第6話 教室での出会い

 堅翔に向かってVサインをすると、堅翔もVサインをし返してくれた。


「剣城も合格おめでとう! とめけん、めっちゃ決まってたよー! ユキトとの連携もうバッチリだったね」

「あ、ありがと……」


 気持ちのいい笑顔で言われるとちょっと恥ずかしくなってくる。恥ずかしさを紛らわせるために頭の後ろに手を当てていると、堅翔が腕を組んだ。


「それにしても、片瀬さんも言っていたけど、本当にけん玉バトルを始めたばかりとは思えないよー。剣城とユキトの息もぴったりだったね!」


 けん玉バトルにはずっと憧れてた。


 十歳になったら絶対にやってみたいって。


「父さんの影響で、小さいころからけん玉が好きだった。母さんにはナイショで、堅翔たちとこっそり練習してたもんな」

「そういえば、剣城は誰よりも楽しそうにけん玉の練習をしてたよね。それが、強さの秘訣かー」


 勝手に納得した様子の堅翔だったけど、俺にも正直分からない。


 ユキトがすごいパートナーだって可能性だってある。


 俺はまだまだ駆け出しの剣術師だ。


 ——でも、いろいろな試練を受けて強くなってやる!


 そして、いずれは片瀬さんや、憧れの和馬と本気のバトルがしてみたい!


「うんうん、若いっていいなぁ。僕も、昔は君たちのように、熱く友達と語り合っていたものだよ」


 片瀬さんが試練監督としてじゃなくて、いつもの優しい笑顔で言った。


「強さの秘訣は、君たちに今日感じてもらった『共鳴』ももちろんある。だけどね——」


 と言って、片瀬さんは顔の横で人差し指を立てた。


「——剣城くんの言う通り。何よりもけん玉を心から楽しむこと、これが一番大切だよ! うまくなることも大事だけどね、楽しいって気持ちがあるからこそ、続けられるんだ」


 ——けん玉を心から楽しむ、か


 俺は父さんから教えてもらったけん玉が、大好きだった。いろんな技に挑戦して、難しい技ができるようになった時はそれはもうすごく嬉しかった!


 今は、バトルギアを通して、楽しい気持ちを友達と共有できるのはもっと嬉しい。


 俺はけん玉が大好きだ!

 

「そっかー。僕も剣城たちとけん玉をして遊ぶの大好きだよー。体育は苦手だけど、けん玉にだけははまれたもん」


 それから堅翔は俺に笑みを向けた。


「剣城と出会って、けん玉に出会えて、本当によかったよー」

「なっ……何言ってんだよ。……恥ずかしいだろ」


 堅翔から嬉しい言葉をかけられて、全身が熱くなった。顔も真っ赤になってるから見られるのが恥ずかしいから帽子を深く被って顔を隠した。


 でも、気持ちは堅翔と一緒だ。


「……俺も、堅翔と一緒にけん玉ができて嬉しいよ」

「えー? 剣城何か言った? 聞こえないよー」

「お、俺も堅翔と一緒にけん玉ができて嬉しいって言ったんだよ!」

「なんで剣城怒ってるのー?」

「ご、ごめん。怒ってはないけど……」

「じゃあどうして大きな声出したのさー」

「そ、それは……」


 そんな俺と堅翔のやり取りを片瀬さんは笑いながら見つめていた。



 試練場から出ると、ツンツンとした黄色い髪の男の子が、おでこから垂れる汗を拭かずにまだ練習をしていた。


 とめけんを行おうとして、球がぐらついてしまって、上手くはまっていない様子だ。


 かれこれ一時間以上は試練場にいたけど、まだ練習しているのは、けん玉が上手くなりたいからかもしれない。


「彼のこと、気になる?」

「あっ、いや……はい、ちょっとだけ」


 俺が男の子をじっと見ていたからか、片瀬さんが声をかけてきた。


 けん玉をやるのが初めてのような印象だ。俺も昔は、球をうまく持ち上げられなくてとめけんは難しいと思っていた。


 ——なんだか、昔の俺を見てるみたいだ


「最近よく顔を出すようになった子だよ。名前は、五十嵐燈弥いがらしとうやくんだったかな?」

「燈弥……」


 見たことないのは俺たちの通ってる小学校の一学年の人数が多いからか、もしくは、別の学校に通ってるのかもしれない。


「そうだ、剣城くんや堅翔くんからも彼にアドバイスしてくれないかな?」


 顔を見合わせている俺たちに片瀬さんは続けた。


「二人とも集中していて気づいていなかったかもしれないけど、君たちの試練の様子を、ずっと見てたんだよ。彼、君たちの前に受けて落ちちゃってるから」


 全く気づかなかった。


「……堅翔気づいてた?」

「ううん、ぜーんぜん気づかなかったよ」


 俺たちより前に来て、試練に落ちてしまったのか……。


 片瀬さんの試練内容は剣術師とパートナーの絆——『共鳴』する力を見極めるものだった。


 ——燈弥にはそれがまだ足りないのかもしれない。


 見たところ、けん玉を使うことも最近のように感じるから、それが理由かもしれない。


 それに、技が決まらないたびに、燈弥は苦い顔をして、ギュッとけん玉を握りしめている。悔しさというより、不安そうに唇をかんでいた。


 ——なんだか、けん玉が好きでやってるって気持ちより、できなくて焦ってるように感じるな。


「二人とも、お願い! 良かったら、彼の様子を見てくれないかな」


 片瀬さんにお願いされてしまったら、俺は断れない。


 堅翔を見ると、笑っている。


「いいよー。剣城は困ってる人がいると、放っておけないもんねー」

「ありがとな、堅翔!」


 ——よし!


 一緒に練習する仲間がいれば、きっと燈弥にもけん玉は楽しいものだって言う気持ちも届くはずだ。


 俺たちは、黄色い髪の少年に声をかけた。

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