部児童が「プリン二日連続は神」などと発言。宗教的崇拝の兆候あり』


気づけば、ルナは真顔でプリンを信仰分析していた。


「これは、もはや文化」


そのまま空を見上げる。柔らかい夕暮れの空に、プリン色の雲が浮かんでいるような気がした。






翌朝。


「⋯⋯⋯⋯」


魔王は、机に届いた報告書を読んでいた。「プリン」「カラメル」「ふるふる」⋯⋯報告書とは思えない単語のオンパレード。


そして、最後に「革命」という文字を見つけた瞬間、無言で天を仰いだ。


「プリンで革命は起きねぇよ⋯⋯!」


だが、どこか吹き出したように、ふっと笑ってしまった自分が悔しい。戦況報告を読むよりも、この紙切れ一枚の方がずっと心が軽くなるのだ。


彼は丁寧にプリン革命の報告書を折りたたみ、ファイルに収めた。

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