03 見上げた先に、男の子!?
記憶喪失になったのは、事故の時に強い恐怖を感じたから。
お医者さんがそう言っていたとママは教えてくれた。
でもそれ以外のこと、7ヶ月より前のことは何を聞いても答えてくれない。
ただわたしは信じてる。昔の鈴野ここねを教えないのは、イジワルじゃないって。きっと、ママなりの考えがあるんだって。
4月に転校して、記憶喪失のことを知っているのは担任の先生と養護教諭の川野先生、そして誰よりも気を遣ってくれたヒナタくんだけ。後藤さんのグループから「記憶がパー」って言ってた人がいたけど、あれはただのウワサ。ほんとに記憶喪失って知る人は今後あの学校には現れないと思う。
◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯
「明日は折りたたみ傘、持ってきたほうがいいよ」
「⋯⋯え?」
Y字路の別れ道、ヒナタくんは立ち止まってわたしの方を向く。
突然、お互いの黒目を数秒間見つめ合ったことがなんだかおかしかった。わたしもヒナタくんもプッと笑ってしまった。
「ハハ、ごめんごめん。明日、午後から雨らしいからさ」
「え、そうなの? ニュースでは晴れって⋯⋯」
「『
スマホのアプリ、か。
正直、ヒナタくんの発言のなかで一番信用できない。
⋯⋯あれ?
「あ、そういえばこれ、5、6時間目のやったことのまとめ。じゃ、俺塾あるから先に!」
「うん、ありがと。⋯⋯じゃあね」
プリントとランドセルを受け取りながら、ほぼ棒読みの返事をする。
曲がり角までの彼を見送った後、わたしは一歩も進める気がしなかった。
信用できない
何でそう感じてるの、わたし。
ヒナタくんからの情報なのに。的中率100パーセントなのに。
どうして? なんで⋯⋯
「スマホがコワいから、それに関することは全て信じることができない。そうでしょ?」
え?
⋯⋯たしかに、そうかもしれない。
けど、今の声は? 透き通ったような男の子の声。
前にも後ろにも人の姿は見当たらない。
「気のせい、だよね」
はやく帰ろう! そう歩き出そうとした時だった。
「気のせいじゃないよ、こーこーね!」
「! ひゃあ!」
その声が上から聞こえて、顔を上げるとともに小さく悲鳴を上げてしまった。
真上の電線の一本に、男の子が立っていたんだ!
年齢は10歳くらい。丈の長いレモン色のTシャツに白のズボン、そして髪が水色の彼は腕を組みながらわたしを見下ろしていた。
「へへーやっと気づいてくれた、ここね」
「な、なんでそんな所に⋯⋯! ってかなんでわたしのこと、知ってるの?」
「あーやっぱり記憶、消えてんのか。なら、仕方ない」
あれ、記憶喪失のこと知ってる? もしかして昔の⋯⋯
と、困惑してるうちに掛け声と同時に飛び降りてきた!
ひゃあ、ってまた悲鳴が出てしまう前に、彼は何事もないように目の前にスッと着地した。
「ちょっと! 怪我ないの?」
「ヘーキヘーキ。ったく相変わらずだね、そのおせっかいは」
「⋯⋯相変わらずって、やっぱりわたしの友だちだったの? 7ヶ月より前の」
「友だちっていうか、仲間だった。少しは覚えてない?」
うん、ごめんだけど全っっっ然覚えてない。
っていうか、ウソでしょ。こんな不思議な見た目の子と友だ⋯⋯仲間だったの?
「とりあえず、ここ暑いからさーここねの家で話そ。ここねのお母さん、5時くらいまで家にいないよね?」
仲間なのは多分本当の事だ。ここまで、わたしのこと知ってるなら⋯⋯
セミが騒ぐなか吹く風が、少年の水色髪を爽やかに揺らした。
◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯ △ ◇ ◯
「うわーなつかしーこの家。あ、でもはっきりとした場所は知らなかったし何気にお邪魔するのは初めてだっけ?」
「⋯⋯知らないよ。それに名前、まだ聞いてないし」
クーラーのきいた、鈴野家の一階のリビング。
わたしはため息混じりに返事をして、お茶とお菓子を机に出した。
なんか、彼と話す度に不思議な子だなーって感じていく。
「あぁ、それもそっか。」と、彼はそう呟いてわたしの方へ向き直った。
「おれはルッテ・バト。あの役目を果たしてもらうために、ここねをずっと探してたんだ」
「あの役目?」
「⋯⋯『ことリテ』のお役目のことだよ。この言葉、聞いても思い出せない?」
「⋯⋯うん。全くわかんない」
「そっか。ほんとに記憶飛んじゃったんだなー」
ルッテ⋯⋯くんはその場でうなだれた。
でも次の瞬間、ピョンっと立ってわたしに手を伸ばした。
「ま、悩んでもどうにもならないし! ここね、これからがんばろうね!」
「がんばろうって、何を?」
伸ばした手をわたしにブンブン振ってきたので、思わずにぎる。
そして、今日一番の笑顔でこう言ったんだ。
「そりゃこれから『ことリテ』のお役目をしていくことだよ! 今の握手、この事に同意したってことね!」
「⋯⋯え?」
「いや、え? じゃなくてさ、ここねだけなんだよ『ことリテ』は。それに昔ここね、自分でやるって言ってたじゃん」
「? こと、り、て? わたし、だけ?」
「うん。あぁ、大丈夫だって! おれがついているから。それでもお役目が命がけなのは変わりないけどねー!」
「⋯⋯は?」
「よし、ここね! 今日から『ことリテ』として、スマホに住む生命体の支配から、人を守って!」
「はあぁぁぁ!!!!????」
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