第4話 堅翔とゴウ

 バトルギアから実況の声が流れ出した。


 さっきまでの女の人の声じゃなくて、男の人の声に変わった。いつもテレビで聴いていた実況の人の声だ。


『さぁ、始まりました! 逢坂剣城選手と中村堅翔選手のけん玉バトル! まずはチャージターンだ!』


 チャージターンでは、けん玉の技を三つ決めることができて、パートナーの力を溜めることができる。三つとも成功するとたくさんチャージができる。


「剣城なら知ってると思うけど、決めた技の難しさでチャージゲージをどんどん貯めていくことができるんだよねー」


 そう言いながら、堅翔はけん玉の技を決めている。『ふりけん』に『日本一周』。それから『とうだい』を決めた。


『おーっと、中村堅翔選手! 難易度の高い技を決めてチャージゲージを貯めていく!』


 ゲージがたくさん溜まったからか、ゴウも盾と槍を構えてやる気満々といった様子だ。


「俺だって——」


 大皿、小皿、中皿、最後はけんに玉をさして世界一周を決めたけど、バトルギアからアラームが鳴った。 


『逢坂剣城選手、試練に合格していないため、世界一周によるチャージは認められません。基礎技によるチャージをしてください』

「えっ……!?」


 頭が真っ白になった。


 そうだ、俺はまだ試練を受けてなかった!


 試練に合格しないと難易度の高いチャージ技は使えないんだ。早く堅翔とバトルがしたくて、すっかり忘れてた。


 つまり、使えるのは『大皿』『小皿』『中皿』『とめけん』のたった四つだけ!


 俺は頭を抱えた。


 ——宣戦布告したけど、俺ってまだ試練受けてないから、四つの基礎技で戦うしかないじゃん!


 絶望だ……。


 堅翔が笑いながら言った。


「これでも、称号を二つ持ってるからねー。剣城、悪いけどプリンはもらったよ!」

「くっそー……」


 でも、やると決めた以上、いまさらなしにしてくれなんて言えない。


 それに——


「剣城くん、大丈夫! 諦めないで戦おう!」


 ユキトが励ましてくれる。本当にお兄ちゃんみたいで、胸があったかくなる。


 ——すっごく頼りになるな!


「うん!」


 深呼吸してから、俺は四つの基礎技の中でも難易度の高い「とめけん」を三回連続で決めることができた。


 ——普段練習で技を決める時よりも緊張する……


『チャージタイム終了! さぁ、第一ラウンド! バトルスタート!』


 実況の声と同時にユキトとゴウが動き出した。


 ——チャージが溜まった分、ユキトの一撃も強くなるはずだ。


 素早さはユキトの方が早かった。一瞬でゴウのそばまで移動したかと思ったら、即座に剣を抜いて攻撃をした。


『まずは逢坂選手のユキトの攻撃だ!』

「抜刀——炎撃斬えんげきざんッ!」


 ユキトの剣から炎が噴き出して、ゴウに向かって振り下ろされた。


 ——かっけえ!  


 だけど——


「ゴウはあんまり素早くないけど、防御なら誰にも負けないよー!」


 ユキトの攻撃は、ゴウの大きな盾で防がれてしまった。


 それからすぐにゴウが槍を構えた。


「……岩砕突がんさいづき


 ゴウの低い声と共に、鋭い槍の攻撃がユキトに突き出された。ユキトは後ろに下がって攻撃をかわしていたけど——


『岩砕突の鋭い攻撃の反動で、ユキトが吹っ飛んだぁぁぁ! 大丈夫か!?』


 地面に倒れ込むユキトに俺は駆け寄った。


「大丈夫!?」

「……あぁ、まだ大丈夫。剣城くんのお友達は中々手強いね」

「……うん」


 やっぱり、チャージの威力が堅翔の方が強い。ユキトの攻撃が全然通じなかった。


 技も基礎的な技しか使えない俺じゃ、勝てっこない……。


「でも、諦めるのはまだ早いよ」

「えっ?」


 ユキトはまだ諦めていない様子だ。それに、さっきよりも目に力がこもっているように感じる。


「剣城くん、諦めなければ勝機は見えてくる。チャージを続けてくれないかな?」


 ユキトがいなかったら俺はもう諦めていた。


 でも、ユキトがいてくれるからまだ頑張れる。


「……分かった。だけど、無茶だけはしないで」

「もちろんさ」


 立ち上がりバトルに戻るユキトの背中を見ながら俺は拳を握った。


 ——まだだ。まだ終わってない!

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