第9話 悪役令嬢は夢を語る

 「ここがハルのおうちなのですね」

 「こじんまりしてるとか思ってるでしょ」

 「思ってませんわ。思ってませんわ!」


 ぶんぶんと首を横に振った。そこまで激しく否定されると本当にそう思ってるように見えてしまう。


 「とはいえ、アルルこれからどうするの?」


 連れ帰ってきたのは私だし、連れてきたのも私。

 でも連れてきてどうする、ということはなにも考えていなかった。

 そうやって声をかけたのも本来は「アルルが実家に帰るまでの居候の場を与える」ことが目的だった。今、アルルはそれを達成し、その権利を自ら放棄しやってきた。

 ここに来たのはいいものの、やることがない。

 それが現状であった。


 「どうするとはどういうことですの?」

 「そのままの意味だよ。なにかやりたいこととかあるの? ずっとここで暮らすわけにもいかないだろうし」


 アルルは不思議そうに首を傾げる。


 「わたくしはハルと一緒に暮らすつもりですわよ。墓場まで着いていくつもりでしたけれど」

 「え、墓場……まで?」

 「ええ、そのつもりですけれど」

 「別にそこまでしなくても……」

 「わたくしがしたいと思っただけですわ」


 むふんと胸を張る。


 「それにわたくしがしたいこともありますわ」

 「なんだあるんだ」


 目標があるのはいいことだ。

 もう一度貴族になる……とかはちょっと難しいと思う。そうするならエルサレム家に戻らなきゃいけないから、

 でもそれ以外のことだったらなんだってできる。

 平民は自由だ。

 パン屋にだって、花屋にだって、平民が通う学校の先生にだって。なんだって、努力次第ではなれる。


 「じゃあアルル。その夢を叶えられるよう私は全力で応援するよ。できるかぎりのサポートもしてあげる」


 いつかは自立しなきゃいけない。

 私に頼って、生きていくわけにはいかないのだ。


 アルルだって、聡明な子ではある。悪役令嬢とは思えないくらい視野の広い聡い子だ。

 だからわざわざそのことを口にはしないが。


 「サポートしてくださるの?」

 「まあ、連れてきた私の責任みたいなものだしさ」


 アルルを連れて来て、人生をめちゃくちゃにした自覚はあった。

 めちゃくちゃにしただけ、元に戻してあげる。私にはその責任があるんだろうとわりと本気で思う。


 「笑わないで聞いてくださるかしら?」


 アルルは上目遣いでそんなことを聞いてくる。


 「そりゃもちろん」


 私は迷わずに答える。ぽんっと胸を叩く。

 人の夢を笑うわけがない。

 そんなの悪役令嬢とさして変わらない性悪女になっちゃうじゃん。


 「…………」


 アルルは服の裾をギュッと掴む。

 俯いて、しばらく動かない。

 どう声をかけようか迷っていると、やっと顔を上げる。大きく息を吸って、私の目を見る。


 「お嫁さん……お嫁さんになりたいですわ」

 「お嫁さん……」


 想像していたものとはあまりにもかけ離れていた。

 だから受け入れるのに少しだか時間がかかってしまった。


 でも理解し、受け入れてからは早い。


 お嫁さんになりたい。

 抽象的な感じがしなくもないが、悪い夢ではない。


 「お姫様とかじゃなくて? 王妃とかじゃなくて? お嫁さん?」


 一応確認。

 アルルの場合だと、そういう可能性もあったので。


 アルルは首を横に振る。

 王妃とかじゃなくて、純粋にお嫁さんになりたいらしい、


 「そっか。いい夢だ。いい夢だね」


 うんうんと頷く。

 女の子ならば誰しもが一度は思い描く夢。


 「ですから、わたくしはなりますわ。ハルのお嫁さんにッ!」


 アルルは声を高らかに宣言する。


 「え、う、うん……」


 私は驚きで、反射的に頷いてしまった。





 大っ嫌いな悪役令嬢が破滅エンドを迎え、捨てられていたので拾って飼うどころか、求婚された話。


◆◇◆◇◆◇あとがき◆◇◆◇◆◇


第一部終わりです。お付き合いいただきありがとうございました。

不定期でぽつぽつお話アップできたらいいなと思っているので完結にはしません。あくまで第一部【完】です。


新たに悪役令嬢系作品を執筆しているのでよければそちらもお付き合いいただけると嬉しいです。


タイトル:攻略対象は悪役令嬢


URL:https://kakuyomu.jp/works/16818792436140896082

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大っ嫌いな悪役令嬢が破滅エンドを迎え、捨てられていたので拾って飼う話。 皇冃皐月 @SirokawaYasen

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