貞操逆転世界で家族専用食堂を開いています〜愛妻と愛娘たちに囲まれた充実した生活〜

キョウキョウ

いつもの朝

 午前中の陽光が差し込む店内で、泉岡誠いずみまことは丁寧に掃除を始めた。テーブルの隅々までしっかりと、椅子の脚も丁寧に、集中して磨き上げていく。これから訪れる愛する家族たちを迎えるために、店内を完璧な状態にしておきたかった。


 平日のこの時間帯は訪れる人も少ない。一人でゆっくりと作業できる貴重な時間だ。


 妻たちが気を使って、雑用をしてくれるスタッフを雇おうかという話もあったけれど、この食堂に家族以外を入れたくなかったので断った。これぐらいは俺もできるし、やっておきたい。時々、暇な妻か娘たちが手伝ってくれたりするので十分。


 掃除をしながら、誠は店内を見回した。高価な家具やインテリアが並んでいる。すべて妻たちからのプレゼントだった。上質な木材で作られたテーブル、手作りの陶器、美しいカーテン——どれも愛情のこもった贈り物ばかり。


 実は、ここに置いてある物以外にもプレゼントされたものが多くある。それを思い出して誠は苦笑いを浮かべた。数が多すぎて、店内に置ききれないほどだ。倉庫には、まだ使っていない素敵な品々が山積みになっている。


「せっかく妻たちからプレゼントされたアレも、ちゃんと活用したいよな。どこかを配置換えしようか」


 そんなことを考えるのも楽しかった。ここは家族のために用意された大切な場所。楽しく過ごせるように、色々と工夫したい。家族からの愛情を形にしたものたちをどう活かすか、レイアウトを変える度にワクワクする。


 気づくと、結構な時間が過ぎていた。


「おっと。そろそろ、料理の下準備をしておこう」


 この食堂は、家族だけが利用できる特別な場所だった。一般の客はお断り。ここで、誠の大きな家族が団らんを過ごすのだ。


 妻が27人、娘が118人、そして息子が一人——かなりの大家族である。みんなで一緒に住めるような大豪邸を建てるには限界がある。そこで妻たちが用意してくれたのが、この食堂だった。


 実は、この食堂の裏には大きな部屋があり、誠はそこで一人生活している。いつも家族の誰かがやってきて、一人になることはまれだけど。


 食堂では、家族のみんなが訪れるのを迎える。そして一緒に食事を楽しむ。徒歩数分圏内に大きな駅があり、スーパーや病院、デパートまで揃った立地条件の素晴らしい場所だった。妻たちがビルを土地ごと買い取り、提供してくれたのだ。


「ほんと、感謝しないとな」


 店内を見回して、改めて妻たちに感謝の気持ちを抱く。昼食前の時間、下準備を進めていると、店内に誰かがやってきた。


「おかえり、実亜みあ

「ただいま、父さん」


 スラッと背の高い、真面目そうな美人が現れた。スタイルが良く、非常に整った顔立ち。女社長である母親に似て、とても知的な雰囲気を醸し出している。現在は大学生の娘だ。


 実亜がすっと近寄ってきて、誠の頭を抱きしめた。まるで恋人に対してするみたいに。


「こら、離しなさい」

「ヤダ」


 その見た目に反して、かなりの甘えたがりな実亜。こうやって離せと言っても離れてくれない。妻にこの場面を見られたら、また怒られてしまう。「女性に対しての警戒心が薄い」と。娘なんだけどな、と誠は内心で苦笑した。


 こちらから離れようと頭を振るが、離してくれない。


「実亜も、もう大人なんだから」

「だったら、大人として扱ってほしいな」


 そう言って、顔を近づけてくる。唇に向けて接近してくる。妻だったら受け入れるけれど、彼女は娘だからな。タイミングよく誠は顔を横にそらした。ほっぺに柔らかい唇を感じる。それから、爽やかな匂い。


「あー! 実亜ねえさん、また抜け駆け!」


 聞こえてきた活発そうな女性の声。娘の咲香さやか(さやか)だ。彼女が駆けつけて、誠と実亜を引っ剥がす。


「ああ」

「ありがとう、咲香」

「駄目だよ、パパ! 女に気を許しちゃ」

「いや、でも娘だが」

「娘でも、女だから。パパは男なんだから、もっと警戒して、気をつけないと!」


 手を握って、真剣な表情で注意される。心配してくれているのがよく分かる。


「まあまあ、座って。二人とも、お腹は減ってる? なにか食べていくか?」

「うん、減ってる」


 離されたことで少し不満そうな表情を浮かべる実亜は、お腹をさすりながら答えた。


「お腹、ペコペコだよ。パパの料理が食べたいな」


 食堂のテーブルにどかっと座って、笑顔でお願いしてくる咲香。娘たちの要望に応えよう。


「食べたいものはあるか?」

「パパのおまかせで!」

「すぐ食べたい」

「すぐにできるのは、丼物かな。昨日の残りがあるから、それを使うか」


 そう言って、早速用意し始める。まだまだ育ち盛りの娘たちに、美味しくて食べごたえのあるものを用意する。パパっと料理しながら、彼女たちと会話を交わした。


「大学は、どうだ?」

「面倒」

「大変かな。でも楽しいよ」

「そうなんだ。今日の授業は? 午後からか?」

「うん」

「私は、朝から一コマだけ受けてきた」


 他愛もない会話をしながら、手を動かす。美味しそうな料理の匂いが店内に広がっていく。


「はい、できたぞ」

「うわぁ、美味しそう!」

「いただきます」


 眼の前に置かれた料理に二人は手を合わせて食べ始める。


「ちゃんと噛んで食べるんだぞ」

「うん、わかってる」

「うまうま」


 娘たちの美味しそうな食べっぷりを見て嬉しくなりながら、誠は下準備を続けた。この後も、続々と娘や妻たちが訪れる予定だから。


 今日もまた、愛する家族たちとの温かい時間が始まろうとしていた。

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