第3話 パートナーとの絆

 マサムネはこのターンチャージができてない。


 俺はユキトの得意なけんさきに止める技、ふりけんでチャージをしたから、ユキトは今まで以上に力がみなぎっている感じだ。


「剣城くん……すごい力だよ」

「うん、見てるだけでもわかるぜ!」


 ユキトの全身からゆらめくようにオーラが出ている。


 ——力が溜まっている証拠だ!


「燈弥、ちょっとやばいんとちゃうか? 俺、全くチャージできてへんぞ!」

「……そ、そんなこと言われたって! 仕方ねえだろ、失敗しちまったんだから!」

「そ、そんな!? 攻撃を受けるのは俺なんやで!」

「その剣でなんとか防ぐんだ!」


 マサムネは頭を抱えてしゃがみ込んでいるけど、覚悟を決めた様子で剣を抜いて立ち上がった。


「俺は逃げへん! どっからでもかかってこいや!」


 喧嘩するほど仲がいいって言うけど、マサムネがちょっと可哀想に見える。


「……なんだか、本気を出しづらいなぁ」


 ユキトが頭の後ろを指すりながら言った。


 涙目で頭を抱えているマサムネを見ると、俺もユキトと同じ気持ちになってしまう。


 でも、勝てば燈弥の困りごとの正体を聞き出せるんだ!


「……あんまり可哀想にならないように、攻撃できるか?」

「……やってみる」


 バトルには勝ちたいけど、あんまり可哀想なことはしたくない。


 ユキトも同じ気持ちだったようで、頷いてくれたからよかった。


「それじゃあ、行くよ!」


 ユキトは掛け声と共に、剣に手を添えて、腰を落とした。


「マサムネ、来るぞ!」


 燈弥の声と共に、ユキトが一瞬にしてマサムネのそばまで移動した。


『おおーっと! ユキトがチャージの力を解放して一瞬にしてマサムネまで接近したぞおおおぉぉぉ!』


 実況の声が室内に鳴り響く。


「は、速すぎやろ!」

「悪いね、剣士として勝負には負けたくないんだ。抜刀——」


 マサムネは剣で防ごうとしたけど、それよりも早くユキトが剣を振り抜いた。


「——瞬神・煉獄一閃ッ!」


 ユキトの剣がきらめくと同時に、炎が一気に広がって、その形がまるでもう一本の剣のように現れた。


 まっすぐに伸びた“炎の剣”が、マサムネの胸元をまっすぐ斬り裂いた!


「ぐあああぁぁぁッ!?」


 マサムネは叫び声を上げた。


『ユキトの煉獄一閃が決まったあああぁぁぁ! マサムネ、大丈夫か!?』


 ユキトの技でマサムネは吹っ飛んで、壁に激突した。


 剣をしまうユキトを見て、マサムネはボロボロになりながらも、苦笑いを浮かべながら言った。


「そんなん、かっこよすぎるで。ズルいやろ……」

「おい、マサムネ! 立ってくれ! まだ勝負は終わってない!」


 苦しそうなマサムネに、燈弥が必死な様子だけど、立てって言っているのを聞いて俺は我慢ができなかった。


 マサムネの気持ちを全く考えていない燈弥の言葉に。


「もう、やめてやれよ! これ以上戦うのはマサムネが可哀想だろ!」


 つらそうなマサムネの姿を見て俺は、思わず怒鳴ってしまった。


 燈弥は少しびっくりした様子だったけど、目つきを鋭くして言い返してきた。


「……俺は、早く強くならないといけないんだよ! こんなところで負けてられるか!」


 ——どうしてこんなに焦ってるんだろう


 わからないけど、負けたくないんだったら——


「じゃあせめて、マサムネの声を聞いてやれよ! けん玉バトルは一人でやるもんじゃない!」


 燈弥は何かを言い返そうとしていたけど、片瀬さんが遮った。


「剣城くんの言うとおり。燈弥くんが僕の試練に不合格の理由はこれだよ。パートナーとの共鳴。君からはそれ見ることができなかった。もっと、パートナーの声に耳を傾けなきゃね」


 燈弥は何も言い返すことができない様子で、悔しそうにその場に膝をついた。


「……マサムネの……声?」


 燈弥が少し落ち着いた雰囲気になったから、俺も気持ちを落ち着けよう。


 深呼吸をしてから俺は燈弥に言った。


「片瀬さんの言うとおり、けん玉バトルは、剣術師とパートナーとの絆が必要なんだ。お互いに心を通い合わせて初めて楽しいバトルができる」

「絆……」


 燈弥は静かにマサムネを見つめている。


 それから、床にはポタポタと涙が落ちはじめた。


「……ごめん、マサムネ。俺、強くなりたくてお前に無茶ばっかり言ってた!」

「燈弥のことは俺が一番わかっとる。強くなりたい気持ちもな。せやから——」


 マサムネは苦しそうな表情だったけど、頑張って立ち上がった。


「——俺の声を聞いてくれるか、燈弥?」

「……わかった! まだやれるか?」

「正直しんどいけど、やる気になった燈弥を放っておけんからなぁ」

「……ありがとな」

「気にすんな!」


 握手を交わす二人の様子を見ていると、なんだか胸が熱くなってくる。


 それから少し燈弥とマサムネが何かを話した後で、燈弥が俺の方を向いた。


「逢坂! 次のターンはこうはいかないぞ!」


 燈弥の目つきからはさっきまでの焦りの様子が消えて、勝負に真剣になったように感じる。


「そうみたいだな。でも、俺たちだって負けないからな!」


 ——けん玉バトルはやっぱりこうでなくっちゃ!

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