【05】外山正志からの取材記録 2025年5月7日(水)

以下は神戸日日新聞社会部記者五十嵐慎哉いがらししんやによる、外山正志そとやままさし氏への取材時の録音記録である。

尚、録音に関しては、神戸日日新聞社の取材規定に則り、事前に取材対象者からその旨了解を得ている。


***

「改めまして外山さん。

今日はお忙しいのにお時間とってもろて、ありがとうございます。

神戸日日新聞社会部の五十嵐慎哉いがらししんやです」


「ああ、今日は宴会の予約も入ってないし、店の仕込みはもう終わってるから全然かまへんよ。

それより新聞記者の人に会うの、初めてやから何やごっつう緊張するわ」


「僕も東中ひがしちゅう出身なんで、後輩の話聞く思て、あんまり緊張せんといて下さい」

「へえ、あんたも東中とんちゅう出身かいな。何年卒業?」

「平成18年です」

「それやったら三年後輩やから、俺らとは被ってへんな」


「そうですね。外山さんの卒業と入れ替わりで入学ですわ。

そしたら、早速始めたいんですけど、よろしいですか?」

「ああ、構へんよ」


「ありがとうございます。ほな始めますね。

今日お時間もろたんは、外山さんの中学時代の話を訊きたいからなんです?

東中の同級生に、廉井徳夫やすいとくおいう人がいてませんでしたか?」


「廉井徳夫。廉井徳夫ねえ…。

そんな奴、同級生におったかなあ。

せやけど、どっかで聞き覚えのある名前やなあ。

それであんた、何でその廉井いう人を探してんのん?」


「実は同じく外山さんの同級生の、紀藤宗也きとうそうやさんから、廉井徳夫さんを探して欲しいと頼まれたんですわ」


「同級生の紀藤?紀藤ねえ…。

ああ、あの紀藤か。思い出したわ。

それでその廉井徳夫については、何か手掛かりはあんのん。

ここまで出掛かってる気もすんねんけど、何か取っ掛かりがないと思い出せんわ」


「紀藤さんから預かった写真があるんですよ。

この中に廉井さんがおるんやないかと、紀藤さんは仰ってるんです」


「え?写真があるのん?ちょっと見せてくれる?

ああ、これ中一の一学期の校外実習の時の写真やな。

六甲牧場行った時や。懐かしいなあ。

せやけど、この中に廉井徳夫はおらんで

これは苅田、こっちは杉村、それから高木。

それからこいつが紀藤やな。

女子は関係ないやろ」


「この中にはいないんですか?」

「おらんなあ。

この中に廉井とかいう奴はおらんで。

間違いないよ」


「そうですか。廉井さんはこの中にはいてませんか」

「おれへんなあ。

せやけど廉井徳夫の名前には、どっかで聞き覚えがあるねんなあ。

ひょっとして他の同級生におったんやろか」

「…」


「それより、もう一回写真見せて。

ああ、やっぱり。

女子の中に花山沙織がおるな。

あの子は気の毒やったなあ。」


「何で気の毒なんですか?

花山さんという方に何かあったんですか?」


「この子なあ、一年の夏休みに死んでもうてん。

学校で首吊ってな。

そうかあ。あれからもう、二十年以上も経つねんなあ」


「そんなことがあったんですね。

ああ、でも、僕が東中入った時、そんな話を聞いた覚えがありますわ。

思い出しましたわ」


「ああいう話は、後後まで残るねんなあ。

ところで話変わるけど記者さん。五十嵐さんやったっけ。

あんたも震災の時、神戸におったん?」

「はい。僕は生まれも育ちも神戸なんです」


「そうかあ。そしたらあんたも被災したんやね。

あれはほんまに酷かったなあ。

今でも時々夢に出よる。

一生忘れられんやろなあ。


俺らが中学に上がったんは、震災から丁度五年経った年やったから、神戸の町も大分と復興して、賑わいが戻って来とった。

せやけど友達は皆、何かしら心に傷を抱えとったなあ。

丁度町のあちこちに、震災の痕が残ってたみたいになあ。


親兄弟や親戚亡くした奴。友達亡くした奴。

顔には出さんでも、まだ完全に立ち直れてない奴が仰山おったなあ。

あんたの身内は誰か被害にうたん?」


「いえ、幸い皆無事でした」

「ああ、それは良かったな。

うちも幸い身内に被害はなかったけど、小学校の友達何人か亡くしたわ。

あ、ごめん。ごめん。話逸れてしもうたわ」


「いえ、ええですよ

外山さんの中学校時代の話、もっと聞かせて欲しいですわ」


「そうか。ほなら話すけど。

俺らが中学校に上がった年は確か、日本中が世紀末ブームとかで浮かれとったなあ。

あんたも憶えてるやろ?


前の年に<ノストラダムスの大予言>が外れて。

外れて良かったやけど、不思議と皆がっかりしてるとこに、今度は世紀末やったからねえ。

世の中全体が浮かれとったわ。


せやから俺らも何とのう、その雰囲気に呑まれて浮かれとったなあ。

サザンとか、カラオケで歌いまくってたし。

震災のこと、忘れようと思うてたんかも知れんなあ。


中一の時やったら、福山の<桜坂>も流行ったなあ。

女子はMISIAの<Everything>歌えるのが、ステータスみたいになっとった。

あ、ごめん、ごめん。

また話、逸れてもうたな。


その花山沙織いう子とは、同じクラスやってんけど、可愛らしいし性格も良かったから、男子に人気あってん。

俺らも中一になって、随分とませて来とったから、女子と付き合う奴も結構おってん。


それがいつの間にか、花山が俺の連れやった苅田孝雄かりたたかおと付き合い出しててな。

苅田言うんは、そうそう、写真の真ん中で座ってる奴や。

あいついちびりで目立ちたがりやったからなあ。


それで、その苅田が花山と付き合いだしたと聞いて、皆ビックリしとったんや。

羨ましがってる奴も多かったで。

苅田の奴、巧いことやりよったなあって。


せやけど、そのうち花山に惚れてた連中も諦めよってな。

二人が仲良さそうにしてたから、段々とやっかみも聞こえんようになったんや。

二人ともええ奴やったし、俺なんか両方と同じ班で仲良かったしな。

祝福言うたら変やけど、あのまま仲良く付き合いが続いてくれたらええなと、心の中で思っとったんやで。


それがなあ。

8月に入って、すぐくらいやった。

学校から、とんでもない連絡が来てん」


「何の連絡やったんですか?」


「花山がな。俺らの教室で首吊って亡くなった言うねん。

そらあ、びっくりしたで。

翌日全校生徒が学校に呼び出されて、緊急集会やったわ。

校長が全員の前で、花山が亡くなったこと告げたら、一年の女子は結構泣いとったなあ。

花山、ええ子やったから、女子にも好かれとったし。

男子の中にも泣いてる奴がおったわ。

せやけど、その後二学期になって、変な噂が流れてん。

花山、自殺やなくて誰かに殺されたって」


「殺人事件ですか?」

「そうやねん。

現に花山と付き合ってた苅田のとこに警察が来て、事情聴取って言うの?

あれをされて、色々と訊かれたらしいんや」


「多分当時の少年法やと、14歳未満は警察の捜査や刑事責任の対象にはならなかった筈なんですけどねえ」


「ふうん、そうなんやね。やっぱり記者さんやから、よう知ってるなあ。

けど実際警察が来て、色々訊いていったらしいで。

苅田本人から後で直接聞いたから、間違いないわ。

警察が疑っとったんは、花山があの日苅田に、ポケベルで呼び出されたんちゃうかいうことやってん」

「ポケベルですか?」


「そうやねん。

あの時代携帯はあったけど、今のスマホみたいに学生にまで普及してなかったやろ。

中学生が親から持たせてもらえる言うたら、ポケベルぐらいやったやんか。

まあ、俺らの頃には全盛期も過ぎてたけど、それでも友達との連絡は主にポケベルやったなあ。

そやから苅田と花山も、ポケベルで連絡取り合っててん。

当然と言えば当然やわな。

他に連絡手段言うたら、家の電話と公衆電話しかなかってんから」


「苅田さんは何で、警察に疑われたんですかね?」


「警察が苅田を疑ったんは、花山が夜に学校に行ってたからやねん。

苅田が警察にアリバイ訊かれたんが、夜の8時から12時の間らしいから、花山はその時間に学校で首吊ったいうことやろう?

でも不味いことに、苅田はその時間アリバイがなかってん。

あいつの家は震災でおとん亡くして、おかんは夜働きに出てる人やったから、その時間帯は家に苅田一人しかおらんかったんや。

それに加えて苅田はその日にどっかでポケベル失くしてて、それに気づいたんが夜やったらしいねん。

そのことを警察に言うたら、何や余計に疑われた言うて、えらい怒ってたわ」


「そうなんですか。

でも何で警察は、苅田さんがポケベルで花山さんを呼び出したと、思うたんですかね」


「実は警察が疑うのも、無理もなかってん。

何でか言うと、苅田のポケベルが花山の足元に落ちてたらしいねん。

そのポケベルから、苅田に辿り着いたらしいんやけどな。

警察からそれ聞いて、苅田は盗んだ奴が落としたんやと主張したけど、中々信じてもらえんかったらしいわ。

そもそも警察が、花山の自殺を疑ってた理由は分からんねんけどね。

やっぱり自殺にしては、おかしい点があったんやろうなあ。

あっちはプロやから。

鑑識とかが、何かおかしいとこを見つけたんかも知れんね」


「ポケベルに呼び出しメッセージとか残ってたんですかね」

「いや、それはないやろう。

ポケベルは今の携帯みたいに履歴残らんから、着信メッセージ見終わって消したら、それで終わりやったんとちゃうかなあ」


「ああ、成程。僕はポケベル使ったことがないから、よう分からんのですけど、そうやったんですね。

その後、苅田さんの疑いは晴れたんですか?」


「いやそれが、グレーのままやってん。

あんたがさっき言うてたように、刑事事件の対象外いうこともあったんか知らんけど、それ以上は追及されんかったみたいなんや。

何か中途半端なままで、警察から結論が出されへんかったから、苅田に対する疑いは残ったままやってん。

それがあかんかってんな。

そんな状況やったら、周囲はどうしても苅田のこと、疑いの目で見るやん。

俺らはあいつの言うことを信じてたけど、そうやない奴もようけおったからなあ。


結局苅田は学校に来辛きづくなってもて、家に引き籠ってしもたんや。

俺らが行ってもうてくれんし、そのまま卒業まで学校にも出て来んかったんや。

可哀そうになあ。

あれ以来苅田の顔は見てへんねん。

今でも引き籠ってるんやろか」


「成程。そんなことがあったんですね。

それで花山さんや苅田さんの件と、廉井徳夫さんの件は関係ありますんやろか」


「あ、ごめん、ごめん。

また話が逸れてもうたね。

廉井徳夫なあ。どっかで聞いた名前なんやけどなあ。

多分花山の事件に関係してたんちゃうかと思うねん。

何や、俺も気になって来たわ。

そや。俺の中学以来の連れで、杉村啓司すぎむらけいじいう奴がおんねんけど。

あんた時間あんねんやったら、これから呼び出してみよか?

あいつやったら、何か憶えてるかも知れんわ」


「ええ、是非お願いします」

「よっしゃ。ちょっと待っててや」

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