第四章 ライバル登場! 燈弥とのバトル

第1話 楽しむ気持ち

 燈弥はまだ球の揺れている状態で、とめけんを決めようと球を高く振り上げ——けんさきで球を迎えていたけど、穴がずれていたから成功しなかった。


「あーくそ! また失敗じゃん!」


 悔しそうにしている燈弥に俺は声をかけた。


「とめけんを成功させたかったら、球が揺れるのを待ってからやってみたほうがいいぜ」


 いきなり声をかけたからか、燈弥は俺のことをムスッとした表情で睨みつけてきた。


「……誰だよお前」

「俺は、逢坂剣城。それから——」


 と言って堅翔の方を振り向くと、堅翔は笑顔を燈弥に向けた。


「僕は中村堅翔。よろしくねー」

「……俺は、五十嵐燈弥だ」


 燈弥のことは片瀬さんから聞いているから知っているけど、燈弥は小さな声で自己紹介をしてくれた。


 自己紹介も終わったことだから、さっきの質問に戻ろう。


「燈弥はとめけんの練習をしてるのか?」


 燈弥は頷いた。


「あぁ、でも全然できねえんだよ」


 そう言って燈弥はもう一度とめけんの構えを取って技をやってみせたが、やっぱり球が揺れているからけんさきに球を入れることはできていなかった。


 ——うーん、やっぱり焦ってる感じだ


 でも、けん玉は焦ってやると、技ってなかなか決まらない。落ち着いて一つ一つの動きを丁寧にやると成功できるんだ。


「ちょっとお手本見せるな——」


 落ち着いて、球が止まったところで、球が動かないように高く上げる。それから剣先を球の下に滑りこませて——カチッと言う音が響いた。


「——こう言う感じだ。ゆっくりとやってみればできるぞ」

「ゆっくりか……」


 燈弥は目を瞑って、球の揺れがおさまるのを待った。それから球を振り上げた——


「って、球の上げ方が乱暴すぎるだろ!」


 揺れがせっかく収まってから上げていたけど、上げ方が乱暴だったから球がぐらついて失敗してしまっていた。


「くっそー! ゆっくりやったけど、失敗したじゃねえかよ!」


 悔しそうに叫ぶ燈弥の肩に手を置いた。


「球を上げる時に力を入れすぎてるんだ。もっと力を抜いて——」

 

 焦らないでやるように伝えようとしたけど、燈弥が俺の腕を振り払って、突き飛ばしてきた。


「うるせえよ!」


 その反動で俺は尻餅をついた。


「うわー、剣城大丈夫!?」

「いてて、大丈夫……」


 燈弥を見るとやってしまった、と言うような慌てた表情をしていたけど、俺と目が合うとすぐに睨みつけるような表情に変わった。


「どうせ俺は、けん玉が下手くそだよ……」


 突き飛ばされてちょっとムカッとしたけど、燈弥の泣きそうな顔を見ていたらその気持ちはふっとんだ。


「……こんなんじゃ、いつまで経っても……」


 ——悔しい気持ちはすごくわかる……


 俺も昔は技が上手く決まらなくて、悔しい気持ちだった。でも、何度も練習しているうちにできるようになった。


 それが嬉しくて今でも色々な技を練習したり、色々な技に挑戦している。


 ——だから、燈弥にも、けん玉って楽しいんだって思ってほしい!


 立ち上がって、お尻をパンパンと叩いてから、俺は燈弥にバトルギアを見せつけた。


 ——楽しくけん玉ができるようになるには、これしかないよな!


「じゃあ燈弥、バトルしようぜ! 俺もさ、初めてバトルができるようになった時、めちゃくちゃ嬉しかった。バトルをしたらけん玉をもっと好きになれる——今よりも、ずっとな!」


 燈弥は一瞬驚いた表情をしていた。それに、どういうわけか嬉しそうなのに、泣きそうな顔をしている。手をぎゅっと握って堪えている様子だ。


 ——どうしたんだろ?


 顔を腕で拭った後で、燈弥は俺を睨みつけ指を刺してきた。


「……いいぜ。逢坂、絶対に負けないからな!」

「俺だって、負けないからな!」


 ——せっかくだから、さっき試練に合格して使えるようになった技も試してみよう!

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