第2話 燈弥とマサムネ

 俺と燈弥が向き合っていると、片瀬さんがやってきた。


「おやおや、まさかバトルをする流れになるとはね! 燈弥くんも剣城くんとバトルができて嬉しいと思うよ」

「剣城は困ってる人を放っておけませんからねー」


 近くの椅子に腰をかけ、おせんべいをバリバリと食べながら堅翔が答えた。完全に観戦モードだ。


「本当、剣城くんは優しいね」

「そうなんですよー。だから僕も大好きなんですよね」


 堅翔と片瀬さんの会話が聞こえてきて、すごく恥ずかしくなって帽子のつばで顔を隠している。


「それでこそ僕のご主人だよ、剣城くん」

「……ユキトまでからかうなよな」


 身体が熱くなってくるのを感じていると、燈弥の声が聞こえてきた。


「よーっし、俺様の相棒マサムネでお前たちを倒してやるからな!」


 燈弥の方をちらっと見ると、パートナーのマサムネの姿がいた。


 ——でかい剣だ!


 マサムネは自分の体くらいある大きさの剣を両手で握っている。一振りされただけでも相当ダメージを喰らいそうだ。


「両手剣の使い手……おそらく攻撃タイプだね」


 片瀬さんが言うと燈弥が頷いた。


「その通り! マサムネはすっげえ力が強いんだ! お前たちなんて一撃で倒してやるよ!」


 ——攻撃タイプだからたくさんチャージできる技の練習をしてたのか?


 でも——


「バトルは力だけじゃ決まらないぞ。戦術、パートナーとの共鳴——いろんな要素が必要なんだぜ」

「そんなもん関係ねえ! 俺とマサムネのパワーで全部薙ぎ払ってやる!」


 けん玉は初心者のように感じたけど、余裕そうな様子だ。


 ——それだけ、パートナーのことを信頼してるってことか?


 それなら俺だって負けない!


「ユキト、相手は攻撃タイプだ。さっきの試練で合格したからチャージ技も増えてる。ユキトの得意技を決めてやるからな!」

「うん、チャージは任せたよ剣城くん!」


 ユキトとハイタッチを交わすと、バトルギアからアナウンスが流れた。


『レディースアンジェントルメーン! さぁ、今回は逢坂剣城選手VS五十嵐燈弥選手のバトルだあああぁぁぁ! お互いに準備はいいか?』


 俺と燈弥はお互いに顔を見合った。


「俺はいつでも大丈夫だ!」

「俺もいつでもいいぜ! かかってこい、逢坂!」


 バトルギアに表示された『準備はいいですか?』のアイコンの『はい』をタップする。


『対戦相手も準備が完了しました。それでは対戦開始まで3、2、1——レッツけん玉ファイト!』


 まずはチャージターン。


 試練を受けるまでは基礎技の四つしか使えなかった。


 だけど——


「ユキトいくぞ!」


 ——俺も好きで、ユキトも好きなけんさきに入れるアレも使えるようになった!


 球を振って、手元に引き寄せるタイミングでけんをクイッと引くことで球を回転させて剣先に入れる技。


「おぉ、見事な『ふりけん』だ! 力の入れ具合も完璧だよ!」

「剣城の得意技だねー! かっこいいよー」


 観戦している堅翔と片瀬さんの歓声が聞こえてくる。

 

「……剣城くん! 今まで以上に力がみなぎってくるのを感じるよ!」

「よかった! けんさきに刺す技がユキトは好きだから、早速ふりけんをやってみたんだ!」


 ひこうきもチャージ技として追加されている。だけど、けんさきに刺すという動作で言えば、ふりけんの方がユキトには向いていると思った。


 ——俺も好きな技だからな!


 この調子でチャージを進めていこう。


 ——相手は攻撃タイプだ。なるべくチャージをしておいた方がよさそうだよな


 もう一度ふりけんを決めた後で、燈弥の方を見て、俺は固まってしまった。


「くっそー! やっぱとめけんは難しいな! 全然穴に入らねえよ!」


 チャージは三回しかできない。その三回ともとめけんに挑戦して、失敗してしまっている。


「燈弥、落ち着かんかい! さっき、あの剣城っちゅー小僧にも言われとったやろが!」

「出来ねえと焦るんだよ!」

「お前の気持ちもわかるけどなぁ……」


 マサムネは頭の後ろをさすってどうしたもんか、と言った表情を浮かべている。


「……なんだかあっちは大変そうだね」

「うん——それに、マサムネの気持ちを燈弥は聞いてるのかな?」


 自分の気持ちばっかり伝えてる気がする。


 ——燈弥は何に焦っているんだろう?


 焦ってるばかりで、パートナーの気持ちも聴けてない。


 パートナーと一緒に楽しみながらけん玉の練習ができればと思って、俺は燈弥とバトルしたかったのに。


 これじゃあ、けん玉を楽しくなんて出来ない。


「……燈弥、俺がバトルで勝ったら、お前が何に悩んでるか教えてくれないか?」

「なっ、何言ってんだ! 俺は別に——」

「じゃあ、いいだろ?」


 俺が笑って言うと、燈弥は一瞬驚いた表情になったけど、すぐに俺から顔を逸らして腕を組んだ。


「わかったよ! じゃ、じゃあ俺が勝ったら……」


 と言って、燈弥はモゴモゴしてしまっている。何か言おうとしているけど、顔が真っ赤になって何も言い出せないでいる。


 やれやれと言った様子で肩をすくめたマサムネが喋り出した。


「おい、剣城! 燈弥が勝ったらまた相手してやってくれへんか? なっ、このとおりや!」


 手を合わせてお願いしてくるマサムネ。そんなマサムネに燈弥は怒鳴り散らしている。


 俺はユキトと顔を見合わせて、それから笑った。


 ——そんなことでいいなら、全然オッケーだ!


「わかった! 負けたら悔しいから、またバトルしてくれるのは嬉しいよ!」

「な、何勝手に決めてんだよ! ……ま、まぁいいけど」


 燈弥は何かに悩んでいる。バトルに勝てばそれを聴くことができる。


 ——この勝負、燈弥のためにも、負けるわけにはいかない!

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