第5話 一緒に強くなろう
ユキトは頷くと、ミズキの方を向いて剣に手を当てた。
ユキトの足元に赤い紋様が出現した。ユキトの周りが一瞬揺らめいたかと思うと、次の瞬間にはミズキのすぐそばまで近づいていた。
「……ッ!?」
「抜刀——」
ユキトの素早さにミズキが驚いた様子で目を見開いている。ミズキが剣を構えるより早く、ユキトが剣を振り抜いた。
「
炎をまとったユキトの剣が、空気を裂くように閃いた。炎の形が、まるで龍のように形を変えてミズキに襲いかかった。
——かっけえ!
だけど、ミズキは吹っ飛ぶことなく剣でユキトの攻撃を持ち堪えていた。
そして——
「ミズキ、ストップ! これはバトルじゃなくて試練!」
目つきの鋭くなったミズキがユキトの剣を振り払って反撃しようとしたけど、片瀬さんが止めてくれた。
静かになった会場に、ユキトの剣が床に刺さる音が聞こえた。
名残惜しそうにしていたけど、ミズキは剣をユキトから遠ざけた。
——速すぎて全然見えなかった……
まるで水が流れるように、素早い動き。
今のがミズキの本気なのか?
「全く——って僕もちょっと興奮しちゃったから、ミズキにも伝わっちゃったかな?」
「主人の本気を感じましたよ」
「まぁ、本気でやれば、ただじゃ済まないことになってたからね」
「ご安心ください。試練ということは弁えています」
片瀬さんとミズキが笑い合っているけど、俺はそれどころじゃない。ユキトも尻餅をついて呆然としている。
だけど、すぐにユキトは帽子のつばを前に戻して深く被り直していた。
「……ユキト」
「全然見えなかった……。剣士が命の次に大切な剣を吹っ飛ばされるなんて、情けない」
床をドンッと殴りつけるユキト。顔からキラっとしたものが床に落ちた。
俺たちは今日バトルギアを始めたばかりだ。強い相手はいくらでもいる。
——でもそっか、ユキトは悔しかったのか……
ユキトには励ましてもらってばっかりだったけど、今度は俺が励ます番だ。
俺はそっとユキトの肩に手を置いた。
「俺も剣術師としてはまだまだだからさ、これから一緒に強くなって行こうぜ!」
「剣城くん……」
「それに、けんさきに決める技はまだまだある。俺もユキトの力、もっと引き出してみせるぜ!」
笑ってみせると、ユキトは悔しそうな表情から笑顔に戻った。
「……ありがとう。僕ももっと強くなるよ!」
「うん!」
俺とユキトが握手をしていると、片瀬さんが拍手をした。
「君たちには僕の試練なんて必要ないくらいに『共鳴』しあっているね。絆も今日バトルギアを始めたとは到底思えないよ!」
「そんなこと——」
ないって言おうと思ったけど、その前に片瀬さんが言った。
「そんなことありまくりだよ! 僕もミズキも君たちの攻撃には驚いたよ。本気で相手をしてみたいって思ったくらいだ!」
そんなふうに言ってもらえるのは嬉しいけど、本気の片瀬さんとミズキにはまだまだ勝てる気がしない。
——もっと、試練を受けて強くなるしかない
拳をギュッと握っていると、バトルギアからアナウンスが流れた。
『試練監督片瀬蓮斗の基準に達しました。逢坂剣城選手『共鳴』の称号獲得です』
バトルギアの画面がきらめき『共鳴』の文字が金色に輝いた。効果音が響き、画面全体が祝福するように光を放っている。
「『共鳴』の称号は、技のうまさだけじゃ取れない。君たちみたいに、心で繋がってることが大事なんだよ!」
——心でつながる……
ユキトを見る。
ユキトの悔しさも俺には理解できた。もっと強くなってやる!
一緒に、だ。
「やった! 一つ目の称号ゲットだぜ!」
「剣城くんおめでとう!」
ユキトとハイタッチをかわした。
——もっといろんな称号をゲットしてやるぜ!
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