第15話 秘密の継続と募る不安
十二月の聖夜に、悠人(ゆうと)と葵(あおい)の関係は、物理的にも精神的にも、もはや後戻りできないほど深く、密接なものとなった。一線を越えた罪悪感と、抗いがたい幸福感が悠人の心の中でせめぎ合っていた。しかし、彼らは、その深く結びついた関係を、家族の目から隠し通すことに細心の注意を払って生活していた。リビングではごく普通の従兄妹として振る舞い、健一(けんいち)と朋子(ともこ)の前では、決して秘密を悟らせないよう、互いに警戒し合った。
年が明け、二月にはセンター試験、そして私立大学の一般入試が本格的に始まった。佐倉家全体が、葵の受験の空気に包まれる。悠人は家庭教師として、葵の受験勉強をこれまで以上に全力でサポートした。夜遅くまで、二人で机に向かう時間が増える。参考書を広げ、真剣な表情で問題に取り組む葵の姿を見るたび、悠人の胸には様々な感情が去来した。彼女の夢を応援したいという純粋な気持ちと、同時に、自分たちの秘密が、もし露見すればその夢を根底から壊しかねないという、漠然とした不安が常に付きまとっていた。
悠人には、譲れない一線があった。性的な接触において、彼に主導権があるときには、必ず避妊具を使用し、細心の注意を払っていた。 彼は親からの「万が一のことがあれば入り婿になって責任を取ってもらう」という重い警告を、彼が真剣に受け止めている証だった。そして、悠人は、葵に対しても避妊の必要性を明確に伝えていた。
「葵、俺は、葵と葵の将来のことを真剣に考えている。だからこそ、これからの人生計画や家族計画も、じっくりと、きちんと考える必要があるんだ。今は、万が一にも葵を妊娠させるわけにはいかないんだ」
真剣な悠人の言葉に、葵は嬉しそうににこにこしているだけで、分かっているのかいないのか、返答を曖昧にごまかしていた。その反応に、悠人は葵が事の重大さを本当に理解しているのか、それとも意識的に責任を回避しているのか、判断しかねる複雑な気持ちになった。これは葵だけの問題ではない。もし妊娠などすれば、悠人自身の将来も大きく変わってしまう。しかし、彼の懸念をよそに、葵はただ彼に甘えるばかりだった。
しかし、勉強の合間や夜遅く、葵が悠人の気を引こうと甘えてくる。膝の上に座ったり、疲れたと言って悠人の腕に頭を預けてくる。顔を合わせれば、勉強の合間でも「ねえ、キスして」と唐突に要求され、悠人が戸惑うと、葵は強引に唇を重ねてきた。
悠人は理性で耐え忍ぼうとする。彼の誠実な性格は、このような秘密の関係を続けること自体に罪悪感を覚えるのに、目の前の葵の行動は、常に彼の欲望を刺激し続けた。疲れた受験勉強の合間だからこそ、葵の無邪気な甘えは悠人にとって抗いがたい誘惑となっていたのだ。
夜遅く、葵が自分の部屋に戻った後も、悠人は一人、自室で不安に苛まれることが増えた。この秘密の関係がいつか露見するのではないかという恐怖、そしてもしも避妊が完全に機能しなかったらという最悪のシナリオが、彼の心を締め付ける。受験の成功と、二人の秘密。その二つの重圧が、悠人の肩にずしりとのしかかっていた。
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