【27】谷村哲郎からの取材記録 2025年8月26日(火曜日)

以下は神戸日日新聞社会部記者五十嵐慎哉いがらししんやによる、谷村哲郎たにむらてつろう消防士長への取材時の録音記録である。

尚、録音に関しては、神戸日日新聞社の取材規定に則り、事前に取材対象者からその旨了解を得ている。


***

「谷村さん。本日はお忙しいのに取材に応じて下さって、ありがとうございます。

出来るだけ手短に済ませますから、よろしくお願いします」


「ええ、ご遠慮なく何でも訊いて下さい。

ただ、緊急出動になった場合は許して下さいね」


「勿論です。そしたら早速始めますね。

谷村さんにお訊きしたいのは、震災の時の話なんですわ。

もう30年経ちますんで、もし憶えてらしたらで結構なんですけど。

谷村さんが救助された、紀藤宗也という、当時八歳の男の子の件なんです」


「ああ、その子のことは、よう憶えてますよ。

救助した時にニュースで取り上げられて、私もお宅の新聞に載りましたからねえ」


「そうでしたよね。その新聞記事を見て、今日訪ねさせてもらったんですよ。

それでその時救助された宗也君の様子ですが、特に変わったこととかは、なかったですかねえ。

勿論、八歳の子が二日間も瓦礫の下に埋まってたんですから、普通の状態やないのは分かってるんですけど」


「変わった様子ねえ。

あの子は怯えるには怯えてましたけど、記者さんが言われるように、あの状況やったらあれが普通やったと思いますよ。

ただ、あの子を助けた時の状況が、かなり異常でしたねえ」


「異常と言うのは?」


「震災の朝あの家には、あの子のお爺さんも一緒におったんですけど。

私らが瓦礫を除けて救助に入った時には、お爺さんの方は残念ながら、瓦礫に埋もれて圧死してたんですよね。

それでそのお爺さんの腕だけが、瓦礫の下から外に延びてて、あの子の足を手で握って離さんような状態で見つかったんですよ。

あれ見て、私ら全員寒気がしましたね。

一体どんな意図があって、孫の足を握って離さなかったんでしょうね。

私らが無理矢理子供の足から手を引きはがしたら、くっきりと紫色の痣が出来てましたもん。

相当な力で握ってたんでしょうね。

ほんまに恐ろしかったですわ」


「そんなことがあったんですか。

それは宗也君が後から怯える筈やなあ。

いや、ありがとうございます。

僕が訊きたかったんは、正にそのことですわ」


「え?もう終わりですか?」


「はい、ピンポイントで貴重な情報頂きましたんで。

ほんまに今日は、ありがとうございました」

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