08 確保前夜

「ふーん、瞬間移動か。これは手強いなー」

「ねぇ、にいさま⋯⋯にいさま?」

「そして最後の吸引技は全く知らないな⋯⋯これは興味深い。ただ、」

「にいさま、聞いてる? もしもーし」

「なぜこいつが持ってるのはスマホなんだろう? まるでこいつが『ことリ⋯⋯」

「あーのーね!!! にーい、さーま!」


 突然の大声に、独り言を続けていた少年は椅子から落ちそうになる。

 金曜日深夜のとある地下秘密基地。その入り口にて少女が彼をじーっと見つめていた。


「⋯⋯何? うるさいよ、こんな時間に」

「にいさまがあたしに気づかないからでしょ! せっかく漢字問題、作ってきたのに!」

「予想、その答え『①今②乙③牛』だろ」

「え!? なんで分かったの?」

「漢字苦手なお前の出す問題なんか、その日の子ども新聞のクイズコーナーと一緒だ。今まで、気づいてないとでも思った?」

「⋯⋯っ!」

「降参なら、早く寝てくれ。悪いけど忙しいんだ。構ってるヒマはない」


 少年はため息をつきながら姿勢を正し、さっきまでの作業に戻ろうとする。

 と、少女は頬を膨らませながら、部屋に入ってソファにダイブした。


「お、おいなんで勝手にオレの部屋に!」

「はーぁ、つまんないの。にいさま、最近ずぅーとゼンマーのことばっっかり!」


 パジャマ姿の彼女は、艶のあるロングヘアに大きな目。

 目の前のショートカットの少年とは、学年が一つしか離れてないものの、容姿や言動からよく低学年に勘違いされる。

 一方でその少年は「秀才」と呼ばれるほど膨大な知識・思考力を持つ。だからなのか、彼は大人扱いされることがしょっちゅうなのだ。


 そんな二人は一緒に暮らしているものの、実のきょうだいではない。ただの凸凹でこぼこコンビというのにふさわしい。

 しかし実際にそうだとしても、果たすべきお役目がある。ほぼずっと一緒じゃないといけない。



「⋯⋯ずぅーとゼンマーのこと考えないといけない事になったんだよ。知ってるだろ、今日の天気事件」

「あー5年生が雷に打たれたって⋯⋯でも、お昼にはふつーの天気だったじゃん。ゼンマーの仕業じゃ⋯⋯」

「これを見てから言ってもらおうか」


 少女の言葉を遮って、少年はUSBが差し込まれたノートパソコンを渡す。


「え⋯⋯なにこれ?」


 ふと目を向けた映像に、少女は目を大きく開いた。

 映し出された映像⋯⋯鈴野ここねが屋上でゼンマーと戦っている内容だったのだ。


「中休みの時、変な気配を感じて屋上にコレを飛ばした。そしたらビンゴだった」


 少年は机の引き出しから自作のドローンを出した。

 カメレオンのようなその場の色に擬態できるソレを、一瞬で発見できる者はめったにいない。


「オレ、ゼンマーを初めて見たよ。本当に存在したんだ、奴ら⋯⋯」

「ちょ⋯⋯ちょっと待って。この女の子は何者なの? 

「そう、それが一番の疑問だ。ほら、こっちおいで」


 少年の手招きに、少女はホッと声を上げてソファから起き上がる。

 ほんの一瞬だけ、彼女の顔がゆるんだ。



「その女子の名前は鈴野ここね。オレと同じ5年生だ」

「うん、うん!」

「⋯⋯なんでそんなに嬉しそうなんだ?」

「あ、いや⋯⋯なんでもない。続けて」

「あ、あぁ。こいつは記憶喪失になったらしく、今年の4月に転校⋯⋯」


 あぁ、うれしい、ほんとにうれしい! にいさまが、にいさまが隣で、あたしのためにちゃんとお話してくれる⋯⋯!

 という心情を、悟られないように少女は話を聞き続けた。

 まぁ結局、少年はそのことを最初から薄々気づいていたのだが。



「とりあえず、この女子がなぜ使、だね」

「⋯⋯ね、言い換えるならってことかなー」


 少年はポケットからスマホを取り出した。それも、裏面が黄色のスマホだった。

 この少年は「ことリテ」。そして、その隣も……


「で、どうするの、にいさま? 月曜日に捕まえる? ゼンマー倒してるけど、その子がもし敵なら時間の問題だよ」

「こいつの姉は病院に入院しているって情報は掴んだ。明日は土曜日だし⋯⋯」


 お見舞いに向かう可能性が高い。

 少年は自分の直感を信じることにした。事実、外れたことは一回もないのだった。


「相手の予定は理解した。明日必ず捕らえるよ、星莉菜」

「りょうかい! あたし人一倍、ううん人十倍がんばるから!」


 自分の名前をやっと言ってくれた少女は、思わずジャンプして、いつもの口ぐせを叫んだ。

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