09 再会前夜

「えーと、海にぴったりの色は⋯⋯」


 ヒナタくんに大きなケガもなく、ゼンマーのマイ魂を阻止できたその日の夜。

 わたしことここねは自分の部屋で、風景画のぬりえに取り組んでいるところ!


「うーん⋯⋯エメラルドグリーンも重ねようかな? ⋯⋯そうしてみよ」


 記憶喪失になって、一番頭を使ってるのはこういう作業ばっかり。

 やっぱり、「色マスター」ってみんな呼ばれてるから。もっと色の重ね具合とか、色鉛筆と絵の具でできる色の違いとか知っとかないとね。


 でも、これを頑張れてる一番の理由は⋯⋯

 明日会う、あの子に見せたいから。もうこれ以上、不安にさせたくないから。



◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯



「⋯⋯よーしっ!!! 完成!」


 だいたい一時間たって、ようやく塗り終えた。

 見て! この海の塗り方、我ながら自信作だと思うけど、どうかな?

 ⋯⋯あ、文字だけじゃ、見せるもなにも分かんないよね。


 と、とりあえず文字でがんばって伝えてみるね⋯⋯。

 海全体を青に塗って、ところどころに水色やエメラルドグリーンとかを薄く重ねる。そうすることで、日光が反射しているような、真夏の海を表現したんだ!

 ⋯⋯どう? なんとなく伝わった、かな?

 

「それにしても⋯⋯」


 色鉛筆をしまいながら、一人で思ったことがある。

 なんでみんな、色の認識に曖昧なんだろう?


 絵の具の色の作り方が難しいとかは、なんとなく分かる。けど水色とスカイブルーの違いだとか、黄緑と分かってもリーフグリーンかどうかは分からないとか⋯⋯


 


 色ひとつひとつ、のに。⋯⋯どうして?



「⋯⋯ん? なんだろ、これ」


 ぬりえ本をバックに入れ込もうとした時、見覚えのない白い紙袋が。

 取り出した途端、ひらりひらりと小さな手紙がわたしの手元に届いた。


【ココネへ 今日のお役目のご褒美を置いときます。また期待してるよ】 


「これって、まさか」


 紙袋の中に、わたしの好物が輝いている。

 “ゼンマーを倒したら、りんご一個プレゼントする”⋯⋯

 “忘れた今までの記憶、少しずつ教えてあげる”⋯⋯


 うん! 間違いない。ルッテからのご褒美だ!

 ちゃんと約束、守ってくれたんだ。お役目後に起こしてくれなかったのは、許せないけど。(あといつのまにわたしの部屋に⋯⋯!)


「りんご、りんごだ! ⋯⋯とこれは?」


 果実の隣に入ってた三つ目報酬は、写真だった。

 なるほど。昔の写真で記憶を教えてくれるのかも⋯⋯


 写真だけ送られた所で、説明がないとサッパリだったけど。

 わたしの7、8歳くらいの姿と昔のママが眼鏡をかけていたっていう、新情報があった。

 


◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯



 とりあえず、初めてのことリテの使命とかで、午前はほんっっっと大変だったけど家に帰ってからは普通の一日を過ごせた。

 そしてとうとう明日は⋯⋯! 楽しみすぎる!


「じゃ、ママ。おやすみー」

「うん、おやすみ」


 いつものハイタッチをして、部屋のベッドに向かおうとする。

 だけど、ここね、ってママの小さな声にすぐに立ち止まった。


「ん? なに、ママ?」

「なんか最近、困ったことある?」


 困ったこと⋯⋯ことリテのお役目をすることが真っ先に思い浮かんだけど。

 言えるわけない、そんなこと。また、嘘をつくことになるけど、仕方ない。


「ううん! ほとんどないよ。強いて言うなら、7ヶ月前の記憶が欲しいくらいかなー」

「⋯⋯そう、ならいいんだけど」


 あ、ママ多分信じてくれてないかも。表情と声ですぐにそう感じた。

 ⋯⋯昨日もそうだけど誤魔化すのって、難しいよね。特に大切な人なんかには。


 と、突然わたしをギューッと抱きしめてくれたの。

 ママの温かみに顔が歪む。そして耳元でこう呟いてくれたんだ。

 

。だから、無理しないでね」

「⋯⋯? う、うん」


 ママはそれだけ言うと、ゆっくりわたしを引き離し、自分の寝室に向かった。

 よく分かんないけど、感じるものは優しさだけだった。



 まぁ、その言葉を理解する日は、そう遠くなかったんだけど。


 



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